上 下
88 / 130
第三章

ナンパ

しおりを挟む


今まであんなに騒がしかった教室が一気にシーンと静まった

私の目の前には一番押しが強かった女の子二人
先程までの威勢はどこへやら、二人は身を寄せ合って畏怖を帯びた目で私を見てきた

ハッ、さっきまでの媚びた面とは大違いだな
だが…私はこっちの顔を見るほうがある意味好きかもしれない
はは、我ながらいい性格してる


「あなたたち、恥を知りなさい」


鋭く発せられた言葉によって二人はさらに縮み上がった


「一家の令嬢ともあろう者がはしたなく騒ぎたて、礼儀も気遣いも知らないなんて、一体どんな教育を受けたらそうなるのかしら」

「あ、あの、私達、何かセツィーリア様の癇に障るようなことを?」

「それでしたら謝りますわ!だから」

「ふふふ」

「「!?」」

必死に言い繕う女の子たちの慌てようは見てて面白い

面白すぎて、ついつい悪役みたいなニヒルな笑みが浮かんできてしまう


「ここまで言っても理解に達しないのもある意味才能ですわね?」

「…っ」

「理由も分かっていないのにあなたたちは一体何に対して謝るつもりでいるのかしら?私を口先だけの言葉で通用する相手として捉えているのだとしたら、私も随分と下に見られたものだわ」

「そ、そんな!!」

「私たち、そんなつもりは一切ありませんわ!セツィーリア様、信じてください!」


一方は青ざめながら固まり、一方は青ざめながらも必死に弁解を繰り返していた


だからさあ、違うんだよなー、根本的に



「はあー…」


ビクッ!

ため息を吐いただけでびびらせるとか…
これじゃセツィーリアの本職である悪役令嬢の本領発揮みたいなもんだな

仕方ない、もう少し優しく教えてやるか
自分の非が何かも認識していなかったら、叱っても何の意味もない


「私があなたたちに言いたかったことは、自分の行動のせいで無関係の人が迷惑を受けていることに気づきなさい、ということよ」

未だにきょとんとしてる女の子たち
しかもそれは目の前の二人だけでなく、その他大勢も同じ考えだということが空気からして伝わった

全く!どいつもこいつも目が節穴なのか!?あの子が突き飛ばされたとこを見ていたのは私だけじゃないはずなのに!!


今ではすっかり野次馬になった他生徒を横目で一睨みする
私の目線に気づいた人は皆ビクッと身体を震わせ顔を強張らせた


「リナ・モーブ様、でしたわよね?あなた、先程一人の女生徒を突き飛ばしたことには気づいていないの?」

「え?…あぁ、あの子のことですか?」


そう言ってリナ・モーブが指差したのは間違いなくあの子だった
は?何?分かってたわけ?
分かってて無視して謝らなかったわけ??何それもっと許すまじなんだけど

…それに、何か様子がおかしい
あの子を指差したリナ・モーブの顔にはなぜか嘲笑が浮かんでいた


「セツィーリア様、あの子は気に掛けるような子ではありませんわ。メリ家なんて貴族とは名ばかりの、持っているのは中途半端に広い土地と畑だけの田舎貴族ですわ。あなた様があんな子を気にする必要なんて全く」

「あんな子??」

「!!……っ」


出た出た
この世界の何が嫌かって、地位と名声で人を判断してるとこだよ


それにしてもこの子も懲りないな
私が怒っていることに気づいていながらみんなの前であの子に対してあんなこと言うなんて、大した度胸してるじゃないか

真っ直ぐとリナ・モーブだけを見据えて一歩一歩近づいていく
それに比例して彼女は一歩一歩下がっていった、震えながら

そして、彼女が机によってそれ以上下がれなくなった時、私は一気に彼女との距離を詰めてその細い顎を掴んだ
所謂顎クイ状態だけど、悲しいことにリナ・モーブの顔には恐怖の感情しかなかった
酷いな~、私これでも両親譲りの遺伝子があるから顔は整ってるほうなんだけどな~
多分、男装したらもっと違う反応がもらえたかもしれないね

心の中で適当にそんなことを考えながら、リナ・モーブに顔を近づける


「そうやってでしかクラスメートを見れない人とは分かり合える気がしないわ。悪いのだけど、今後はもう私に話しかけないで下さるかしら?私、その人のことをよく知りもしないくせに馬鹿にするような人とは関わりたくありませんの。そのこと、よぉ~く肝に銘じておいたほうがいいですわよ?リナ・モーブ…様?」



囁くような声でリナ・モーブの耳元で呟けば、後ろに仰け反ったリナ・モーブはそのままがくがくと膝を震わせながら床にへたり込んだ
すぐにあのもう一人の女の子が側に駆け寄るけど、二人共顔面蒼白で私のことを何かの化け物を見るかのような目で見てきた


失礼だな~、ちょっとお説教しただけなのにそんなに怖がる必要なくない?
ある意味アイシャより貧弱だな~


冷めた目で二人を見下ろした後、私の意識は完全にこの二人を排除した

何事もなかったかのように身を翻して教室を一度見渡した

途中野次馬集団にも目線がいったが、みんなしてビビッた顔をして私と視線を合わさないように目を逸らしていた

分かってはいたけどこいつらはこいつらで分かりやすいなー
もうちょっと誤魔化し方があったでしょ


まあ、今はこいつらのことはどうでもいい


私の今のお目当ての人物はただ一人だけだ

今までの一部始終を見ていながら、他の人たちとは違い恐怖も畏怖も感じられないような顔で、ただただ純粋に驚いてる顔をしている彼女に近づく

そして、今までの声とは違い、優しい声で私は




「一緒にお茶でもいかが?」





人生初のナンパに挑戦した



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!

ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。 気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。

見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!

すな子
恋愛
 ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。  現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!  それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。  ───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの? ******** できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。 また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。 ☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...