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Act 3. 学園に入った鳥
切望
しおりを挟む余裕のない伊吹の口づけに翻弄される。
唇が紡ぐ水音と互いの息づかいだけが、室内にいやに響いていた。
「んっ、……やめっ…」
俺が唇から逃れるように顔を逸らそうとするが、伊吹はその行動を許さないとでも言うように俺の顔を両手で挟み込んで、更に深いキスをしてくる。伊吹が俺の上に乗っている為、それ以上の身動きはとれない。
何故こんな事になっているのか、自分でもよくわからなかった。
遊びでキスすることは良くある。最初はいつものそのノリかと思っていたし、海外生活もあった為か、伊吹とのキスに抵抗は全くない。
だが、こんなに淫靡で執拗なキスは初めてだった。段々と深くなっていくそれに、酸素を奪われる。
思考力は薄れ、伊吹から与えられるそれを享受し始める俺がいる。
「ふぅ……ん……な、んで」
俺のその言葉に伊吹が顔を離す。
離れたくないとでも言うように、俺と伊吹を繋ぐ透明な糸が艶かしくて、顔に熱が集まるのを感じた。
「いつになったら織に追いつけるのかな?」
俺は言葉を無くした。
頭上にいる伊吹があまりにも苦しそうに眉を寄せて、笑っているから。
「織と一緒に居たくて、今まで闇雲にやってきて、ようやく織に追いつけたと思ったのに」
でも、今は凄く遠く感じるんだ。
消え入るような声で伊吹が言った。
「海外に居たときは我慢出来たよ。ずっと織と一緒に居れたから。でも今は……不安で堪らない」
「伊吹……」
「こんなんだったら、高校なんか行きたいって言わなければ良かった」
そうしたら、織を独り占め出来たのに。
伊吹のそんな声が聴こえた気がした。
「ねえ、織。俺を見てよ。ずっと……ずっと、僕だけを見ててよ」
僕は昔の伊吹の一人称。まるで小さい頃に戻ったような感覚を覚える。
今にも泣き出しそうな伊吹に、自分が泣いているような錯覚に陥った。
胸が締め付けられた。
――俺はお前を見てるよ。
簡単な一言のはずなのに、音に乗せることは叶わなかった。
きっと伊吹は分かっている。
俺の心の何処かに、隆二が居る事を。本能的に分かっている。
それが双子だからなのか、俺の事を大事に思ってくれるからなのかは分からない。
でもきっと、伊吹には全て筒抜けなのだろう。
「僕を、拒まないで」
伊吹の目から溢れ出した大量の涙が、俺の頬を滑り落ちた。
「拒める訳ないだろ」
「今からする事も、全部。血だけじゃなくて、遺伝子だけじゃなくて、身体も織と一つになりたいんだ」
その言葉がこの場において何を意味するのか、分からないほど俺は無知じゃない。
だが、嫌だとか、気持ち悪いだと否定の気持ちは一切浮かばなかった。いつか感じたあの感覚と、この気持ちは酷く良く似ていた。
愛しい半身。
嫌悪感など、感じるはずもない。
「来い」
今度は自分から、伊吹の頭を引き寄せた。
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