妖精の君を愛してやまない

髙橋 ななし

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義理と本命

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「颯人お待たせ」

「あ、うん」

 三人がいた踊場の下の階で待っていると千冬が階段を下りてきた。

 そのまま二人で下駄箱へ向かう。

「まさか、俺が貰えるとは思わなかった」

 千冬は妖精特有の美しさと、無性別ゆえの神秘さがあった、人で言う中性的な外見。だが、不思議とモテることはなかった。

 千冬の無愛想な態度が原因だろう。

 スニーカーに履き替えながら答えを知りつつも君に訊ねる。

「本命チョコは初めて?」

「あぁ」

 短く素っ気ない返事。私もそれ以上は訊かない。君が全くと言って良い程に、恋愛に興味が無いことを知っていたから。

 去年、私が女子バスケ部の後輩に告白されたと話した時も『良かったな。それより国語の小テスト勉強した?』と、私の返事を訊ねる事さえしなかった。

 近くの公園のベンチに二人で座り、千冬が鞄から可愛いラッピング袋を3つ取り出す。

 毎年同じ桃色の包みと黄色の包み。桃色が千春さんで黄色が千夏さん。変わらないお姉さん達のチョコとは別に、水色の包み。

「どれから食べる?」

「貰ったのは一人で食べなよ」

「食える気がしない」

 そう言いながら真っ先に水色の包みをパカッと開けて、中のチョコを一個口に放り込む。「んまい」と言いながらもう一個を摘まんで私の前に差し出す。

「食えよ。ほら、あー」

 言われたように口を近づけ開けると、そのまま中に甘い塊が入った。

 その後のチョコの味が霞む程に、その一個はとても甘く感じた。

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