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Act 11.思い出の青い鳥

行動の源泉

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 部屋を出ると、理事長室があるフロアに出た。
 昨日何があったのかも何も聞かずに、今日だってそのまま倒れた俺の看病をずっとしていてくれたんだと思うと、いたたまれない気持ちになった。隆二が好きなのは寛人の時の俺なのに、本当の事を話せばもしかしたら伊織としての自分も好きになってくれるのではないかと勘違いしそうになる。

 隆二の優しさに浸っていたら、きっと戻れなくなる。

 風邪の身体に階段はキツく、5、6段下った所で思わず座り込む。終わりの無い、長い長い螺旋階段にいるような気持ちになった。

 自分は何をやっているんだろう。風邪で涙腺が緩んでいるせいか、じんわりと涙が滲む。
 自分が何をしたいのか、何をしたかったのかも分からなくなる。

 しばらくそうやって階段に座りこんでいると、扉の向こうから隆二の声がした。

『伊織くん?!』

 心臓が跳ねて、さっきまでは動けなかった身体は反射的に扉を開けても見えない位置に移動していた。
 慌ただしく扉が開く。

「伊織くん? いる?」

 まるでここにいるのが分かっているかのように聞かれ、胸がドキドキした。なんで隠れたかも分からない。ただ隠れずにいられなかった。

 空気にとけ込むように、風邪で荒くなっていた呼気を馴染ませる。
 階段はシンと静まりかえっていた。隆二との距離が今は酷く遠い。

 息苦しさに限界だ。
 そう思った時、「もう居ないか……」そう呟いて扉がギーッと音を立ててゆっくり閉じた。
 切なく響いたその声に胸が酷く締め付けられて、自分の理解出来ない行動の源泉を知った。





 ああ、俺は隆二が好きなんだ、と。




 認めてしまえばとても単純で、それだけの話だった。

 息を吐き出せば、乾いた笑いも一緒に漏れた。気持ちに蓋をしていたかのように、今までそんなはずはないと目を背けていた感情だった。

 なんでそんなはずはないと思ったのだろう。
 こんなに簡単なことだったのに。

 隆二ともう一度会ってから俺は、隆二しか見ていなかったじゃないか。

 俺の感情をいち早く見抜いたのは、伊吹だったのだろう。伊吹が怒った理由も、持ち出された約束の意味も、本当の意味で分かった気がした。
 隆二への気持ちを自覚すれば、自覚する程、なんで部屋を飛び出してきたのか後悔と自責の念にかられた。

 隆二が居なくなった扉を見つめていると、扉の向こうで隆二を呼ぶ声がした。

『高城』

 低い男の声。

『雅人さん……』

 驚いた隆二の声が聞こえてくる。

「まさと……もしかして兄貴か……?」

 なんでここにいるのだろうか。俺が思った疑問は隆二も感じていたらしく、『なぜ此処へ?』と声が聞こえた。

『来ちゃ行けなかったか?』

『そんなことありません。ただこういった事は初めてだったので、驚きました』

 2人の只ならぬ雰囲気に、俺は1人息を飲んだ。
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