魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*五・マナの薬草摘み

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 花梨は三の番号札を握りしめて、ギルド巡礼の受付嬢からクエストの確認を受けていた。
  
「レーダーを借りて、マナの薬草摘みのクエストで宜しいでしょうか?」
 
 受付嬢はいつも通りの笑顔だが、内心大丈夫なの? そんな思いがあった。月属性のみで、魔力量も闘気量もあまり感じられないからだ。
 闘気量に関しては花梨が抑えているだけだが。

「問題ないです」

「了解しました。レーダーを持って来ますんで、ちょっとお待ちください」

 マナの薬草摘みはギルドのクエストに依頼登録されているが、月属性の魔道具・マナ薬草レーダーを使わないと専門的な知識が必要になる。
 冒険者やギルドに所属している多くの人達に薬草の専門的な知識はない。

 マナ薬草レーダーは値段が高い上に月属性でしか使えないし、他に役に立たない。だからギルド側は依頼をする者に貸し出すようになった。

 マナの薬草は魔力を回復するマナポーションの素材で、普通の薬草と違って栽培は不可能だ。 

 魔力切れは命取りになる場面も多いから、値段は高いがマナポーションの需要はそこそこある。
 レーダーさえあれば手頃な難度で報酬も良い。“マナの薬草の森”の近くまでは、転移魔法陣を使えば交通の便も良いから人気のクエストだ。月属性を扱える者に限っては。
 
 ちなみに転移魔法陣の発達により乗り物は自転車すら発達していない。仮に自転車があっても、魔力で強化して走った方が手っ取り早いからだ。

 ギルド・巡礼にレーダーは全部で三つあって、貸し出し中は二つ。
 花梨は運良く最後のレーダーの貸し出しに間に合った。

 ちなみに魔力は自然界の生命エネルギーに働きかける力で、異世界の異質な魔力もそれは同じだ。 
 異世界の異質な魔力はこちら側と根本的な質は違うがマナポーションでも即座に回復する。 

 *

 森の中。
 木々や草はうっそうと生い茂って道らしい道はないが、マナの薬草摘みや他のクエストの関係でも人は訪れやすい為それなりには歩きやすい。

 白いローブを纏う花梨はマナの薬草レーダーを頼りに前へ進む。

 全ては西尾お兄ちゃんへ、風竜の指輪を買い戻して婚約指輪としてプレゼントする為にだ。

 だから花梨は強くなった。
 ーーだが気付いてなかった。

 その間に早苗はSランク上級・SSSランクになって。西尾の実力も早苗と同等に上がって。その二人に認められた意味に気付いてなかった。

 花梨は強くなる事に夢中になりすぎて、ギルドのカードの更新を忘れCランク成り立てから1ランク下がって現在のDランク上級まで落ちた。
 
 花梨は思った。
 これじゃあ駄目じゃん。

 得られる報酬や受けられる依頼も前より減ったからだ。
 風竜の指輪を早く買い戻す為にはランクを上げないと遠すぎる。
 その為に最初に選んだクエストがマナの薬草摘みだった。

 ーー突如。女性の悲鳴。

 花梨は走った。
 森の生命力によって魔力の感知が困難な中を、悲鳴を上げた女性の魔力のみに意識を集中して。

 駆け付けると女性が五匹のゴブリンに囲まれていた。  

 ゴブリン・体長1メートル50センチぐらいの茶黒の小鬼で、オスとメスがいる。繁殖能力は高い。
 Dランク初級以上の冒険者ならソロで退治が出来る雑魚だが、獲物や旅人を繁殖の栄養の為に集団で襲う性質があり油断は出来ない相手だ。

 紫の長髪で童顔。黒い衣服を纏う女性はゴブリンの群れからマナの薬草を守っていた。
 さっきもちょっと反応が遅れていたら、マナの薬草がゴブリンに踏み潰されていただろう。ゆえの悲鳴だった。

 花梨は思った。
 アレ? 想像と違う。

 悲鳴を上げた女性らしき人物がノリノリでゴブリンを殲滅したからだ。

「まさかさっきのは、ゴブリンの悲鳴?」

「違う。恥ずかしいけど。さっきのは、ボクの悲鳴だ。だって当然だろう。ゴブリンはマナの薬草に対して何も考えずに踏み荒らそうとするんだぞ。さっきも、ボクが一歩遅れていたら危なかったんだぞ?」

 紫の長髪の女性は、ほっとした表情を見せながらマナの薬草を三つ摘んで、腰に結び付けている月の鈴へマナの薬草レーダーと一緒にしまう。

 花梨は納得する。

「なるほど。マナの薬草摘みは報酬いいもんね。わたしもマナの薬草摘みの最中だからね」
 
 今度はゴブリンが三十二匹姿を現す。
 明らかに異常な数だ。

 紫の長髪の女性はちょっとだけ表情をけわしくして、月の鈴からナイフを二本取り出す。

「確か君は、Dランクだったね……逃げろ。Dランクにあの数は無理だ……というか嫌な予感がする」

 二本のナイフを左右の手に握りしめ地を一蹴りしてゴブリンの群れへせまり、左右のナイフを一振りずつ。振るうとゴブリンが五匹横たわった。

 花梨は左右の手に闘気のナイフを形成、そこへ月属性の魔力と異世界の異質な魔力を流し込み地を一蹴りしてゴブリンの群れへ迫る。 

「加勢するよ」

 左右のナイフを一振りずつ。振るうとゴブリンが五匹横たわった。
 花梨は見知らぬ女性と、残りのゴブリンを殲滅する。
 その女性の瞳が驚きに染まった。 
 アレ? 頭悪そうだけど意外と強い? だけどボクの勘が正しければーー

「ありがとう。だけど嫌な予感がする。早くこの森を抜けよう」

「……良く分からないけど、名前ぐらい聞かせてよ。わたしは花梨だよ」

「ごめん。ボクは、萌衣めい。森を早く抜けよう」
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