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第三章
ナンパ
しおりを挟む今まであんなに騒がしかった教室が一気にシーンと静まった
私の目の前には一番押しが強かった女の子二人
先程までの威勢はどこへやら、二人は身を寄せ合って畏怖を帯びた目で私を見てきた
ハッ、さっきまでの媚びた面とは大違いだな
だが…私はこっちの顔を見るほうがある意味好きかもしれない
はは、我ながらいい性格してる
「あなたたち、恥を知りなさい」
鋭く発せられた言葉によって二人はさらに縮み上がった
「一家の令嬢ともあろう者がはしたなく騒ぎたて、礼儀も気遣いも知らないなんて、一体どんな教育を受けたらそうなるのかしら」
「あ、あの、私達、何かセツィーリア様の癇に障るようなことを?」
「それでしたら謝りますわ!だから」
「ふふふ」
「「!?」」
必死に言い繕う女の子たちの慌てようは見てて面白い
面白すぎて、ついつい悪役みたいなニヒルな笑みが浮かんできてしまう
「ここまで言っても理解に達しないのもある意味才能ですわね?」
「…っ」
「理由も分かっていないのにあなたたちは一体何に対して謝るつもりでいるのかしら?私を口先だけの言葉で通用する相手として捉えているのだとしたら、私も随分と下に見られたものだわ」
「そ、そんな!!」
「私たち、そんなつもりは一切ありませんわ!セツィーリア様、信じてください!」
一方は青ざめながら固まり、一方は青ざめながらも必死に弁解を繰り返していた
だからさあ、違うんだよなー、根本的に
「はあー…」
ビクッ!
ため息を吐いただけでびびらせるとか…
これじゃセツィーリアの本職である悪役令嬢の本領発揮みたいなもんだな
仕方ない、もう少し優しく教えてやるか
自分の非が何かも認識していなかったら、叱っても何の意味もない
「私があなたたちに言いたかったことは、自分の行動のせいで無関係の人が迷惑を受けていることに気づきなさい、ということよ」
未だにきょとんとしてる女の子たち
しかもそれは目の前の二人だけでなく、その他大勢も同じ考えだということが空気からして伝わった
全く!どいつもこいつも目が節穴なのか!?あの子が突き飛ばされたとこを見ていたのは私だけじゃないはずなのに!!
今ではすっかり野次馬になった他生徒を横目で一睨みする
私の目線に気づいた人は皆ビクッと身体を震わせ顔を強張らせた
「リナ・モーブ様、でしたわよね?あなた、先程一人の女生徒を突き飛ばしたことには気づいていないの?」
「え?…あぁ、あの子のことですか?」
そう言ってリナ・モーブが指差したのは間違いなくあの子だった
は?何?分かってたわけ?
分かってて無視して謝らなかったわけ??何それもっと許すまじなんだけど
…それに、何か様子がおかしい
あの子を指差したリナ・モーブの顔にはなぜか嘲笑が浮かんでいた
「セツィーリア様、あの子は気に掛けるような子ではありませんわ。メリ家なんて貴族とは名ばかりの、持っているのは中途半端に広い土地と畑だけの田舎貴族ですわ。あなた様があんな子を気にする必要なんて全く」
「あんな子??」
「!!……っ」
出た出た
この世界の何が嫌かって、地位と名声で人を判断してるとこだよ
それにしてもこの子も懲りないな
私が怒っていることに気づいていながらみんなの前であの子に対してあんなこと言うなんて、大した度胸してるじゃないか
真っ直ぐとリナ・モーブだけを見据えて一歩一歩近づいていく
それに比例して彼女は一歩一歩下がっていった、震えながら
そして、彼女が机によってそれ以上下がれなくなった時、私は一気に彼女との距離を詰めてその細い顎を掴んだ
所謂顎クイ状態だけど、悲しいことにリナ・モーブの顔には恐怖の感情しかなかった
酷いな~、私これでも両親譲りの遺伝子があるから顔は整ってるほうなんだけどな~
多分、男装したらもっと違う反応がもらえたかもしれないね
心の中で適当にそんなことを考えながら、リナ・モーブに顔を近づける
「そうやってでしかクラスメートを見れない人とは分かり合える気がしないわ。悪いのだけど、今後はもう私に話しかけないで下さるかしら?私、その人のことをよく知りもしないくせに馬鹿にするような人とは関わりたくありませんの。そのこと、よぉ~く肝に銘じておいたほうがいいですわよ?リナ・モーブ…様?」
囁くような声でリナ・モーブの耳元で呟けば、後ろに仰け反ったリナ・モーブはそのままがくがくと膝を震わせながら床にへたり込んだ
すぐにあのもう一人の女の子が側に駆け寄るけど、二人共顔面蒼白で私のことを何かの化け物を見るかのような目で見てきた
失礼だな~、ちょっとお説教しただけなのにそんなに怖がる必要なくない?
ある意味アイシャより貧弱だな~
冷めた目で二人を見下ろした後、私の意識は完全にこの二人を排除した
何事もなかったかのように身を翻して教室を一度見渡した
途中野次馬集団にも目線がいったが、みんなしてビビッた顔をして私と視線を合わさないように目を逸らしていた
分かってはいたけどこいつらはこいつらで分かりやすいなー
もうちょっと誤魔化し方があったでしょ
まあ、今はこいつらのことはどうでもいい
私の今のお目当ての人物はただ一人だけだ
今までの一部始終を見ていながら、他の人たちとは違い恐怖も畏怖も感じられないような顔で、ただただ純粋に驚いてる顔をしている彼女に近づく
そして、今までの声とは違い、優しい声で私は
「一緒にお茶でもいかが?」
人生初のナンパに挑戦した
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