魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*三十五・戦斧は本格的にゲームを開始する

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 戦斧は即刻拒否する。

「いやいい」

 瑠璃は無視して檄を飛ばす。

「ゲーム内で職業も決めないなんて、馬鹿のすることですよ! 馬鹿の!」 

「いいって言ってんだろ!」

 戦斧は思わず瑠璃を突き飛ばしてしまった。
 瑠璃は手で顔を隠してわんわん泣き出した。
 これには戦斧もあせった。

「分かった。ちょっとだけ付き合ってやるよ」

「ほんとですね」

 瑠璃はピタリと泣き止む。
 戦斧のこめかみに血管が浮かぶ。

「嘘泣きか? テメェの方が卑怯じゃ~ね~ぇか」

「嘘も方便、策略です。約束は守ってもらいますよ」

 ……
 戦斧は馬鹿らしい策略に内心笑ってしまった。

「正直……意味は分からないが付き合ってやるよ。んで、どこに行くんだ」

「そんなの、ギルド・ルイーダに決まっているじゃないですか」

「現実世界の腕っぷしがそのまま通用するからな。まったく気にしたことはなかった」

 ーーギルド・ルイーダへ。

 瑠璃は得意げだ。

「受付嬢のルイーダへ希望の職業を言うのです。というか最初になりたい職業はあるか訊かれたはずですよ」

「なかったんだよ。なりたい職業が……それよりレストラン・ランランランデブーの飯が旨いと聞いてな、その為にゲームを始めただけだからな」

「なるほど。だったら最近本格的に始めたんですか? 落風の洞窟へ行ったり」

「まあそうだな。職業は斧をメインとしたヤツがいい」

「それなら竜の戦士ですね」

「ならそれでいい」

「即決ですか? 職業を悩むのも一つの醍醐味ですよ」

「いいんだよどの道アレだろう。どんな職業にもメリットとデメリットがあるはずだからな。なら、現実で使い慣れた武器を使用する方が有利だろ」

「確かに……」

 戦斧は受付嬢の元へ。

「職業を取得したいんだが?」

「え~と何が良いですか?」

「竜の戦士でお願いする」

 戦斧は白い光に包まれ自身の姿を確認しようとする。
 
「鏡、使います?」

「ん、あるのか?」 

 瑠璃は魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、地属性。その姿を鏡へ」
 詠唱する。 
 描かれた魔法陣が、縦2メートル・横1メートル半の姿見へと変わる。

 戦斧は感心する。けど、 

「こんな魔法もあるんだな。というかほとんど趣味的な魔法じゃあないか? 魔物相手に目をくらませるなら、いくらでも変わりになる魔法はありそうだしな。日常生活にしても魔法でわざわざ鏡を作るというのもちょっとな」

「分かってないですね。こういう趣味的な魔法を集めるのもファイナルドラゴンクエストの醍醐味なんですよ。他には釣りスキルとかあって、釣りが有利になったりしますね」

「……そういうもんか? とりあえず俺自身の姿を確認するか」

 戦斧の変化は胸当てが微妙に黒くなった程度だ。
   
わりえもあまりないしあっさり職業の戦士のなれるのか……なんかつまらなねぇな」

「代わり映えのしないのは基本職のシンプルなアバター装備で、戦斧さんもシンプルだからです……職業を選べてあっさりそれになれるのは、現実的に不可能なことをなるべく早く体験出来るようにする配慮だと思いますよ」

「だけどなんか気分的に欠けるな」

「まあそこらあたりは好き嫌いが分かれるところですが、ファイナルドラゴンクエストは、今のスタイルを選んでヒットしましたね。それに……職業を極めるほうはそれなりに大変ですし、色んなやり込み要素もありますからね。こういうのはやり始めたら意外と楽しいもんですよ」

 戦斧はなんとなく分かった気がした。

「恐らくゲームっていうのはそういうもんだろうな。んで、次は?」

「戦斧さんならそこそこ実力はありそうですし、火竜退治の依頼を受けてみたらどうでしょうか? わたしもちょっとした目的がありますし、戦斧さんにも調度いい難度だと思いますよ」

「ならそれを受けるか。その前に、ちょっと気になった事があるんだが」

「ん、なんですか?」

「火竜の討伐部位とかをクエストを受けず、直接持ってくるとかしたら駄目なのか?」

 瑠璃はひと息置く。

「それでも問題ありませんが、依頼を受けた方が圧倒的に得です。リアルでも、マナの薬草摘みの依頼を受けたらレーダーを借りられるでしょう。火竜退治のクエストなら、火耐性を得られる魔石とか、通常より安く借りられるんですよ。クエストを受けている間はその付近の町や村で、アイテム購入時は割り引きされますし」

「確かに得だな」

「……あとマナの薬草もそうですが、火竜も無秩序に狩っては生態系のバランスが崩れます。そうなると討伐部位が安く買い取られるんです。というか戦斧さん、今までそういう知識もなく脳筋スタイルで依頼をこなしてきたんですか?」

 戦斧は即答する。

「ああ脳筋スタイルだが? そういうのは、あまり深く考えなかったな。それに俺はなぁ、チマチマしたのは嫌いなんだよ。まあとりあえず」

 戦斧は受付嬢・ルイーダの方へ向き直る。

「火竜退治のクエストを頼む。それと、火耐性の魔石も二つお願いする」

「了解しました……戦斧さんのランクは、35ですね。レンタル料は二つで5000ギルになりますが宜しいでしょうか?」

「ああ問題ない」
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