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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*三十七・戦斧は逃走する

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 現場に着いた戦斧は新しい斧で次つぎと火竜を仕留しとめる。
 新調した斧は水の派生の氷の属性と竜特攻の効果が付与され、さらには以前の使い慣れなた斧と感触がほぼ変わらないファイナルドラゴンクエストの技術には感心の念しか抱けなかった。

 瑠璃も百合真夢柔竜剣を構えて、火竜を次つぎと仕留める。

 瑠璃の実力は戦斧より劣るが百合真夢柔竜剣はチート級のアイテムだ。戦斧が現在使っている氷の竜破りゅうはの斧より攻撃力は5倍以上。しかも火竜の攻撃はパワー任せで、百合真夢柔竜やそのスキルとも相性が良かった。   

 どんどん火竜を仕留めながら足を進めると、奥の方へボスらしき火竜がいた。
 遠目だからこそ、ほかと比べて3倍以上の巨体を容易に確認可能でーー
 10メートルは越えそうな巨体だ。ほかは代わり映えしなかったが迫力はあった。

「戦斧さん恐らくアレはボスです。ゲーム初心者の戦斧さんには分からないかもしれませんが……」

 戦斧はとりあえず訊く。

「その根拠は」

「ほかより巨体で迫力があるからです」

「その考えは素人と変わらないだろう。俺でもそう思ぞ」

「ーーもうお喋りしている時間はなさそうです戦斧さん来ますよ!」

 巨大な火竜は二人の存在に気付き、距離をつめた。
 その右腕の爪による一撃は予想以上に鋭く重く、戦斧は斧で受け止めたがはじき飛ばされダメージを受けた。
 戦斧の竜の水晶へ2500ダメージ。
 戦斧の竜の水晶残り2300HP。

 そのすきに瑠璃はギガ百合スラッシュを放った。
 巨大な火竜へ300ダメージ。
 戦斧は後方へ回り込み、尻尾に斧を振り落とすが反撃されーー竜の水晶へ2450ダメージ。
 戦斧の竜の水晶残り0HP。腕が大きく腫れ微かに血も流れた。熱を帯びる痛さだ。
 
 ーーあり得ないはずだぞ?

 ファイナルドラゴンクエストはかすり傷程度なら別だが、ある程度のレベルを越えるダメージは絶対に受けない。戦斧のようにゲームにうとい人にすら知られている安全性の高いゲームだーー
 だが今受けたダメージはその域を越えていた。

 戦斧は嫌な予感がした。

「逃げるぞ」

「何故です?」 

「俺の水晶のHPがゼロになって、俺自身がこのゲーム内ではあり得ないダメージを受けたからだ。何かしらのバグが働いているんだろう」

「嫌です。逃げるのは臆病者のすることです」

「何故だゲームだぞ? 何考えているんだ? ゲームに臆病者もクソもないだろう? 逃げるぞ」

 戦斧がそう口にしたのは、何となく瑠璃とゲームをした時間が居心地の良いものだったからだ。
 それにゲームで死にかけるなんて馬鹿らしすぎる。
 戦斧は瑠璃が馬鹿にしか思えない。

「嫌ですわたしは戦います。戦斧さんは腰抜けです。ゲームだろうとリアルだろうと、関係ありません」

 戦斧は昔の自分自身を思いだして小さく笑う。 
 馬鹿な俺もちょっとは成長したということかな? けど、どうするか?

「ーー瑠璃のお馬鹿! 逃げるのです!」

 瑠璃の腰に結び付けている月の鈴からいきなり姿を現したのは、黒髪のおかっぱ頭で黒いワンピース姿の女の子だ。 
 瑠璃は意図が分からない。

「いきなり出ないでレレ、びっくりしたじゃない」

「ん? いきなり誰だお前は?」

「瑠璃のパートナーみたいな者です……瑠璃……あなた頭悪すぎです!」

「レレ……俺も同感だ」

 しばらく様子を見ていた巨大な火竜だが、息を大きく吸い込んだ。 
 瑠璃は前に出ようとする。
 けど戦斧とレレは、瑠璃の腕を引きずり逃走を開始する。
 瑠璃は引きずられながらわめく。
 巨大な火竜の炎のブレスを吐いたが、戦斧と瑠璃とレレは間一髪で難をのがれた。

「馬鹿! 馬鹿! 逃げるのは臆病者です! 臆病者イコール馬鹿です!」

 戦斧とレレはほぼ同時に反応する。
「馬鹿はお前だ!」
「馬鹿は瑠璃の方です!」

 戦斧とレレは、瑠璃を引きずり逃げる。
 巨大な火竜は追いかける。その足は思ったより速い。
 戦斧とレレは激を飛ばす。

「馬鹿! 逃げることに専念しろ!」
「逃げることに専念するのです」

 *

 ーー花梨と西尾は射撃ゲームの列に並んでいた。
 西尾君と花梨ちゃんを花梨ちゃんの恋の行方ゆくえを陰から見守り隊の皆も、すぐ後ろに並んでいた。
 本来なら陰から見守るべきなのだが、早苗と小春が面白そうだからと我慢出来なかった。 
 陰から見守り隊を提案した早苗本人が我慢出来ないのは皆が突っ込みを入れたかった。だが皆も遊びたかったので、突っ込みは入れなかった。

 射撃ゲームは屋台専用のオモチャのライフルで玉を打ち出し、景品を倒してゲットするというシンプルな内容だ。
 玉はライフルに火薬の代わりに魔力や闘気を込めて打ち出すというシンプルなスタイルで、込められる最大量は決まっている。
 その為に倒れやすそうな部分を見極める必要がある。

 早苗はそういう能力に長けているから正攻法で楽しむつもりだが、小春は違う。
 まずはライフルそのものを魔力でコーティングして強度を上げ、異質な魔力を圧縮させ闘気と合成してライフルに込めて通常より威力の高い玉を放つ事が可能だ。

 西尾も花梨も可能だ。

 花梨と西尾と小春も正攻法で撃ち倒せるがーー  
 花梨と西尾はなんとなくスカッとしたい。小春は普通にしても面白くないと思った。
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