118 / 130
第四章
すんなりと
しおりを挟む至近距離で顔を見れないため、シェリーの胸元を見ながら小さくお礼を言う
自分の心臓がうるさいくらいにバクバクと鳴っているのが分かる
この音がシェリーに聞こえるんじゃないかと気が気じゃないし、そう考えれば考えるほど頭に血が上っているような感覚に陥った
と、とにかく早く離れてくれないかな
このままじゃ私の心臓も持たないしいい見世物だわ
「セッちゃん!大丈夫!?」
コレットの不安そうな声が聞こえる
「も、申し訳ありません!お怪我はありませんか!?」
それに続いて焦ったような男の子の声が聞こえた
きっと私の不注意のせいでぶつかってしまった方だ
早く立て直して二人を安心させてあげなきゃ
シェリーの胸に手をついて適切な距離を取ってからにっこりと笑顔を浮かべる
「コレット、ありがとう。大丈夫よ。それから、あなたも、私の不注意のせいでぶつかってしまってごめんなさい。この通り、怪我もしていないので気にしないでください。」
しっかりと立っている私を見て二人ともホッと息をつく
私とぶつかった男子生徒は再度謝罪をしてからこの場を去った
コレットは私の心配をしていたが、委員の事で教員室に用があるのに私のことで足止めをしていることが申し訳なくて行くように促した
最後まで渋る様子を見せていたコレットだったけど、私が背中を押しながら促せば「すぐ!すぐ戻ってくるからね!!」と少し小走りにその場を去って行った
さて
「アーレス先生、先ほどはありがとうございました。おかげで公衆の面前ではしたない姿を晒さずに済みましたわ」
シェリーにこんな固い言葉を向けるのは慣れないが、未だに私たちに向けられる視線は多いため、ここはちゃんと線引きをしなければいけない
それはシェリーも分かっているのだろう
「いえ、とんでもございません。人として当前のことをしたまでですよ」
一瞬だけ少し寂しそうな顔を浮かべたものの、そのあとの対応は普通の教師と言えるものだった
義務的な会話を続ける私たちを見て、さっきまで騒いでいた生徒たちも段々興味を無くしていったのか、漸く私たちの存在を周りが気にしなくなった頃
「セツィーリア様、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、シェリーがすぐに支えてくれたし」
小さな声で問いかけてくるシェリーの顔には心配でたまらないという感情が滲み出ていた
全く、ちょっとよろけたくらいでみんな大げさだな~
小さい頃なんて木から落ちてもピンピンしてた人間だよ?
こんなことで心配されるような軟弱な体してないのよ!
「それなら、良かったです」
ふにゃっとした笑顔を浮かべるシェリーに危うく変な声が出そうになった
あ、危ない危ない
今日の私はシェリー耐性が整っていないから簡単にノックアウトされそうだ
気持ちを落ち着かせるためにもここは一旦シェリーと距離を取ろう
「そ、それより、シェリー今日はうちのクラスで歴史学を教えてくれるって約束をしてたんでしょ?もうみんな待ってたから早く行ってあげなよ!」
「…メリさんが戻ってくるまで一緒にいますよ?」
「え!?いやいや、子どもじゃないんだから一人でも全然平気だよ!?」
「ですが…」
シェリーが言い淀んだその時だった
「あっ、いた」
小さな呟きだったけどすんなりと私の耳に入ってきた声
バッ!とその方向に目を向ければそこには思っていた通りの人物が
「お久しぶりです、シェイルス先生」
小さく笑みを浮かべながら、クロスは私たちの元へとやってきた
0
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!
アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。
その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。
絶対火あぶりは回避します!
そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる