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第三章
小娘だからこそ
しおりを挟む懐かしいことを思い出していたら少し笑みが零れた
「セツィーリアちゃん?」
いきなり笑った私を見て疑問に思ったハルが声をかけてきた
「社交界の普通がどういったものなのかは重々承知しております。けど、私たちノワール家では、幼い頃から一緒に時を過ごした者は全員、使用人であろうとなかろうと家族だと思ってますわ。だから…」
少しの間を置いて、ハルの顔を覗き込む
近くで見れば見るほど綺麗な顔をしていると思う
けど、だからだろうか、こいつの感情もまるで作り物のようだと感じるのは
「だから…くれぐれも私の前で私の大事な家族であるクロスのことを軽んじるようなことは言わないでくださいね?……まだまだ小娘だからこそ、切れたら何を仕出かすか分かりませんからね?」
耳元に口を寄せてハルにしか聞こえない声でそっと脅す
顔を戻してこいつがどんな顔をしているのか見てやったら
「……あなたって変態?」
「…いきなり酷いな~」
「それならそんな楽しそうな顔をしないで下さる?気味が悪いわよ」
「それはそれは…セツィーリアちゃんが期待以上だったから面白くって」
期待ってなんの期待だ
私はお前に期待されるような奴じゃないしされたくないんだけど
私の脅し文句をなんとも楽しそうな顔で聞いていたハルの腕の中からスルリと抜け出た
こいつが油断してくれたのか、それとももう私には用なしだから離したのかは知らない
けど、ただ一つだけ確かなことはある
「ねぇやっぱりあの二人って…!」
「うわぁ、セツィーリア嬢ってあんな大胆な子だったのか…」
「おいお前何ニヤけてんだよ!」
「だってよ…!もしかしたらあのノワールのお嬢様とさぁ…!」
「ハル様~~!!」
「セツィーリア様ばかりずるいですわ…!」
今この教室の中で私とこいつのあらぬ誤解が瞬く間に広がっていることだけは分かる
嫌でも分かる
クロスのことで全部吹っ飛んでたけど、
教室の真ん中であれだけ接近してるだけでも大変なのにどうやらこいつも有名人みたいだから余計悪目立ちをしてしまった
あぁ…あらぬ噂が広まってしまったらノワール家の恥だぞセツィーリア…!
「あんれ~??セツィーリアちゃんどうしたの~?顔色が悪いぜ~」
は、腹立つこいつうううううう!!!
しかもニヤケ面が余計に神経に障るんだけど…!!?
だめよセツ…ここで冷静を失ってはハルの思う壺よ
とにもかくにも今は一刻も早く退散するに限るわ
「あなたの下らない罰ゲームにも付き合ってあげたのだからもういいかしら。私はあなたみたいな暇人じゃないの」
周りの子たちにも聞こえるような声でハルにそう告げてから颯爽と教室を出る
これで少なからず私とハルは親しい仲じゃないってことは伝わるだろう
あとはもう、どうかどうか私に直接何かあるなら言いに来いと願うしかない、口で負けるつもりはないからな
幸い次の授業は自習だから、あと少ししたらコレットと合流でもしようかな
そう思いながら当てもなく学園内を歩いて十数分後
「ああ!!あいつが私に絡んでくる理由聞くの忘れてた!!」
間抜けな声が響き渡ったが、幸いそれを聞いている人物はいなかった
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