魔力ゼロの異世界転移者からちょっとだけ譲り受けた魔力は、意外と最強でした

淑女

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第一章・夢はゲームで叶えよう花梨と芽衣と小百合の冒険譚

*二・再び追放

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 ギガントグリズリーの退治へと続く洞窟内。

 戦斧はちょっとだけ表情をけわしくする。

「新入り、気をつけろよ。やっぱりギガントグリズリー以外にも魔物がいやがるからな」

「分かってる」

 何十メートルか先で、いくつもの赤黒く光る眼。
 戦斧と陣はその群れへ駆け出す。
 だが三匹だけ戦斧と陣をすり抜け、後方の西尾と花梨へ目掛けてせまってくる。

 だが、西尾は落ち着いた様子で表情一つ変えない。

「とりあえず花梨はちょっと下がれ」

 花梨はとりあえずうなずいて後ろへと下がり、西尾は足へ闘気を流して硬い岩で出来た地面を強く踏みしめてから一蹴り。
 西尾の左右の手は闘気をまとい30センチぐらいの闘気のナイフを作り出して魔物へせまり跳躍し、顔面目掛けて右拳にまとったナイフを内から外。一直線に真横へ。

 巨大な狼はそれを右の前足で払う。

 かなりの衝撃で右のナイフは拳ごと地面へ叩きつけられるが、身体を前に倒して。その右を支点とし、左のナイフを闘気の刃を伸ばして狼の顔面へ一気に振り抜いた。

「一匹目」

 続けて二匹目。三匹目と難なく倒す。

 ほぼ無傷の西尾の姿は、花梨の萌えのツボを激しく刺激する。 
 ーー格好いい。わたし将来、西尾さんのお嫁さんになると。
 早苗さんのお嫁さんから、西尾お兄ちゃんのお嫁さんへと考えが切り替わった瞬間でもあった。
 ちなみに早苗からは、早苗お姉さんと呼ぶ事は激しく禁止されている。

 ーー奥へ進むと巨大な灰色の熊・ギガントグリズリーに戦斧と陣が苦戦していた姿が、西尾の瞳にうつった。

「花梨。ダメージ吸収の水晶はいくつ渡した?」

「西尾お兄ちゃん、戦斧と陣に三つずつです」

「ちょっと待て花梨、何故いきなりお兄ちゃんなんだ?」

 戦斧は巨大な斧でギガントグリズリーの爪とつばぜり合いのように硬直状態で、視線をちらっと流す。

「無駄話する暇はないぞ。さっさとダメージ吸収の水晶を渡しやがれ」

「戦斧さん逃げましょう」

「馬鹿きゃやろー。男が逃げるなんて出来るか」

「いや戦斧さんはまだ実力不足です。だから、まだBランク上級止まりなんでよ」

「Bランク初級が偉そうな事ぬかすな。腰抜けの癖して」

「花梨、逃げるぞ」

「西尾お兄ちゃん……でも」

「戦斧さん。そういうのは、一人でクエストをしている時にしてください」

 西尾は花梨の手を引き入口へ。
 途中まで引き返したところで、花梨が西尾の手を振りはなった。
 
「西尾お兄ちゃん。わたし、やっぱり水晶渡してくる」

 戦斧のところへ戻る花梨の足は早い。月属性を付与しているからだ。
 戦うには不利な属性だが付与魔法に関しては優れて、魔道具・月の鈴を扱えるのが大きい。

 ーー月属性は、攻撃手段が高レベルになっても攻撃手段がほとんどない。威力もほかの属性に比べて強い訳ではないし花梨は使えない。

 花梨の腰に結び付けている月の鈴は、最大2二メートルまで大きさを変えられ中にアイテムを収納可能だ。結ぶ付けている紐は月属性で長さを自在に変えられる。

 花梨は、火・水・風・土属性を持たない。
 月属性は武器の性能を上げるか、自身の身体能力を上げるぐらいしか出来ない。闘気術より効果は高いがそれだけだ。
 月属性以外の属性でも補助魔法は色いろとある。
 闘気術に関しては西尾が異常な程にすぐれているというだけで、一般的な認識は月属性以下だ。

 月属性だけは、火と水・風と土のように反発する属性がないから宿している人も多い。
 花梨のように月属性だけの人は珍しい。

 火や風属性は、料理をする時に重宝する。
 火属性を使わないでも二~三人ぐらいの量ならそれなりの器具を使えば可能だが、熱効率がまったく違う。食物の皮むきや食材の切り分けは包丁を使うより、風属性の器具を使った方が効率が良い。
 土属性は建築や金属類の製造とかに重宝する。切断は風か火ですることになるが。
 水属性は飲み水の管理とか。
 火・水・風・土属性は、活用の幅が広い。
  
 だけど月属性は違う。社会的に役つ属性ではない。戦いでも利便性は低い。

 貧しい花梨の働き口は少なかった。戦斧と陣は花梨をやとってる訳だが、そこに付け込んで賃金ちんぎんは安かった。
 だけど花梨が生きているのは間違いなく戦斧のおかげだ。扱いは酷いが恩も感じている。
 
 だから花梨は戻った。 

「馬鹿……戻ってこい」

 ーー西尾が戻った時には、花梨は背中から大量の血を流して瀕死の状態だった。
 西尾は後悔した。
 こんなことになるなら、魔力を封印しとくんじゃなかったと。
 西尾は質問する。

「何故、花梨が倒れているんですか?」

「事故だ。事故。そうだろう陣」

「水晶をさっさと渡さないからリーダーが奪い取り突き離された。そこへギガントグリズリーが……まあ、事故だ」

「おかげで、ギガントグリズリーへ渾身の一撃を叩き込めて退治出来た。役立たずも、最後には役にたったということだな」

 西尾はこめかみに血管を浮かべ、心底きれた。
 胸元のペンダントを引きちぎり、自身の魔力を封印を解いた。

 封印をしていたのは自身を鍛える為と、“魔力そのものが異質”だったからだーー約束と。
 “そもそも転移した異世界には存在しない魔力”。
 基本的に余計な面倒事は嫌いなタイプで、Bランク初級という現状にも満足していたからだ。

 だけど甘かった。

 異質な魔力を解放した余波は、戦斧と陣の意識を簡単に刈り取った。

 異世界の魔力でナイフを形成し、自身の心の臓をつらぬいて。
 慎重しんちょうに、したたる血をちょっとだけ花梨に飲ます。

 寿命は縮んでしまうが、ためらいはない。西尾いわく普通の人の数倍、腐る程に寿命は長いのだから。

 西尾はこの異世界へ転移する前にまったく別な異世界へ転移をしていた。それから元の世界へ戻り、再び異世界転移。

 今の西尾は純粋な人ではない。

 西尾は自身と同じ存在にだけはさせないように、ちょっとだけ命と魔力の核の一部を花梨へ分け与えて。
 花梨は自身が唯一宿す月属性のほかに、異質な異世界の魔力をその身に宿して。
 西尾の寿命が縮んだ分だけ、花梨は何歳かちょっとだけ若返った。

 *

 やがて戦斧と陣は目覚めたが何故、花梨が無事なのか分からない。

 戦斧に芽生えているのは確実な殺意だ。

「花梨。お前いらねぇ~この役立たずが! この俺がやとっている恩を仇で返しやがって」

「ごめんなさい」

「西尾お前もだ。この腰抜けヤロウ」

「俺は抜けますよ」
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