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Act 5. 祭に興ずる鳥

写真撮影

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 告白されてから、桐生に会うのは久しぶりだった。
 生徒会は学園祭で忙しいらしく、あの日を堺にメールもぱたりと止んでいて。それもあって、なんとなく顔を合わせづらかったが、定員と客との関係で会えるこの場を感謝した。
 さっきは日下の手前、あんなメールを送ったが、もしもこれが他の場所で他のタイミングなら、どんな顔をして、何を話せばいいか全くわからなくなっていただろう。

「オーダーをお願いしたいのだが」

 桐生の元に行った俺は、いつもとは違う偉そうなその態度に少し面食らった。

「はい、只今」

「アメリカンのブラックとチーズケーキを」

 俺の姿を確認すると、冷めた声色で注文を言ってくる。いつもの敬語ではない、これが会長である桐生の姿で、素なのだろう。普段のニヤけたような顔とは180度違った、引き締まった顔に、男の俺でも少し格好いいと思ってしまう。

 やっぱり、クールなら格好いい。
 このクールな男と、この間告白してきた男が同一人物とは思えない。

「はい、畏まりました」

「あと、此処は写真サービスも行なっているのか?」

「そうですね。希望とあらば」

「記念に一枚お願いしたい」

「……」

「どうした?」

「いえ……」

 多分ここで断ったとしても、桐生のことだ。後々ネガをどこかから買い占めるような気がしてならない。

「あのっ、それなら僕がっ!」

 近くで様子を伺っていたハイカラさんに扮したクラスメイトが名乗りを上げた。
 突然、話に加わった新参者に、桐生を取り巻く空気が一瞬凍ったような気がした。

「ああ、じゃあお願いしよう」

 うっすらと桐生が笑いながら、その新参者にカバンから取り出した一眼レフを渡す。

「え?」

 困惑するクラスメイト。そりゃ困惑するだろう。俺もカバンから出てきた一眼レフに困惑したところだ。

「ありがたい申し出に感謝する。今、カメラマンを探していた所だ」

 頭の良く、器量のある桐生なら、今の流れでクラスメイトが桐生と一緒に写真を撮りたがっていた事はわかっていたはずだ。

 それを数秒で黙したこの男に、感嘆する。

 慣れているというか、なんというか。

 違います、とも言い出せないクラスメイトは、一眼レフの操作を会長に尋ねることが精一杯だったらしい。

「では、撮りますねー」

 と言っているクラスメイトの声がちょっと淋しげだった。

「何突立っている。こっちにこい」

「わっ」

 ボーっとクラスメイトを眺めていた俺は、突然引かれた手にバランスを崩し、桐生の膝の上に座ってしまう。周りで見ていた者達の息を飲む声が聞こえた。

 騒がしかった店内の喧騒が収まり、ようやく店内のBGMが聞こえるようになった。
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