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Act 4. すれ違う鳥達

懐かしい記憶

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「……理事長」

 呆然と立ち尽くす。
 ボールが手からすり落ち、体育館にはボールが弾む音だけが響いていた。

「やっぱり君には授業は簡単すぎてつまらなかったかな?」

 隆二が悲しそうな顔をする。
 授業すっぽかして、バスケに夢中でした。
 なんて、はたから見たらただのサボりだ。
 緊張という言葉と無縁と思っていたが、しかし今はあり得ない位緊張していた。

「いえ……どの先生の話もプラスになる事ばかりで」

 この状況下で言う為か、説得力は0に近い。
 俺は言い訳をするように言葉を続けた。

「実は……迷子になってしまって……バスケットボール見たらつい……」

「バスケ好きなのかい?」

「あ、はい」

「僕も好き。バスケ良いよね」

 昨日会った時は”私”だったのに、昔のような”俺”ではなく、”僕”と話す隆二に胸が締め付けられる。

 隆二はボールを拾い、ワンハンドで軽々とシュートを決めた。
 ろくに練習しない癖に、センスの良い隆二は、昔から何をやらせても完璧だったんだ。

「……上手いですね」

 口から出てきたのはそんな当たり障りのないような言葉だった。

「僕よりももっと上手い奴がいたよ。君みたいに、毎日スリーポイントの練習ばっかしてた」

 スリーポイントの練習ばっかりしてたのは、俺だ。毎日、部活が終わった後、守衛さんが回ってくるまでスリーポイントの練習ばっかりしてた。
 寛人の時の記憶がリアルに蘇る。口を開くことも憚られる位、俺は動揺していた。
 俺が言葉を無くしていると、隆二が俺に笑いかける。

「昼過ぎまで急に予定があいてしまったんだ。良かったら、お茶でもどうかな?」

 断らなければいけない。
 そんな気がしたが、俺は半ば無意識に頷いていた。



 二回目の理事長室。かと思えば、理事長室の隣の部屋に案内された。

 俺が理事長室を見ていた事に気づいたのか、「この前の部屋は仕事用。こっちの方が、慣れているからね」と言って、隆二は俺をソファに座る様に誘導する。
 理事長室のような重厚感の溢れる部屋ではなく、シンプルで明るい室内だった。1つの家具の種類で統一している辺り、隆二の部屋に似ていると思う。

「学園で仕事がある時は、ここに泊まるんだ」

「大変ですね」

「そうでもないよ。普段は副理事に任せてるし、この学園は自主性が基本だから、理事長がやる事なんてたかがしれてるよ」

 隆二はキッチンに立って、俺に紅茶か珈琲どちらがいいか聞いてくる。

「紅茶、お願いします」

 胸の高鳴りをなんとか抑えながら、平然を装って答える。

「もしかして、珈琲苦手?」

「飲めなくは無いんですけど……」

「この前の時に、伊吹君は飲んでいたようだけど、伊織君は手をつけてなかったからそうだと思った」

「……すみません」

「僕も珈琲より、紅茶の方が好きなんだよね」

 それを聞いて懐かしい気持ちになった。
 あの時から何もかも変わってないんだな。

 ――ブラックは飲めるけど、やっぱり紅茶が好きなんだよね。

 そう言っていた隆二の声が脳裏でダブって聞こえてくる気がした。
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