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Act 10.戦う小鳥

一縷の望み

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 夏休みが終われば、隆二に会う機会も増えるかもしれない。
 そんな一縷な望みを抱いてみても、望むものに対して世界は時に残酷な程広くなる。

 隆二と会う事などなかった今までのように、隆二に会う機会はめっきり無くなった。
 最後に隆二の顔を見たのは後期始業式の集会時だ。

 それから秋が深まり学会シーズンになると、学会準備の忙しさでそんな事も言っていられなくなり、あっという間に秋も終わりに近づいていた。

 海外の学会が重なり1ヶ月のうち1週間ちょっとしか学校行かない月が出たときは、さすがにお父様に学会参加の頻度を減らしたらどうかと提案される程だった。


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「小鳥ちゃん……小鳥ちゃん!」

 何度も呼ばれて、自分の意識が朦朧としていたことに気がついた。いつもはほとんどしない時差ぼけが長引いていて、目の前に斯波がいるのに意識だけどこか他にいってしまう程、身体がぼんやりと重く、眠い日が続いていた。
 金曜の夜だと一週間の疲れも相俟って、特に眠かった。

「今の話全く聞いてなかったのか?」

「……悪い」

 聞いていなかったのは事実だった。

 白昼夢を見ていたかのようにぼんやりとしていた頭が少しずつ元の輪郭を取り戻してくる。
 適当に頷くのもどうかと思い、何の話かと問えば、斯波が少しムッとしたような顔をした。

「俺と会うのは小鳥ちゃんの中でただの義務?」

 苛立ちを隠さない斯波の言葉に俺は一瞬何を言っているのか分からなかった。

 最近の斯波はどこか苛ついていたのは知っていた。
 そんな斯波の話を聞かないとどうなるかなんて目に見えていたはずだったのに、時差ぼけでの眠気には勝てるはずもなく、結果火に油を注いでしまった訳だった。

「本当に悪い。時差ぼけで眠くて」

「義務って所は否定しないのか?」

「義務なんかじゃ、」

「言われてから否定したんじゃ遅いよ」

 低い声でそう言われて、ぐっと腕を取られ引き寄せられた。
 次に何をするのか斯波の行動が予測出来てしまって、ぎょっとする。

「やめろっ」

 唇に触れるか触れないかの寸前で顔を背ければ、顎を強く掴まれて無理矢理息を塞がれた。

「んぁっ」

 最近は直接的に触ってくる事が無かったからか、完全に油断していた。
 ぐっと胸を押し返せば、呆気なく斯波は離れた。

「何やってるんだ」

「何ってナニ?」

 いつも通りのその返事。でもいつもと違うのは明らかに斯波が苛立っていることだった。
 なんでそんなに苛立っているんだよ、と聞きたくなる気持ちをぐっと抑える。

「………」

「おい黙るなよ」

 いつにも無い乱暴な口調に背筋が凍る。これは本当にマズい。

「この埋め合わせは今度するから」

「へえ、ナニしてくれんの?」

「する訳ないだろ」

 此処で下手に頷けば実行に移すのが斯波だ。
 いつもの調子で冗談を否定したものの、それがマズかった事を知ったのは斯波の熱に灼かれた目を見た次の瞬間だった。
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