上 下
29 / 130
第一章

ユーリ・ノワール

しおりを挟む



「ユーリ…」

「何?ていうか、何これ、なんで全然涙止まらないわけ!?」

「ユーリ、ユーリは化物なんかじゃないよ」

「っ……いいよ気休めは、僕もう気にしてないから」


私の涙を拭ってくれるユーリの手を握るも、ユーリの手はパッと私の手からすり抜けた


「私が気休めを言えるような器用な人間に見える?」

「見えない」

「そこは一回嘘でも見えるって言いなさい」

ツンッとユーリの額をつっつく
ちなみに涙は絶賛流れ中だ

この際目の蛇口が治るまでこのままにしておこう


「ユーリ、あなたは綺麗よ」

「だからもういいって」

「ちゃんと聞いて」

「やだ」

「ねえ」

「聞きたくない」

「ユー」

「聞かないって言っ」

「いいから黙って耳の穴かっぽじってよおーく聞けつってんでしょ??」


顔を背けようとするユーリの顎を掴んで無理やりこっちに向かせる
傍から見たらこれって顎クイじゃない!?立場逆だけど!私泣きながら怒ってるし笑ってるけど!

駄々っ子みたいに嫌々してたユーリも私の顔を見たら顔を引きつらせて黙った
よし!


「ユーリ、あんたは聞きたくないかもしれないけど私は何回でも何十回でも何千回でも言うわ。あんたは化物なんかじゃない。あんたの髪も瞳も、何もかも綺麗でとても美しいものなんだって」

「……」

「私、ユーリを初めて見た時、正確には初めて目を合わせた時、本人に言うのも恥ずかしいんだけど、あなたの瞳に見惚れてた」

「え?」

こぼれんばかりに目を見開くユーリ
ふふ、なんかこうしてると初対面の時に戻ったみたいね
あの時もこうして詰め寄って…私が綺麗って言ったとき、ユーリは目を見開いて驚いてたよね
あの時は分からなかったけど、今なら驚いた理由が分かる

「真紅の瞳を見つめているととても幻想的な気分になったの。まるであんたの瞳に吸い込まれるのかと思った」

「なっ!?」

ここで赤くなるなんてまだまだ子供の証拠だねユーリ

「その髪も。サラサラで柔らかくて、本当に羨ましいと思ったのよ?ほら私の髪ちょっと天パ入ってるから。それに知ってた?あんたの髪、本当に純白で光に当たるとすごい輝くのよ?冗談なしにこの子天使なのかと思ったわ」

「て、天使って…!そんな恥ずかしいことよく普通に…!!」

「それに、これは私個人の問題なんだけど…私実は白が一番好きな色なの。だから、ユーリの髪がとっても好きよ!」


顎を掴んだままユーリの前髪に口付ける

ちゅっ

と小さなリップ音がして顔を離せば暗くても分かるくらい顔を真っ赤にしているユーリ
もー、かわいいなーこの弟は!

わなわなしてるユーリの顎から手を放す

そして軽く抱き寄せてから大好きな髪を撫でた
いつの間にか涙は止まっていた


「私はルビーみたいなユーリの紅い瞳が大好き。キラキラ光るユーリの純白の髪も大好き」

「……」

「素直じゃなくて少し捻くれてるユーリも大好きだし」

「なっ!」

「実はちょっと猫を被ってるユーリも大好きかな~」

「ちょっ!」

「あっ、怒ったとき口調が変わっちゃうユーリも大好きだね~」

「い、いい加減にしろよ!!」


腕を突っぱねて私と少し距離を取るユーリ
まあ私の腕はまだユーリの背中にあるから大して距離は開いてないけど
あっ、そうだ!これも忘れちゃいけないよね!


「それと、意外とすぐに真っ赤になっちゃうユーリも大大大好きかな~!」


再び抱き寄せてうりうり~とトマトみたいに紅くなってるユーリのほっぺたをつっつく

「や、やめろよ!」と言っている声に怒気を感じないのはもっとやっていいって言うことかな?フリ?これってやっぱフリじゃない?

