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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚
*十八・意外な出会い
しおりを挟む萌衣は分厚いステーキを食べてめちゃめちゃ感動している。
「う、旨い口の中でとろける。ボク、こんなに美味しいの初めて食べたよ。だけど、ゲームの中で食料を調達出来るのなら」
花梨はやんわりと説明する。
「萌衣ちゃん、こういうレストランに関してはゲーム内のお金は使えないんだよ。そうしないとゲーム内だけで生活が出来るようになるからね」
小百合が説明を続ける。
「いくらリアルに似せて作っているとしても、所詮はゲームですからね。運営からのサービス・提供が終われば終わりです……リアルとかの絡みとか問題も出てくるので」
萌衣は思った事を口にする。
「逆に食料やリアルのお金さえあったら居続ける事が出来そうだけど?」
小百合は一般的な事実を言う。
「萌衣さんリアルのお金を稼ぐというのは、そんなに簡単なものじゃありません」
萌衣は納得する。
「なるほどそれもそうか」
三人の積み重ねられた皿のタワーに、彰は冷や汗をかいている。
「良く食べるね……」
その心境を小百合は察した。
「お金なら大丈夫ですよ。わたしマホメVチューバなんで月100万円単位の収入がありますから、お金なら余裕があります」
それを聞いた花梨と萌衣は普通に凄いと思ったが、それ以上に食が加速する。
さらにどんどん積み重ねられる皿のタワー。
当然、人目を引き。
その中に戦斧の姿があった。
レストランには似合わない姿で斧を背負い胸当てを装備している戦斧は、ガハッハッと笑いなら語りかけた。
「誰かと思ったら花梨じゃあねぇか。月属性のみでも、ここだとそんなに関係ねぇからな。魔力なしの能無し野郎の西尾ですらゲーム空間だと強くなれる訳だからな」
花梨の怒りのゲージを刺激する。
「……西尾お兄ちゃんを馬鹿にしないで……わたしや戦斧さんより、はるかに強いから」
戦斧は否定する。
「俺はなぁ、現実でも、花梨が実力を付けてきているのを感じているんだ。花梨より西尾は弱いだろう」
花梨は認めない。
「違う……西尾お兄ちゃんは、わたしや戦斧より遥かに強い。雑魚の癖して、西尾お兄ちゃんを馬鹿にするなぁっ!」
過去。
恩を感じている事もあったが、それ以上に嫌悪感も強かった。
当たり前だ。
戦斧はそれだけの仕打ちをしてきたのだから。
二年前に戦斧を助けようとした事もあったが、見捨てる人も多いだろう。
それが花梨の性格だからだ。
ーーそして花梨は強くなった。
強くなる度に、戦斧への過去のうっぷんを晴らそうと考える事も少なからずあった。
だがそれを察した西尾お兄ちゃんに、「復讐なんてやめとけ。案外、気は晴れないものだぞ。むしろ損をする事が多いぞ」と教えられたし。西尾お兄ちゃんがそれを望まないからだ。
ーー西尾お兄ちゃんにファイナルドラゴンクエストを進められ、はまった。
復讐なんて本当にどうでも良くなった。
だが西尾お兄ちゃんの馬鹿にするのだけは、花梨は許せなかった。花梨の中の誇りを馬鹿にするのだけは。
戦斧はガハッハッと笑う。
「だったら、西尾がお前より強いことだけは認めてやるよ」
花梨は認めない。
「違う西尾お兄ちゃんは……」
戦斧は笑いを止める。
「だったら勝負してみるか? 雑魚の花梨が俺に勝てたら、その西尾ってヤツは俺より強い事になるだろう? まあ無理だろうけどな……今の俺には、ゲーム内の強化システムなんて意味がないからな」
花梨は? となる。
「どういうこと?」
戦斧がニヤリと笑う。
「ここはレストランだ。争うような場所じゃねぇ。場所を変えようか」
戦斧を良く見ると、リアルでは使えないはずの月の鈴を腰に結び付けていた。
ーー成り行きで、彰と小夜もいるギルド・ルイーダへ。
地下訓練所のカナリアの間。
強力な結界により防音も完璧で、周りに迷惑を掛けない安心設計。
ゲームを始めて自身の属性以外の魔法を手に入れた人が試し撃ちをしたり、経験値ダウンのデメリットなしで模擬戦を楽しんだり、戦闘経験のない人が戦い方を見学したりそういう場所がカナリアの間だ。
戦斧は試合用の魔法陣の中に足を踏み入れ、花梨も続く。
戦斧は自信のある笑みだ。
「遠慮なく魔法を使っていいぜ」
花梨は試しに魔法陣を描いて、
「魔法陣にとおすは、火属性。炎よ燃え上がれ」
詠唱。
するが、魔法が発動しない。
戦斧は静かに笑う。
「もう一度試してみたらどうだ?」
花梨はもう一度魔法陣を描き詠唱するが、魔法は発動しなかった。
戦斧はもう一度静かに笑う。
「ゲーム内のシステムに頼った魔法は俺様のテリトリー内では無駄だぜ。月属性と闘気のみで、俺を倒せるかな? 花梨ちゃんよぉ! ゲーム内では天下を取れるかもしれないが、現実世界はそんな甘くないぜ!」
恐らくはシルフィの召喚獣だ。
シルフィの召喚獣の力を使っている。
恐らくは、
「もしかして戦斧さんは、ゲーム内のシステムの魔法を使える?」
「ああ使えるぜ。だけど俺は月の鈴を使えればそれで充分だ。花梨、お前と違ってな」
やっぱり。
恐らくは、腰に結び付けている月の鈴の中にシルフィの妖精獣がいる。
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