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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚
*四・成長
しおりを挟む西尾は異世界の魔法と二刀流のナイフで敵を蹴散らしながら。
そのたびに花梨は萌えながら。
「花梨……そろそろ自身の内にある、何かしらの違和感の正体が気になってこないか?」
「……ん? 西尾お兄ちゃん急にどうしたの」
西尾は再度問う。
「気にならない?」
「わたしは、良く分からないよ。西尾お兄ちゃん」
「いまだに俺は、急に西尾お兄ちゃんになった理由が分からねぇ~よ……それはまあいい。花梨、俺は異世界転移者だ」
「うん。早苗さんから聞いているから知ってるよ。どうしたの?」
「俺には異世界転移は二度目で、異世界の魔力がある」
「ん? どういう事? 西尾お兄ちゃん?」
「良く見ていろ。これが異世界の魔力だ」
西尾は自身を覆い隠すような直径2メートル程の円状の盾を、異世界の魔力で形成。
花梨はピンとこない。
西尾は異世界の魔力の盾を形成したまま逆の自身の左の手で、花梨の右手をそっと握り魔力を流す。
それは西尾が分け与えた魔力の核を刺激して、花梨の右手から西尾と同種の魔力を強制的に放出させた。
花梨はまだ呑み込めず、今まで扱った月属性の魔力とはまったく別物の感触に戸惑い。
西尾は花梨から左の手を離して、
「花梨。俺の手の動きと台詞を、真似てみろ」
西尾は右の手で宙に蒼い陣を描いて。
花梨も意味の分からないまま真似て、右の手で宙に蒼い陣を描いて。
西尾は言霊をのせた。
「高めるは炎。集え、我の魔力のもとへ」
花梨も真似て言霊をのせた。
「高めるは炎。集え、我の魔力のもとへ」
花梨と西尾の右人差し指から、直径50センチぐらいの火球が放たれた。
花梨はポカンとする。
「わたし火属性ないのに……どうして?」
「言ったろ。異世界の魔力だって。この異世界にある魔力とはまったくの別物だよ。言っとくが、失われた聖や闇ともまったく別物だぞ」
「わたしも異世界転移者だったの?」
「違う違う。俺が魔力の核を分け与えんだよ」
「どういう事なの? 西尾お兄ちゃん?」
ちょっと考えたら充分にあり得る質問だったが、答えを用意してなかった西尾はめちゃ焦った。
実をいうと彼は元もと超能天気キャラだった。二度目の異世界転移で成長したが肝心なところで考えが足りない。つまり馬鹿だった。
西尾は一生懸命、言い訳を考える。
「……あっ。その嬉しかったんだよ。西尾お兄ちゃんと呼ばれた事が。俺この世界の魔力ゼロだろ。この世界の人達は普通は感じられないんだよ。異世界の魔力なんて。魔力を測る水晶も反応がゼロだ。だから人から馬鹿にされる事は多くても、好かれることはあまりないんだよ。それに花梨は月属性のみだろ。だからだよ」
花梨の顔がめちゃめちゃ赤く染まった。春がきた。
わたしの思いが通じたんだ。実は、両思いだったんだ。西尾お兄ちゃんと同じ異質な魔力。めちゃめちゃ萌える。これでわたしから婚約指輪を渡したら完璧じゃん。異世界の魔力と、良質の魔道具があったらわたしの夢へ更に近付ける。
花梨の妄想は止まらない。
「……いきなりの事だから混乱しているかもしれないが先に進むぞ」
妄想の海に沈んでいた事に気付いた花梨は、このままだと目的に支障をきたすと我に返り、
「うん。西尾お兄ちゃん」
西尾と奥へ進んで行く。
その先は西尾の実力なら何の問題もないが、花梨は魔黒曜石の地脈の影響で魔力や属性の認識阻害を受けたことを知らないまま。
やがて西尾と花梨は、体長8メートルを越える巨大なブラックドラゴンと対面する。
花梨は一瞬にして悟る。
あっ無理。これは無理。わたしら終わった。
花梨があきらめたその時、奥から声が届いた。
「逃げろ! とにかく逃げろ! ボクがくい止めるから」
紫の長髪で童顔。黒い衣服を纏う女性が姿を現す。
西尾は質問する。
「それで、どうするつもりだ」
「いいから逃げろ! 死ぬぞ!」
「怪我をしている女性を前にして、逃げるという選択肢は俺にはないんだよ。ブラックドラゴン何て雑魚相手に」
西尾は自前のナイフへ合成した闘気と異質な魔力を纏わせると地を一蹴り、左右のナイフを一回ずつ振るう。
と、ブラックドラゴンは横たわった。
その間一秒。
紫の髪の女性と花梨の瞳が驚きに染まる。
西尾お兄ちゃん。いくらなんでも強すぎでしょう……凄い。惚れ直した!
「! 凄い切れ味。お願いだ。一つそのナイフを譲って欲しい。代わりにボクが所持している中で、最高純度の魔黒曜石を譲るから……駄目かな」
西尾は即決する。
「断る理由なんてない!」
一度目の異世界転移の時に得た高級な物だったが西尾は迷わずナイフを二本渡した。
「二本もくれるなんてボク嬉しいよ。ならボクは、最高純度の魔黒曜石を二つ渡そう」
こうして西尾は目的の素材を手に入れて数日後。
炎翼の指輪と氷翼の指輪を、「これからも宜しくな」と花梨へプレゼントとした。
花梨はめちゃめちゃ嬉しかったが、けどこのままじゃあ駄目だ。と、嬉しさと悲しさの両方に襲われた。
だけど、
「ありがとう西尾お兄ちゃん、わたし、めちゃ嬉しい」
ーーそれから二年。花梨は強くなった。西尾と早苗から認められる程に。
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