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第二章・ギルドで最低ランクまで落ちてしまったので、リアルを頑張ります。
*五十四・ギガントグリズリー退治・依頼の達成
しおりを挟むしっかりとした手応えを身体からも魔力からも感じた咲希だが、ギガントグリズリーの眼光はまったくおとろえず逆に鋭さをます。
対象的に咲希は今の連続攻撃で大きく魔力を消耗。それは比例して体力さえも大幅に消耗させた。
ギガントグリズリーの一方的な攻撃が始まった。
ダメージ吸収の水晶はすべて砕けちり、防戦一方になる咲希。
それでも気力だけはおとろえない
ーー例えそれが成り行きでも、泣き叫びみっともないことを口走っても、どんなに情けない姿だったとしても逃げないことは大きな意味をもつ。諦めないことも。続けることも。
それらが意味することは勇気であったり、好きということであったり、強さだったり。さまざまなことを意味する。
それらは人を成長させ強くさせる。
花梨は魔力ゼロだ。怖くない訳がない。
わたしだったらーーもし魔力ゼロでこんな場所に来たら逃げ出すどころか、洞窟の入口にすら近寄ろうとしないだろう。
つまり花梨にはそれだけの何かがあるはずだ。
それに応える為に、咲希は最後まであがく。
ギガントグリズリーの攻撃を受け続けた咲希は、いたるところが深く傷ついている。
それでも目だけは死んでいない。
だからこそ花梨はすぐに助けなかった。咲希から何かを感じ取った花梨は、それを見届ける為にギリギリまで手を貸さない。
咲希を成長させる為に。
魔族の血が流れているのだ。いざという時のために、ちょっとでも自身で対処させる為に。
それでも限界ギリギリを感じ取った花梨は、咲希へ近付き自身の異質な魔力を一気に解放。余波で強制的に咲希の意識を奪った。
異質な魔力の余波は、追撃するように追いかけてきた狼をいとも簡単に吹き飛ばし、ギガントグリズリーですら後ろへ下がらせる威力だ。
花梨は放出している自身の魔力を右指先へ集め、指輪の魔力も加えて突風を放つ。
それは細い風の渦となり、反応が出来なかったギガントグリズリーの焦げた腹部へ直撃する。
うめき、ギガントグリズリーは爪が鋭い手のひらを振りかざし落とす。
花梨は右の片手のみで落とされたそれをつかみ、内へひねりギガントグリズリーを地面へ叩き付けた。
花梨はギガントグリズリーを見下ろして、自身の魔力に、指輪の魔力を加え蒼い陣を描いて、
「高めるは風の渦。集え、我の魔力のもとへ」
言霊をのせる。
花梨は陣を描いて言霊に意味を持たせた魔力を、右の手のひらに集めて魔力のナイフを形成。その魔力のナイフを、ギガントグリズリーの脳天目掛けて一気に振り落とした。
ギガントグリズリーは脳天から完全に左右へ身体が切り裂かれ、切断面は血が出ない程に焼かれていた。
まっ、こんなもんかな。でも今のスピードだと西尾お兄ちゃんクラス通じないだろうけど。
花梨はそう心の中でつぶやいて視線を移す。
意識を完全に刈り取ったつもりでいたが、この時まで意識がうっすらと残っていた咲希へ。
花梨はそのことに気づけないまま、完全に意識を失った咲希を肩にかかえて洞窟を出て、樹齢何百年もありそうな大木の影へ移す。
それから1分もすぎないうちに、咲希はゆっくりと夢から目を覚ました。
その夢はかすかな意識の中で見た花梨を、完全な別人といっていい程にめちゃくちゃに美化していた。というかまったくの別人だ。咲希自身、花梨と思っていない訳だから。
「お目覚め?」
「わたし達、助かったのね。ところでわたし達は誰に助けられたの? あの状況で助かったということは、どっからが部外者が関わったと思うのですが」
「あ、あ。多分……それ、わたしだよ」
「嘘。全然顔が違うじゃない」
「えっ? わたしじゃなければ、誰なの?」
「知らないです。それより討伐証明部位は?」
「大丈夫だよちゃんと確保しているよ。炎翼の指輪で焼いて消臭処理もしているし」
「わたし達の実力じゃないというのに、抜け目ないですね」
「えっへへ」と花梨は笑って。
こうして依頼人とギルドへ確認を取り、Aランクの咲希の初の依頼は幕を閉じるのだった。
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