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第三章
利用
しおりを挟む未だに笑っているハルにいつまでも構っている時間はもちろんなく、このまま帰ろうとしたその時
「これからよろしくね~、セツィーリアちゃん?」
なんか含みのある言い方で言われ、横目でハルを一瞥してから
「私としては、よろしくしたくないけどね」
そう言い残して私は教室の入り口で待っているコレットの元へと向かった
「さて、お手並み拝見といこうかね~」
愉快そうに笑いながら呟いた言葉は私の耳に届くことはなかった
「セッちゃん!大丈夫だった!?」
「大丈夫大丈夫!変な奴だったけど、今のところ悪い奴には見えないから」
そう、今のところはね
変な奴で、正直謎に包まれてるハルだけど……少なくとも敵意は向けられていなかった気がする
それだけでも分かれば今は充分だ
それに変に今までの奴らみたく媚びてくる様子もないからとりあえずは要観察ってとこかな
「そっか、なら良かった」
安心したように息をつくコレットの優しさに癒されながら寮に戻る帰路についていれば
「ゲッ」
「あら」
会いたくもない面倒くさい奴に会ってしまった
「お久しぶりですわね、セツィーリア様」
「えぇ、久しぶりねアイシャ、身体の調子はどう?」
「最近どっかの誰かさんと同じ空気を吸っていなかったからとても調子が良いですわ」
「そう、確かにそれだけぞろぞろと取り巻きを引き連れて歩けるくらいには元気そうで良かったわ」
会って早々ギスギスした空気を生み出させた張本人はここ数年でさらにソフィを崇拝し、さらに私を憎むようになったアイシャだ
見た目はさらに可憐にかわいくなったと言うのにどうして中身はこんなにも残念に育ってしまったのだろう
え?何?私が言うなって?だからうるせえって!!
「それじゃあ私達はこれで」
また何か嫌味を言われる前にさっさと退散しようと思ったけど、そう簡単にこいつがそれを許すはずもなく
「ところで、セツィーリア様?そちらの方は紹介してくださらないの?」
しかも最悪なことにコレットに目を付けやがった
心の中で舌打ちをしながらアイシャを振り返る
ここは無難に紹介だけして帰れれば万々歳だ!
「やだわ、私ってばうっかりしてたみたい。アイシャ、こちらはコレット・メリ嬢ですわ。コレット、こちらはアイシャ・ウォーレイですわ。さっ、紹介も済んだ事ですし、私達ははやく」
「コレット様、私のことは気軽にアイシャと呼んでください」
「あ、ありがとうございます、アイシャ…様」
チッ!!アイシャの奴め何を企んでやがる!!
本性を知った今じゃその笑顔だって純粋なものじゃないってのは分かるんだからな!?かわいい顔して笑ったって分かるんだからな!?
「そうだ!コレット様?これからお近づきの印に皆でお茶をしようという話になっているんですの。コレット様も一緒にどうかしら?」
「あの、招待は嬉しいんですけど、私セッちゃんと一緒に帰るって約束してて」
「…セッちゃんね……それなら大丈夫じゃないかしら、セツィーリア様はそのようなことを気にする方じゃないですし、むしろ一人でいるほうがお似合いとは思いませんこと?」
私のあだ名をとんでもなく冷めた顔で呟いたアイシャはお得意の仮面笑いでコレットをお茶に誘った
てかなんだお前!?お前までナンパ!?やめろよネタ被ってんだよそれもう私が何話か先でやってんだよ!!
つぅかなんでお前が知った口で私を語るわけ!?私とお前仲良くないよね!?むしろ天敵だよね!?
……はっ!待てよ?……分かったぞこいつの魂胆が
こいつ……コレットを自分の取り巻きに入れて私を孤立させようとしてる……!!
そう理解した時、ふつふつと怒りが湧きあがってきた
アイシャが私から友達を奪おうとしていたこともそうだけど、何よりこいつがコレットと友達になりらいから、という理由ではなく、ただ私を苦しめたいからとコレットを利用しようとしてることに対しての怒りがどんどんと大きくなっていった
「アイシャ、あんた!!」
アイシャに文句を言おうとしたその時
「ごめんなさいアイシャ様。私、セッちゃんと一緒に居たいのでお茶会には行けません。折角誘ってくれたのに申し訳ございません」
はっきりと通ったコレットの声で場は静まり返った
嘘くさい笑顔を浮かべていたアイシャも全員同じ顔に見えるありきたりな取り巻きも、そして私も、皆コレットの言葉に目を見張った
「さっ、セッちゃん帰ろ!」
「え!?あっ、う、うん!」
コレットに手を引かれて漸く我に返った私はアイシャを一瞥してからそのままコレットとその場を去った
少し小走りをしてもうすぐ寮というところでコレットを歩みを緩め、私の手を離した
「ごめんねセッちゃん、勝手なことしちゃって」
「ううん、全然。むしろありがとう、私もあの場から離れたかったから」
そう言って微笑む私に釣られたのかコレットも小さく笑みを浮かべる
でも、私には少し気にする事があった
「ねえコレット、さっきアイシャが言っていたお茶会だけど…もし本当は行きたいけど私を気にして行かないって言ってるんだったら私のことは…」
「もう!そんなんじゃないよセッちゃん!確かにお茶会も魅力的だと思うけど、私はセッちゃんといる方が楽しいから断ったんだよ!本当に本当なんだからね?」
プンプン、なんていう効果音がつきそうなくらいかわいらしく少し怒っているコレットになんと言っていいのか分からない
分かるのはただ一つ
マジでこの子天使!!
「それに、なんだか上手く言えないけど…私、アイシャ様がちょっと苦手なんだと思う……本当に失礼なことを言っている自覚はあるんだけど!その……笑っているのに笑ってないような感じがして」
気まずそうに言うコレットを見て私のゆるゆるデレデレ、略してユルデレモードが一気に引き締まった
コレット、やっぱりこの子すごい子だ
初対面で本能的にアイシャの裏の部分に気づくなんて、人間観察能力は私よりすごいかもしれない
ていうか普通にあれなのかな?マジもんのピュアだからこそ分かる偽ピュアの特徴があるのかもしれない
まあ、どちらにしろこれからはさらにアイシャに気をつけなければならなくなったな
「コレット、コレットは絶対に私が守るからね?信じて」
「?セッちゃん?」
去り際に見たアイシャの歪んだ顔は忘れられそうにない
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