魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*十九・戦斧への怒り

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 花梨は堂どうと胸を張る。

「なら、リアルのそのゲーム内のシステムを使わなかったらいいだけじゃん」

 戦斧はガハッハッと笑う。

「面白い冗談だ。月属性と闘気だけで俺と戦う? 俺を……いや俺だけじゃなくお前は、現実そのものをめているな。お前はゲームをやるべきじゃあなかったな。現実とリアルの区別さえ、つかなくなってしまったんだからなぁ」

 もの凄い馬鹿にされているが、花梨にとってそんなことはどうでも良かった。だけど、

「ゲームは面白いからやる」

「まあゲーム自体が悪い訳じゃねぇからな。実際俺も、ゲーム内の世界で食事をしている訳だしな。だけど花梨や西尾、お前らは別だ。西尾も魔力ゼロの癖してゲームをやるからクズなんだよ。花梨、お前同様にな」 

 ーーわたし自身のことは、まだいい。だけど、西尾お兄ちゃんを馬鹿にすることだけは絶対に許さない。
 決めた、

「ならわたしは月属性を使わない」

 戦斧はガハッハッと笑って、涙まで流し腹まで押さえだしたしたが、顔を上げたその表情は変わっていた。

「花梨お前は、色いろと馬鹿にしすぎだ。俺はなぁ、昔と違ってかなり丸くなったと思っているだよ。風竜の指輪がアホみたいな値段で売れて、お金に余裕があるおかげだろうなぁ。花梨お前は、俺が現実を教えてやるよ」

 花梨は怒りを通り越して静かに笑う。

「それならわたしが、戦斧さんのその現実を打ち砕いてあげるよ」

 花梨は異質な魔力と闘気を合成それを背中へ、自身を包み込めそうな巨大な翼を。それと同質の弓を。そして矢も形成する。
 花梨が宙へふわりと浮かび上がる。

 戦斧は思わず見上げ驚愕に染まる。

「なんだそりゃ?」

「闘気の翼で浮いて、闘気の弓矢を形成しているだけだよ」

「……出来る訳がない」

「わたしは人より、ちょっとだけ器用なんだよ」

 …… 
 戦斧は言葉を失なう。

 器用で済まされる訳がない。
 短剣のように闘気のみを放出することですら高等技術だ。魔力に混ぜるのなら、まだ話は分かる。 

 魔力があり、魔力を扱う事が当たり前の世界で純粋に闘気のみをコントロールして利用するのは異質。
 中には何かしらの理由で魔力を扱えない人が闘気を利用するかもしれないが。 
 例えば西尾だ。
 元もとこっち側の世界の魔力がなく、早苗と違ってその魔力を身に付ける事が出来なかった。
 
 西尾が闘気の短剣を形成する事が出来たのは魔力ゼロだから、一般的な常識やその力がなかったからだと噂されるが単純に実力だった。
 それでも闘気のみで翼や弓矢を形成するのは難しい。 

 だが、異世界の魔力も合わせて使うと話は違ってくる。
 はたからみたら、闘気だけで形成しているようにしか見えない。

 翼と弓矢の形成には当然メリットとデメリットがある。

 弓から放たれる矢はそのまま放つより速度と威力が増すが、タメが必要になる。
 魔力をそのまま纏い宙を駆けるより、翼を形成したら速度は増すが小回りがきづらくなる。

 西尾は翼の形成や弓矢の形成が自身のスタイルと合わなかった。
 花梨はそのスタイルを難なく使いこなせた。
 ーー闘気のみで短剣を形成するのが高等技術なら、魔力をもちいても宙に浮かぶ事すらも高等技術。というか普通なら闘気のみで宙に浮かび弓矢を形成するなど無理。

 つまり戦斧は生まれて初めて、異質なそれを目にした。
 しかも、思い切りゲームにはまった花梨が良く分からない高等技術を使っている。

 つまり戦斧は、ちんぷんかんぷんだった。
 意味が分からなぇぞ!

 戦斧に動揺が生まれ。

 花梨はその隙を見逃さない。
 矢を射った。
 放たれた矢は周囲に漂う闘気・生命力を吸収し、1メートル近くまで巨大化。

 戦斧を貫き竜の水晶へ、15000ダメージを与えた。

 戦斧の竜の水晶残り0HP。
 経験値ダウン~2000。

「闘気術だけ(嘘だけど)の相手に負けるなんて、口程にもないじゃん」

 花梨を、戦斧は認めない。 

「な、なにかの間違いのだ。そうだゲームだ。ゲームの何かしらの変なシステムを使ったんだろう」

 花梨は見苦しいと思う。

「言い訳はめたら。ゲーム内のシステムは意味なかったんだよね? それが戦斧さんの実力だよ……それより月の鈴の中に白い毛玉みたいなヤツがいるでしょう」 

「い、いるが。それがどうした?」

「それを出してもらえる?」

「いいが、いったいそれがどうしたって言うんだよ?」

「いいから出す雑魚」

 この時、戦斧に恐怖が生まれた。
 花梨の怒りがまだおさまらないのは、西尾お兄ちゃんに対して謝罪の言葉が一つもないからだ。それどころか見苦しい言い訳を吐く。
 それが花梨の怒りを更に刺激した。
 気分的には殴りたかったが、殴ったところで意味がないのは分かっていた。

 花梨が求めるのは、西尾お兄ちゃんへの心からの謝罪だ。
 只、それだけ。

 戦斧は意味が分からず言われた通り、月の鈴から白い毛玉を取り出してーー土下座をする。
 花梨が怖かった。今まで見た事のない表情と、急変した冷たい瞳が。半端ない圧を感じた。
 戦斧は恐怖のあまり丁寧な口調になる。

「良く分からないですが、これが欲しいなら差し上げます。後、花梨さんを馬鹿にして……すみませんでした」
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