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第四章

大事にしろ

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「セツ?」


じーっと顔を見つめすぎたのか
クロスも私をじーっと見つめながら顔を寄せてきた


おいおいおい、いくらイケメン耐性がついているとはいえ、その綺麗な顔が間近にあったらドギマギしちゃうでしょ!?


「大丈夫か?顔が赤いぞ」


人差し指を曲げて私の頬に触れるクロス
小さい頃からもよくされていたスキンシップだ
今更こんなことされてもどうってことない


………どうってことないはずなのに…!!


「、、な、なんでもない」


どうしてこんなにも身体が熱くなる?
どうしてこんなにも鼓動が早くなっているの?
自分の身体が自分のものじゃないみたいにコントロールが効かない


「なんでもないことないだろ。お前はもっと自分のことを大事にしろ」


目を逸らした私の顔を戻すためにクロスが私の頬を両手で包んで目を合わせてきた
この男はあ!!どうしてこうも軽々と人の気持ちを乱すようなことを平気でしてくるのよ!!


「な、なに言ってるの!!私ほど私を大事にしてる子なんてなかなかいないんだからね!?」

「お前が何言ってんだ。いっつも具合が悪い時は隠そうとするし、嫌なことがあっても全部心にため込んで誰にも頼ろうとしないし、悲しい時でも泣くのを嫌がるだろ」

クロスが言ったことに関して心当たりしかなくて妙な居心地の悪さを感じてつい口ごもってしまう

「それはだって!…私がちょっと我慢すればいいだけのことだから、人に迷惑かけたくない」

「そこが馬鹿なんだよ」

「ドストレートなディス!」

「まず、セツが人に頼ったとしてそれは迷惑にはならない。皆お前の役に立てたら嬉しいと思ってるし、セツが何かを我慢してるって知った方が周りは悲しむぞ」

「……クロスも迷惑に思わない?」

「当たり前なことを聞くな。そもそも、素直じゃないセツが今無条件に頼れてんのは俺くらいしかいないのに、俺がわざわざその役目を手放すと思うか?」

「…そ、そっか」

心外だ!と言わんばかりに少し呆れたように言うクロス
本人にきっと他意はないだろうけど、正直そんなこと言われたら反応に困るし、嬉しくてどうにかなってしまいそうになる


「だから変な遠慮なんかするな。いつもみたいに我儘に我を通していけ」

「ちょっとー!私がいつ我儘だったって言うのよ!!自分で言うのもなんだけど小さい頃からすっごい良い子だったじゃん!!」

「本当に自分で言うな。それに良い子は自分の弟のおやつを羨んでわざとらしく拗ねておやつを強請ったりしないぞ」

「それとこれとは話が違うじゃん!!」

「ははっ、怒り方があの時とそっくりだぞ」

楽しそうに笑うクロスを見てちっぽけな怒りも段々と消えていく
ううん、本当は怒りなんてこれっぽっちもなかった
ただ、クロスとふざけ合いながらも軽口を叩くのが楽しかっただけ
ずっと、ずっとこの時間が続けばいいって思っただけ


「さて、怪我人はもうそろそろ部屋に戻れ。寮まで送ってくから」

クロスが立ち上がって私に手を差し出す
男なのに細長くて綺麗な手

その手に引き寄せられるかのように自分の手を重ねれば、クロスの手の温もりに包まれた
昔からクロスはこうして私の手を引いてくれる
手を重ねたことも数えきれないほどある、日常茶飯事だったと言っても過言ではないだろう

それなのに、今胸に広がる、この感じたことのない気持ちはなんなんだろう


「セツ?行かないのか?」


クロスなら、分かるのかな
この気持ちがなんなのか

この気持ちにさせているクロスなら




「ねえ、クロス、聞きたいことがあるんだけど」





きっと、答えを教えてくれるよね






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