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第二章
救出
しおりを挟む「取り押さえろ!!!」
怒声で現実に引き戻されてハッ!と目を見開く
再びものを映すようになった目にはギリギリのとこで止まっているサバイバルナイフ
あ、危ねぇー!!これ後一秒遅かったらとんでもないグロテスクシーンになってたとこだよ!!
ゴクンッとやけに唾を呑み込む音が耳に響いた
次の瞬間
数々の足音と共に素早い何かが私の目の前を横切った
それが何か認識した時、もう既に男は複数人によって取り押さえられた後だった
そして私は今シェリーの腕の中にいる
まあ簡単に言えば、抱きしめられているという訳ですはい
ちなみにさっき私の目の前を横切ったのはシェリーの足だ
怒声によって一瞬怯んだ男の隙を見逃さずに丁度こっちに向かって走って来ていたシェリーが男の手ごとナイフを蹴り飛ばしたのだ
そしてすぐさま男の顔面に向かって右フックにアッパー、最後の極めつけにかかと落としをお見舞いしていた
まだ私は仰向けに倒れたままだったからこれら全ては私の上で行われており…まあ正直近くで見るもんじゃねえなって思った
あと、シェリーの流れるような鮮やか攻撃マジすげえと思った
てかすげえ通り越してやべぇと思ったですはい
かかと落としによって今度こそ完璧に沈んだ男を取り押さえる人たちの服を見る
あの白を基調とした青のラインが入っている制服……それにあのマントに描かれている紋章
あれって……
もう少しで思い出せそうっていう時に
「セツィーリア様!!」
「うおっ!」
私はシェリーに腕を引っ張られそのまま抱きしめられたのだ
痛いくらい強く抱きしめてくるシェリーに少し力を緩めるように言おうとして気づいた
シェリーの心臓がうるさいくらいバグバク鳴ってること
そして、私に回された腕や手、身体全体が震えていることに
「……ごめんね」
「……どうして…どうしてすぐに外に出なかったんですか!!鳩尾に一撃入れるだけだったから数分しか時間が稼げないのにわざわざ近くに寄るなんて!!」
肩を掴む手から震えが伝わる
見上げたシェリーの顔は本気の本気で怒っているのだと察した
「ごめん、ごめんなさい…私もあの男にムカついてたから…気絶してるのをいいことにシェリーやキュアラちゃんを傷つけた分の仕返しをしようと思って…」
「あなたはそんな事しなくていいんです!!」
「うっ」
いやさ、分かるよ?分かるけどさ…しょうがないじゃん!!私やられたらやり返す人なんだもん!!自分のことじゃなくても、大事な人が傷つけられたのに黙ってられるような質じゃないんだもん!!
でも
「本当に……心臓が止まるかと思いました…」
コツんと私の肩に額を載せ弱々しく呟くシェリー
シェリーにとんでもない心配をかけさせたのは事実
1度大事な人を亡くしてるシェリーの前で少しでも死を覚悟した自分が情けないし恥ずかしい
「うん…ごめんね本当に……反省してます」
恐る恐るといった感じでシェリーの頭を撫でる
弾かれなかったからそのままゆっくりと続けていれば
「お二人共、ご無事ですか?」
突然掛かった声にバッ!とシェリーが私から離れた
俯きながら前髪を整えているけど…おーい美人さーん、耳が少し赤くなってますよ~
なんだいなんだい、自分より小さい子に寄りかかってたのを見られて恥ずかしいのか?お主もウブよのう~
ニヤニヤしそうになる顔を抑えながら声をかけてきた人物を見る
さっき見た兵達の制服より豪華な刺繍が付いてるし構造もこの人の制服の方が凝ってる
さっきは思い出せなかったけど…この人の外套にも付いてる紋章、これは
「遅くなって申し訳ありません、お怪我はございませんか?」
「え、えぇ…」
本でしか見たことがないけど、この切っ先が合わさっている三本の剣の紋は
王室騎士団のものだ
助けてくれたのは本当に感謝してる
この際なぜこの場所が分かったか、なんて野暮な質問をするつもりはない
どうせシェリーが何か手がかりを残したのだろう
でも、どうして王室騎士団が直々に?
「申し遅れましたが、私は王室騎士団団長のアスラン・ルークと申します」
しかも団長かよおおおおおお!!!!
もしかしたらと思ってたけどやっぱりそうだったああああああ!!!
道理で他の人となんか威厳つうか雰囲気が違うと思った!
てか王室騎士団団長ってめちゃくちゃすごい人だよね!?本当になんでこんな所にいるわけ!?
「まだ少し混乱しているようですね、無理もありません。詳しいお話は馬車の中で、急ぎましょう、ノワール邸にてあなた様の家族と…あの御方がお待ちです」
無骨で私の何倍もある手が差し出された
そしてもう一つの手も…シェリーもいつの間にか立ち上がって私に手を差し出していた
おおぅ…なんか久々に受けたぞこのお姫様待遇
いや、久々?……待て待て、まず私お姫様待遇なんていつされた?
…………やめよう、考えるのはやめよう虚しくなってくる
外面である笑顔を貼り付けて
「ありがとうございます」
と言って二人に手を重ねる
ルーク様の手の感触はやはりというか、剣タコでいっぱいのとてつもなく硬い手だった
よし、とりあえず外面を被れるくらいには回復した
でもまだまだ状況の理解は出来ない
まず疑問に思ってることを一つ一つ聞いていこう
「ルーク様、私達の他にもう1人女の子がいましたの、その子はどちらに?」
「彼女なら先に保護して馬車に乗せています。心配はいりません」
「そう」
チラッとシェリーを見れば笑顔で頷いていた
なるほど、シェリーは知ってたのね
まっ、そりゃそっか、妹を危険な状態のまま後回しにするはずないもんねこのシスコンが
てか後回しにしてたら私が許してないし
「それで…あの御方というのは一体誰なんですか?」
「それはお屋敷につけば自ずと分かります」
つまり今言う気はないと、はいはい
どうやら、私の謎を解いてくれるのはその"御方"らしい
ルーク様にエスコートされながら私は数時間ぶりに外に出た
少し後ろを振り返って見れば外観も焼けた跡で酷いものだった
シェリーを見れば少し悲しそうにその"家だった"建物を見上げている
言わなくても分かる、あの男と話している内に気づいた
ここはシェリー達の家だった場所だ
全ての始まりで…幸か不幸か全ての終わりにもなった場所
シェリーは今どんな気持ちなんだろう…
私が馬車に乗り込む時には、もういつも通りのシェリーに戻っていた
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