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第二章
火傷
しおりを挟む「セツィーリア様は知っていたんですね、妹が私に残された最後の家族だって」
「えっ!?」
「さっき叱ってくれた時、そう言ってましたよ?」
「マ…」
マジでか…
完全に無意識だった…
「ごめんなさい、勝手に本人以外の口から」
「いえ、いいんです。今回もセツィーリア様のその言葉に救われましたし」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、それでもやっぱり、後ろめたい気持ちはまだ少しある
「私の家は下級貴族の家で、そんなに裕福ではなかったんですけど家族四人で幸せに暮らしていました」
うん、そう語るシェリーの顔を見れば、どれだけ家族を大事にしてるか伝わってくるよ
「家族に負担をかけたくなくて学院には特待生として入りました。そう決まった時両親はとても喜んでくれたんです。だから私、一所懸命勉強して立派な仕事について家族に楽な暮らしをさせてあげたかった」
「シェリーは昔から家族思いのいい子だね」
「そんなことないですよ。……それで、入学して二年が経った時です、うちが火事になったのは」
「っ…」
エドさんからその火事でシェリーは御両親を亡くしたことを聞いた
でも、シェリーの様子を見る限り…多分それだけじゃないと思う
だって
さっきまですごく柔らかい顔をしてたシェリーの顔が一変した
「その日、深夜なのに妙に明るいと思って目が覚めたんです。そしたら焦げ臭い匂いがしたから嫌な予感して…部屋の扉を開けたら、もうそこは火の海でした」
想像しただけで怖い
私がもしその場にいたら多分一歩も動けなくなる
「一瞬で頭が真っ白になりましたよ。でもパニックになるよりも先に頭をよぎったのはキュアラや父たちのことで、急いで妹の部屋に行きました。寝てた妹を起こして両親の寝室にも行きましたがそこはもぬけの殻で、もしかして入違いになったのかもしれないと思って先に妹と家を出ました。でも外に出ても両親はどこにもいなくてすぐにまだ中に取り残されてるって気づきました」
「……それで、シェリーは戻ったんだね、御両親を探しに」
「はい…妹には近くの家に避難して人を呼んできてほしいと頼みました、この子は幼いながらしっかりしていたので。それで、私はもう一度家の中に飛び込みました。中は既に酷い有様で、煙で前も見えない状態で最悪な事態を覚悟しながら家中を探しました。部屋ももう一度確認したし広間や厨房、浴室なども見て回ったんですけどどこにもいなかったんです。これ以上はもうだめだって諦めたその時、知らない男性の後姿が見えたんです。もしかして妹が呼んできてくれたのかもしれないと思ってその男を追いかけました。そして、開け放たれた書斎の前を通った時……血まみれになった父と母が倒れてるのを見ました」
「!っ……それって」
「父と母はその男に殺されたんです。そして恐らく家に火をつけたのも」
……何かある
そう思っていたけど、まさかここまでとは…
見ればシェリーは膝の上で硬く拳を握り締めていて、見たこともないくらい鋭い目つきになっていた
その目が自分に向けられたものではないと分かっていながらも、背筋がスッと冷たくなったのを感じた
「それで、シェリーはどうしたの?」
「……セツィーリア様、先日の、私の肩の火傷覚えてますか?」
「っ!………うん、あの時はごめん」
「いえ、私の方こそ手を振り払ってしまってすみませんでした」
いきなりこの前の話が出たから少しびっくりした
でも、流石に私でも気づく
今この話を出すということは、やっぱりあの火傷はこの事件と関係してる
「あの火傷は、私がその男につけられたものです」
「つけられたって……シェリーまさか犯人と接触したの!?」
「接触どころか襲いかかりましたね」
「襲い掛かったあ!!?あっ、やばいやばい声抑えなきゃ」
慌てて自分の口を手で塞ぐが心臓がバクバクいってる
二年前って事はシェリーはまだ14歳…それで殺人犯に襲いかかるってなんて無茶なことを!!
キッとついシェリーを睨んでしまったがシェリーは私を見て苦笑いを浮かべるだけだった
「無茶なのは自覚してます。でも、あの時は父と母の姿が頭から離れられなくて、気づいたら殴りかかっていたんです」
哀しそうに言うシェリーの顔を見たら心臓を掴まれる思いだった
そうだよ、ね……親の、親が亡くなってるところを見てショックを受けないなんて子はいない
しかもシェリーは家族のことが大好きだったんだから、人一倍辛かったはずだ…!
「でも、大の男に適うはずもなく、私は碌に反撃もできない内に押さえつけられました。そして……あの男は私の肩に火で熱した棍棒を喜々として私の肩に押し付けてきたんです。"一生この傷を背負って生きていけ。この絶望を忘れるな"黒い布で顔を覆われている男の声はとても楽しそうに聞こえました。そこで私の意識は途切れ、次に目が覚めたのはよくお世話になっていた教会のベッドの上でした」
火事の二日後に目を覚ました私は、家の火事が事故として片付けられたのを知って必死に抗議しました
あれは事故なんかじゃない!俺は犯人を見たんだ!そう訴えても誰も信じてくれず、挙句の果てに事故のショックでおかしくなったとまで言われました
その上、犯人を見つけ出す前に私たちは生きる術をなくしたんです
数少ない親戚方は自分の家で手一杯で私たちを引き取る余裕はないと口々に言いました
でも、私はそうしてくれた方が助かったんです、もう誰にも迷惑をかけたくなかったから
だから私はキュアラを守る為に学院を14歳で卒業しました。本当はすぐにでもやめようと思ったんです。でも…父と母は本当に私の入学を喜んでくれていたから、その思いを踏みにじるようなマネは出来ませんでした。だから半年かけて飛び級による卒業を迎えて、そしてすぐに働き始めました
手で火傷のある方の肩を抑えながら淡々と話し続けるシェリー
私は卑怯にも、シェリーから顔を背けた
これ以上見てたら、耐えられないと思ったから
「色んな仕事をやりました、辛いものや大変なもの……セツィーリア様に言えないようなこともたくさん。でも、後悔はしていません、それらの収入のおかげで今私とキュアラは生きられているから」
きっぱりと言い切るシェリーからは本当に微塵も後悔しているような素振りは感じられなかった
力強い言葉から揺ぎ無い意志が垣間見える
キュアラちゃんのために自分を犠牲にしてきたシェリー
それじゃあさ……シェリーの幸せはどうなるの?
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