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Act 8. 夏の小鳥
仮定の話
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でも、こういう話題について他人の意見が聞けたのはとても新鮮だった。
斯波と生まれ変わりについての話もするが、斯波の意見を聞くという感じではなく、斯波が疑問な思った事に答えるという事が多い。そういう話を引き出し、発散させる事が目的のような事が多いのだ。
恐らく、斯波は実験的に俺をカウンセリングしようとしているのだろう。
その思惑が見え隠れする為、話しづらさが拭えないのは確かだった。
約束が約束である以上それに対して文句を言う事もないが、そういう変な勘ぐりがない今回の状況は気が楽で、俺は薫がどう考えるかもっと聞いて見たくなった。
「今のは好きな事だけど、好きな人の時はどうする?」
「好きな人か」
「そう。家族や大事な人の場合。入れ替わったら、家族も変わるし環境も変わる。性別も変わるかもしれない。そういう時、薫ならどうする?」
「それなら簡単だ」
「え?」
「全部をありのままに話す」
「入れ替わってる事を言うって事か?」
「そうだ」
「信じてくれないだろ」
「信じてくれないと決めつけるのは早い。現にこのドラマでも、お互いの親友という良き理解者はいる。大事に思っている人や家族なら、理解者になってくれる可能性の方が高い」
「話してみて信じてくれなかったら?」
「信じるまで話す。それこそ好きなもののように、年数を待つか、信じてくれるように努力する」
「でも、外見が違かったら、以前のようにはいかないだろ」
「外見なんて関係ない。じゃあ例えばもし俺が女になったと説明したら、伊織は信じないか?」
豊満な胸の少女が、「俺は薫だ」と言ってるところを想像した。
始めは何の冗談かと思うかもしれないが、後には薫だと信じるだろう。
薫にそう伝えれば「そういう事だ」と笑った。
「だが……なんで豊満……?」
「薫が女だとしたらと言った時、ボイン黒髪ロングってイメージが湧いたから」
そう答えれば、薫が苦虫を潰したような微妙な顔をした。
「……伊織はヅラをつければ、そのまま女装出来そうだ」
経験がないわけでもないそのシチュエーションに、今度は俺が微妙な顔をする番だった。
「惚れても知らないからな」
冗談半分にそう言えば、薫が真剣な顔をして頷いた。
「確かに。伊織が女だったら惚れていたかもしれないな」
薫はノーマルだ。
肌色のDVDが、ラックの中に仕舞われている事も知っている。ちなみに、趣味は入浴もので、巨乳が好きという傾向というのも、ラックの品揃えから分かった事だ。
美女は好きだ、と臆面もなく真面目に言う薫に、思わず吹き出しそうになった。
「薫っておっさん臭いよな」
「そうだな。よく言われる」
1時間のドラマが終わり、薫がDVDを取り替えながら、言葉を続けた。
「伊織はリスクに対してネガティブに考える事が多いが、もっと軽く考える位で丁度良くなりそうだ」
リスクに対して過敏に反応するのは、職業柄といってしまえばそうなのかもしれない。
実験とは言え、実験費用だって馬鹿にならなければ、下手をうてばラットの命を簡単に奪ってしまう。実験動物だからしょうがないと言えど、命が掛かっている以上、あやふやな理論で実験に挑める程お気楽ではない。
実験はそれでも良いかもしれないが、日常や自分の身辺に至る所で、いつの間にこんなに考え方が固くなり、臆病で身動きがとれなくなったのだろうか。
薫の考え方は遠くない。きっと、寛人の時だったらそういう風に考えただろう。
そして、そう考えた自分は、やはりもう寛人ではないんだ、とはっきりと分かった。
昔、理屈でなんでもやり込めようとする大人達を見ては、こういう大人になりたくない、と思っていたのを思い出した。源三の頭の固さを見ては、頭が固くて身動きの出来ない大人にはなりたくない。
そう思っていたはずなのに。いつの間にか、俺も同じようになっていた。
これじゃまるで、ミイラ取りがミイラになった、と同じだ。
「俺、頑固親父になったのかも」
「じゃあ、親父仲間だな。ドラマ……まだ続きがあるが、どうする?」
ほとんど見ていなかったが、俺はなんとなくこのドラマの結末が気になって「見たい」と答えた。