一通りユーリを愛でてからかい倒した後、抵抗が無駄だと分かったのか大人しく私に寄りかかるユーリがポツリと呟いた


「……僕は本当に化物じゃないのかな?」

「まだ言うか」

「待っ!もうくすぐりはやめて!!」

慌てて手を前に突き出すユーリ

その目には未だに不安と困惑の色が混じっていた
……そうだよね、いくらそんなことないって言っても、小さい頃からずっと言われていたを簡単に忘れるなんて出来ないよね


「ユーリ、これからもしまた不安になったらいつでも私に言って?もちろん私だけじゃない、ユーリが信じられると思った大切な人たちにその不安を打ち明けてあげて?みんなきっと口を揃えてあんたの事が大好きだって言うから」

「本当に…その自信はどこから出てくるの?」

「私が言うのだから間違いないわ!それに不安にさせる暇なんか与えないから!さっきも言ったでしょ?何千回何万回でも伝えるわよ、あんたはとても綺麗なんだって」

「…なんかまた増えてるし…」

「いっそのこと無量大数にしとく?」

「………」

あれ?てっきりここ笑うとこだと思ったんだけど…え?つまんなかった!?
一人で焦ってたらユーリはゆっくりと私を見上げてきた


「僕ね…この髪と目が大嫌いだった。化物の証だったから…みんなこの髪と目のせいだって思ってきた」

「……」

「でも、あんたに綺麗だって言われて…大好きだって言われて……僕も好きになりたいと思った。まだ少し怖いけど……僕はこの二つも含めて僕だから……だから」

「大丈夫だよ」

「え」

「ユーリがそう決めたなら、出来ないことなんてない。なんたってユーリは私の弟ユーリ・ノワールなんだから!」

「……そうだね、僕達ノワール家の子供に出来ないことなんてないもんね!」

「!」


ニカッと顔を綻ばせるユーリ
ユーリのそんな花が咲いたような笑顔は初めて見たし、それに今僕達ノワールって…!


「すごく今更なんだけどさ、僕は…僕がユーリ・ノワールになってもいいですか?」

改まって申し出るユーリの目は真っ直ぐに私を見ていて

ああ、どうしよう


「!!もう、なんでまた泣くのさー」

「ユーリが泣かしたんでしょ!?あともうって私のセリフ!もう!せっかく止まったと思ったのに!!」


今夜の私はきっとどこかおかしい、いきなり泣き虫になるなんて
すっ転んで顔面強打しても泣かないのに今夜の涙腺はきっと修復不可能な事態になっているに違いない


さっきと同様ユーリが私の涙を拭ってくれてる
この際一回も二回も変わらないから泣いたままユーリにしっかりと答えた

「私は、ノワール家の長男はユーリじゃなきゃ嫌だよ」

一瞬だけ涙を拭ってくれた手が止まったけどすぐに再びとめどなく流れる涙を止めるため動き始めた


「わがままなお姉ちゃんを持つと大変だね」

「今更ね」

「今更だね」


数秒見つめあってから、私達は顔を見合わせて同時に笑った


しばらく笑っていたら、不意に笑い声が私だけになった
不自然に止まったもう一つの声の持ち主を見れば、ユーリは真剣な眼差しで私を見ていた
いつの間にかユーリの手は私の頬に添えられていた


「ユーリ?」

まだ何か不安事があるのだろうか?


「あんたは僕の髪や目を綺麗だって褒めてくれたけど」

「う、うん」

あれ?な、なんかさっきまでのユーリと雰囲気、違くない?


「僕は、あんたの流す涙の方がずっと綺麗だと思う」

そう言って手を添えたまま親指で止まりかけている涙を拭うユーリ


うっ、わあ……


「ははっ、あんたも真っ赤だな」

「だ、誰のせいだと思ってんの…!」


誰だってあんな事言われたら!!し、しかもユーリ自分がすごい美少年だって自覚ないわけ!?た、たちが悪いわ!この子大きくなったら絶対大変なことになる!!主に女性問題で!!私の勘って当たるんだから!!



さっきと明らかに立場逆転した私をユーリはこれでもかってくらい楽しそうに笑って見ていた





そして朝、私達はメイドさんに起こされるまで、床で二人寄り添って眠っていた




* * *



「そういえばユーリ、昨日の夜はまだいいとして、普段はあんたじゃなくてお姉ちゃんって呼ばなきゃだめよ?」

「やだ」

「やっ?!本当に反抗期が!!」

「僕お姉ちゃんって呼ぶよりセツ姉って呼びたい」

「あら、それはそれでいいわね。じゃあそれで!!」

(大人になってちゃんと名前を呼ぶ時、"セツ姉"にしといたほうが後々の違和感が少ないはずだしね)


ユーリが何かを企んでいることなんて、セツ姉という新たな呼び名を貰って浮かれている私が気づくはずなかった


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!

アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。 その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。 絶対火あぶりは回避します! そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...