妖精の君を愛してやまない

髙橋 ななし

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茶番と本気

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 卒業式当日、式が終わり別れの声や泣き声が行き交う中、教室の前でいつもふざけた調子の田中が大声を上げた。

「葛葉千冬!ずっと言えなかったけど!俺は前からお前が好きだった!」

 教室は静まり、皆が二人を交互に見る。

 いつもの田中からは想像も出来ない真面目な眼差しに気付いてか気付かずか、千冬はおちゃらけた調子で答える。

「きゃー恥ずかしいわー。でもごめんねー、田中くーん。あたいー、好きとか良く分かんないから~」

 教室にわっと笑い声が広がる。皆、田中と千冬が事前に打合せをした茶番だと思ったらしい。

 千冬は普段無愛想だがノリが悪い訳ではない。千冬の中では田中が本当に自分に想いを寄せているとは思っていないのだろう。

「俺は本気だ!お願い、付き合ってくれ!」

 田中の言葉で今度は皆がざわつく。千冬は困り顔で隣にいた私を横目に見ると落ち着いて言った。

「悪いけど、俺は」

「無性別だから気持ちに答えられないって言うな!もう強がって自分を偽るのも止めてくれよ、無理してって言って男っぽく振る舞ったり、、似合ってねーんだよ、、」

 千冬は唇を噛んで、鋭い目で田中を睨む。

 それを見て田中は後悔したようだった。

「ごめん、こんなことが言いたい訳じゃないんだ。葛葉、必ずお前を女にしてやるから俺と付き合ってくれよ」

「阿保くさ」

 皆に聞こえるように千冬が言うと、鞄を持って教室を出て行ってしまった。

 私も鞄を持って足早に千冬の後を追う。
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