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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚
*十三・風の洞窟のシルフ
しおりを挟む二本のナイフを二つの鞘におさめた軽装の男性の説明に、萌衣は皆で力を合わせればと考える。
「魔法ぐらい使えなくっても……」
「無理だヤツは強い。風の妖精・シルフは、ヤツのフィールド内で魔法を使ってた。だからシルフの力を借りれば……シルフに協力を求めて欲しい……俺達は、ここを離れる訳にはいかないんで。もちろん報酬はこの村最高の物を出す。これを持って風の洞窟に行ってくれ」
軽装の男性が萌衣に指輪を渡す。
「これは?」
「風の洞窟の入口に張ってある結界内に入れるようになる鍵だ。装備しても問題ない……入口までは俺が案内をする」
風鈴の村のとある室内。芽衣へ向けられた軽装の男性の視線は真っ直ぐだった。
*
ーー萌衣は思い通りに身体に魔力を纏えない。
「なんか……段だんとボクの付与系統の魔力が薄くなっていく」
小百合が風の洞窟のゲーム内のシステムを説明する。
「ここでは特殊な物でない限り、アイテムですら制限を受ける場所ですから。奥へ進むと魔法はほとんど使えないと考えてください。だけど敵も強くなってきます」
萌衣は血の力も付与。
血の力を常時使うようにすると身体掛かる付加も大きいが、自身の今の実力だとそれ以外に方法はないと判断した。
萌衣はロリ真夢剛竜剣・短剣バージョンで敵をなぎ倒していく。
普通なら制限により普通のナイフ以下の武器にしかならないロリ真夢剛竜剣だが、血の力はそれを無視する。
花梨と小百合はほとんども何もしなかった。
芽衣が強すぎたからだ。
経験値を稼がせる意味もある。
ゲームだから敵を倒し経験値を稼げばレベルも上がる。実際に戦った人しか経験値は入らない。これがファイナルドラゴンクエストの独自のシステムだ。
芽衣達は順調に進んで行く。
「ーーなかなかやるようね」
宙に浮かぶ身長約1メートル。後ろの壁を確認出来る程に透き通った緑色の身体。自身を包み込めそうな背中にある巨大な翼。マホダイソーの百均スコップを二刀流。
風の妖精・シルフが現れた。
シルフは萌衣の身に付けている指輪へ視線を移す。
「これは、アイツの指輪ね……これは、わたし達の問題。部外者は、すっこんでたら嬉しいんだけど」
芽衣は思った。
「ということは……あの魔物はシルフと同族。君がアイツと言ってた、その彼は、君とあの魔物と両方の関係者? さらに勝手に妄想を膨らませるとあの魔物とあの彼は恋人同士だった?」
シルフは沈黙して、小百合は素直に感心する。
「萌衣さんはこのゲームをやった事がないはずなのに“小説”で想像力を……」“ショタ娘悪戯大作戦”で想像力を鍛えたんですか? と続けそうになったが、いきなり全身を駆け巡った悪寒に口を閉ざされた。
小百合の直感は命の危機を回避した。
萌衣はとりあえず話をそらしたい。
「勘……とりあえず、それはどうでも良いじゃないか? それは置いとこう。武器が百均のスコップなんてあり得ない。めちゃかっこ悪いじゃあないか?」
「……わたしのお気に入りだよ。そうやってこの武器を馬鹿にした相手を、徹底的に打ちのめすのが快感なんだから。 ……百均のスコップで華麗に敵を倒したらかっこいいと思わない? まあ…… ここでは、精霊の加護を受けた武器以外は百均のスコップ以下なんだけど」
芽衣はさらに話をそらたい。
「……確かに。目から鱗だよ。決めた今日……ボクは、百均スコップを買いに行く」
花梨はいまいちそのかっこ良さが分からないが、百均のスコップなら今腰に結び付けている収納鈴の中に二本あった。
花梨は収納鈴の中から二本のスコップを取り出して、
「はいコレ」
萌衣はそれらを受け取り二つのスコップを持ったままバンザイをして、クルリと回って、ご満悦のふり。
小百合は目が点になる。
「精霊の加護を受けた月の鈴なんて……普通あり得ないですよね」
「そりゃそうだよ。コレ、精霊の加護なんて受けてないないもん」
シルフは表情を変える。
「まさか……アナタ、西尾の関係者?」
花梨の頭に? が浮かぶ。
「ん? ……西尾お兄ちゃんの関係者だよ? シルフさんこそ西尾お兄ちゃんとどういう関係なの?」
「わたしをこのゲームにスカウトに来た彼つながりよ。彼は魔力ゼロの癖して、リアルでも面白い魔法を使うからわたし的に物凄く興味があるの。いいじゃない……面白くなってきたわね、リアルもゲームも……良いわ協力してあげる。だけど、」
シルフは首をちょっと上げ、花梨を真っ直ぐに見据える。
「アナタ達のリアルの方も興味が湧いたから、わたしと戦ってくれないかしら」
花梨は断る。
「だけどこのクエストを受けた本人は、萌衣ちゃんだよ? 萌衣ちゃんと戦うのが筋じゃない?」
「大丈夫よ。わたし召喚魔法を使えるから」
シルフは宙に魔法陣を描いて詠唱する。
「ーーちちんぷいぷい。大気に漂う精霊の力よ。わたしの元へ集え。出でよ、風の妖精・シルフ!」
描かれた魔法陣から、二つの緑色の螺旋を宙へ描いて二人のシルフが飛び出した。
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