いつでも寝ても大丈夫なようにと、一階の和室にあった寝具を運び、その日の夜はそのまま薫の部屋で寝る事になった。
斯波と生まれ変わりについての話もするが、斯波の意見を聞くという感じではなく、斯波が疑問な思った事に答えるという事が多い。そういう話を引き出し、発散させる事が目的のような事が多いのだ。
恐らく、斯波は実験的に俺をカウンセリングしようとしているのだろう。
その思惑が見え隠れする為、話しづらさが拭えないのは確かだった。
約束が約束である以上それに対して文句を言う事もないが、そういう変な勘ぐりがない今回の状況は気が楽で、俺は薫がどう考えるかもっと聞いて見たくなった。
「今のは好きな事だけど、好きな人の時はどうする?」
「好きな人か」
「そう。家族や大事な人の場合。入れ替わったら、家族も変わるし環境も変わる。性別も変わるかもしれない。そういう時、薫ならどうする?」
「それなら簡単だ」
「え?」
「全部をありのままに話す」
「入れ替わってる事を言うって事か?」
「そうだ」
「信じてくれないだろ」
「信じてくれないと決めつけるのは早い。現にこのドラマでも、お互いの親友という良き理解者はいる。大事に思っている人や家族なら、理解者になってくれる可能性の方が高い」
「話してみて信じてくれなかったら?」
「信じるまで話す。それこそ好きなもののように、年数を待つか、信じてくれるように努力する」
「でも、外見が違かったら、以前のようにはいかないだろ」
「外見なんて関係ない。じゃあ例えばもし俺が女になったと説明したら、伊織は信じないか?」
豊満な胸の少女が、「俺は薫だ」と言ってるところを想像した。
始めは何の冗談かと思うかもしれないが、後には薫だと信じるだろう。
薫にそう伝えれば「そういう事だ」と笑った。
「だが……なんで豊満……?」
「薫が女だとしたらと言った時、ボイン黒髪ロングってイメージが湧いたから」
そう答えれば、薫が苦虫を潰したような微妙な顔をした。
「……伊織はヅラをつければ、そのまま女装出来そうだ」
経験がないわけでもないそのシチュエーションに、今度は俺が微妙な顔をする番だった。
「惚れても知らないからな」
冗談半分にそう言えば、薫が真剣な顔をして頷いた。
「確かに。伊織が女だったら惚れていたかもしれないな」
薫はノーマルだ。
肌色のDVDが、ラックの中に仕舞われている事も知っている。ちなみに、趣味は入浴もので、巨乳が好きという傾向というのも、ラックの品揃えから分かった事だ。
美女は好きだ、と臆面もなく真面目に言う薫に、思わず吹き出しそうになった。
「薫っておっさん臭いよな」
「そうだな。よく言われる」
1時間のドラマが終わり、薫がDVDを取り替えながら、言葉を続けた。
「伊織はリスクに対してネガティブに考える事が多いが、もっと軽く考える位で丁度良くなりそうだ」
リスクに対して過敏に反応するのは、職業柄といってしまえばそうなのかもしれない。
実験とは言え、実験費用だって馬鹿にならなければ、下手をうてばラットの命を簡単に奪ってしまう。実験動物だからしょうがないと言えど、命が掛かっている以上、あやふやな理論で実験に挑める程お気楽ではない。
実験はそれでも良いかもしれないが、日常や自分の身辺に至る所で、いつの間にこんなに考え方が固くなり、臆病で身動きがとれなくなったのだろうか。
薫の考え方は遠くない。きっと、寛人の時だったらそういう風に考えただろう。
そして、そう考えた自分は、やはりもう寛人ではないんだ、とはっきりと分かった。
昔、理屈でなんでもやり込めようとする大人達を見ては、こういう大人になりたくない、と思っていたのを思い出した。源三の頭の固さを見ては、頭が固くて身動きの出来ない大人にはなりたくない。
そう思っていたはずなのに。いつの間にか、俺も同じようになっていた。
これじゃまるで、ミイラ取りがミイラになった、と同じだ。
「俺、頑固親父になったのかも」
「じゃあ、親父仲間だな。ドラマ……まだ続きがあるが、どうする?」
ほとんど見ていなかったが、俺はなんとなくこのドラマの結末が気になって「見たい」と答えた。
いつでも寝ても大丈夫なようにと、一階の和室にあった寝具を運び、その日の夜はそのまま薫の部屋で寝る事になった。
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