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Act 13.邂逅する小鳥

大粒の涙

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「だって……、僕は出来損ないで」

 大粒の涙が目から零れ落ちる。自分の不甲斐なさに涙する生徒に、俺はその涙をぬぐいながら聞いた。

「親か?」

「え?」

「そう言ったのは、お前の親か?」

「う、うん」

「じゃあ、友達は?」

「君と違って友達なんかいない!」

 目をぬぐっていた手を激しく叩かれ、俺から距離を取る。後ろにあったフェンスががしゃんと音を立てて金具が外れた。
 その小柄な体がフェンスと共に外へと倒れていく。
 ここからの出来事はスローモーションのようにゆっくりだった。

「えっ」

 手を伸ばし、フェンスと一緒に少年をこちらに戻そうとするが、フェンスが外に向かう力の方が強く、一緒に体が斜めに倒れ始める。

「くそっ」

 踏ん張りが効かない。寛人の時の身体なら支えらないなんてことはきっとないはずなのに。

 二人の身体が一緒に斜めに倒れかけた時、後ろからぐいっと強烈な力で押し戻された。
 弾みで床に衝撃がくると思ったが、痛くない。
 後ろを見たら、この場に似合わず麦わら帽子を被った隆二が下敷きになってくれたのか、そこにいた。

「間に合ってよかった……」

「り、理事長!?」

 少年がびっくりしたように声をあげる。俺も驚いて、隆二を凝視した。
 落ちたフェンスの音が『がしゃん』と大きく下から響き渡った。薫に頼んで人避けしといてよかったとその時ふと思ったし、本当に隆二が現れなかったら同じ木阿弥になっていたかと思うとゾッとした。

「フェンスが老朽化しているから、屋上は立入禁止のはずだったんだけど……」

「すみません……」

「鍵開いてたかな?」

「……」

 バツの悪そうに生徒が身じろぎをした。俺を言えばいいのかわからず地団駄を踏む。

「うーん、もうちょっと頑丈にしとかないといけないみたいだね」

「すみません……」

 隆二が麦わら帽子を外しながら、ポケットからハンカチを取り出す。そのまま自分の汗を拭くのかと思えば、その生徒に渡した。

「もう大丈夫?」

「あ、はい」

 その生徒を見たら、びっくりしたのか、涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
 死にたいと思ってたんじゃないのか。自分のしようとしていたことに今更怖くなったのか。

 どちらにせよ、隆二が来なかったら俺の命もなかったかもしれないと考えると、背筋が凍った。

「小鳥遊くんが言うとおり、残された方は本当に辛いよ。僕も若いころは何度も後を追うことを考えた。でもね、待ってたら必ず良い事がある。暗いだけの未来じゃないってことを、君達みたいな学生には知っていて欲しいかな」

 「説教臭くなっちゃったね」と隆二は笑った。

「はい」

「特にこの学校の生徒は、学歴主義の親が多いからね。時には衝突することだってある。そんな時は、僕で良ければ相談に乗るから」

「はいこれ」と隆二はその生徒に名刺を渡す。

「直接は多分言いづらいかもしれないから、何か困ったことがあったらメールして。電話でもいいよ」

「あ、あのっ!」

 こんな恐れ多いものは貰えませんとばかりに生徒がその名刺を受け取るか戸惑っていた。

「子供が遠慮するもんじゃないよ。それにね。人の価値は、偏差値とか数字では絶対に測れない。君は素敵だよ。とっても素直で真面目で。出席率良かった事を記憶してるよ。それに出席率が悪くたって、夢中になれることがあればいいんだ。ね?」

 この場で出席率が悪いのはどう考えても俺だ。
 突然話を振られて、コクコクと頷くことしかできなかった。でも隆二の話で、生徒の心はほぐれたのか、最初の時の表情と随分違って穏やかに見えた。
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