魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

文字の大きさ
上 下
44 / 99
第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*四十四・喉元すぎれば熱さを忘れる

しおりを挟む
  
 リゼがバーサク系統の魔法は使うなと伝える前に、ソフィアが不意打ちで言う。

「んじゃ始めましょうか」

 まともに戦えば勝率はほとんどない。
 だからこそパーティー単位で意識は失うが、個人の戦闘力が10倍以上にはね上がるミナギガバーサクにかける。覚えたての魔法だがランク500相手にはそれしかない。
 ソフィアは馬ヤロウの超激レアがめちゃめちゃ欲しかった。勝利して後腐れなくリゼから貰う為に手段は選ばない。それがソフィアだ。

 魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、月属性と火属性。火と風よ我に力を」
 詠唱する。

 途中でリゼが「ま、待て」と言った気がしたが、ソフィアは聞かなかったことにした。負けるのが嫌だったからだ。廃人相手に出ししみはしてられない。安全システムの異常というのも信じられなかったからだ。リゼのことだから、リゼの勘違いだろう。普段のおこないからリゼはそんなイメージしかもたれなかった。

 全身から力がみなぎり。
 リゼとソフィアとリヴァイの意識は途絶えた。

 ーーリゼとソフィアとリヴァイは、巨大な竜の形態へ。
 大きく息を吸い込んで、巨大なブレスを吐いた。

 小春はとっさに自身らを包み込む直径5メートルの巨大なドームを形成。

「やっぱりもしかして本当? ヤバい状況? やっぱり、普通ゲーム内でここまで傷付かないよね」

 瑠璃が肯定する。

「信じてくれて、ありがとうございます。お願いします助けてください」

 小春は即答。
「ん。いいよ」
 花梨も即答する。
「わたしもいいよ」

 戦斧の表情が思わず変わる。

「えっいいのか? しかも即答……いや俺は別か……」

 花梨は深く考えずに言う。

「えっ? 何を言ってるの? 皆で力を合わせてピンチを乗り切ろうよ」

 軽い。
 あまりに軽すぎる。
 戦斧は、花梨に対して何をしたか分かっているつもりだ。
 
 西尾が自身の命を削ったことまでは知らないが、普通なら許されるものではないはずだ。
 花梨は一度、絶望の闇に包まれていたはずだった。

 止まる気配のない猛攻を耐えながら萌衣は、勘違いした萌衣の中だけの真実を打ち明ける。 

「通常じゃあり得ない程の月属性の魔力。封印を解いて自身の命を削ってまで、花梨へ生命そのものと魔力の核のすべてを分け与えたんだから。普通ならいつまでも許さない人もいるかもしれないけど、花梨は、花梨だからね」

 それは早苗が、芽衣へ理解が出来るだろう範囲で意味を端折はしおって説明した結果だ。そのまま異世界の魔力を説明しても混乱するだけだろうから。西尾や花梨がその場にいるなら全てを説明しても良かったかもしれないが、時期が違った。

 この勘違いは、お馬鹿な花梨でも察した。西尾お兄ちゃんと自身の異世界の魔力は異質すぎるのだから。
 小春の性格からして、あの時、あれだけ泣いてしまった理由をほかの人へ説明しても不自然ではない。後の細かいことは、早苗さんか西尾お兄ちゃんに聞いたのだろう。

 だけど花梨は、なんとなくそれがむず痒い。

「萌衣ちゃん微妙に勘違いしてるよ。西尾お兄ちゃんは魔力の核の方は、ちょっとしか分け与えてないよ」

 萌衣は嘘としか思えなかった。
 天界人と魔族の血の力を受け継いで、魔力は普通の人より敏感に感じ取れるし勘も優れているからだ。その萌衣ですら魔力がまったく感じ取れないのだから。 

「西尾さんは現状魔力ゼロ。それは間違いはずだよ」

 寿命が縮んで魔力まで完全に失ったとなれば、原因を作った戦斧への怒りは計り知れないはずだ。
 あれ程泣いていたのにそれをあっさり許す花梨は、馬鹿にしか思えない。

 萌衣は自身の過去と重ねて感傷に浸りそうになるが、状況がそれを許さない。  

 猛攻を止めない巨大な竜らは、小春の結界に小さなヒビを入れた。 

「ごめん。ちょっとこの攻撃厳しいかも……」

 結界は小春が気合いで修復させる。
 花梨は結界の外へ出る。

「こりゃやるしかないね……巨大なトカゲ退治を」

 膨大な異世界の魔力が込められた結界にヒビが入った事実に、全力じゃないと無理だと判断する。

 花梨は月属性の魔力と異質な魔力を合成。
 右の小指は炎翼の指輪へ。
 左の小指は氷翼の指輪へ。
 左右の氷翼指輪と炎翼の指輪へ、自身の異質な魔力と月属性の魔力を合成して注ぎ込みーー背中へ自身を包み隠せそうな程に大きな蒼白い翼を作り上げた。 

 萌衣が反応する。

「花梨、もしかして相手は予想以上に強いの?」

「小春ちゃんの結界にヒビを入れているからね。あれ恐らくめちゃめちゃかたいよ。魔力の込められかたが半端ないもん」

「えっ?」

 萌衣はそう返したのは無理もない。
 花梨は異質な魔力のナイフを両手に形成し、リゼの爪による攻撃を受け止めた。

「説明は後」

「そうだね……ボクも加勢する」

 リヴァイ・緑色の風竜を含み10メートルを越える巨体だ。
 花梨も萌衣も二体を同時に相手をするのはきびしい。 

 ゆえに花梨も萌衣もいきなりの全力だ。
 
 萌衣は右の小指には風翼ふうよくの指輪を。
 左の小指には土翼どよくの指輪を。
 左右の土翼指輪と風翼の指輪へ、自身の月属性の魔力を注ぎ込みーー背中へ自身を包み隠せそうな程に大きな微かに赤みを帯びた白い翼を作り上げた。 

 花梨と萌衣はそれぞれ特殊な魔力を放出、大気中に漂う魔力を巻き込み左右の指輪へ循環させ始める。 

 花梨は大剣・ロリ真夢剛竜剣を握り構え。
 萌衣はナイフ状の百合真夢剛竜剣を握り構え。 
 地を蹴り空を駆けーー
 花梨はリゼという赤く巨大な火竜へ。
 萌衣はソフィアという蒼く巨大な水竜へ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました

平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。 ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】世界一無知のリュールジスは秘密が多い

三ツ三
ファンタジー
突如地底深くより出現した結晶異物体。 無差別に人々を襲い続ける存在。 「アンダーズ」 人類はアンダーズの圧倒的な戦力により大陸の半分以上を受け渡すことを余儀なくされた。 物言わぬ結晶体に人類が今もなお抵抗出来ているのは人間の体内にある「魔力」を利用することで稼働する。 対アンダーズ砕鋼器具「ブレイカー」 腰部に装着することで内に秘められている「魔力」を具現化する事が可能となった人類の切り札。 「魔力」を持ち「ブレイカー」を扱う事が出来る限られた者達。 「リベリィ」 彼等がアンダーズを倒す事が出来る唯一の希望であった。 そんな世界で「リュールジス」は一人旅を続けていた。 「探し物・・・」 混沌とした各地を身一つで歩き続けたが、一通の手紙が足を止めさせ彼の旅を終わらせたのだった。

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...