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第二章 魔導士学園 編

呪術研究会活動報告・その3

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~魔法使い・ティーエの視点~

 私は今学校の屋上にいます。それというのも、先生に与えられた個室にいる時に空から異常な魔力を感知したからです。
 そして屋上から見た光景は私を驚愕させました。

 あ、あれは、何ですか? 巨大な光の槍!! 屋上から下を見渡せば誰もその異常に気付いたものはいません。魔力感知を行う事ができるこの天才魔法使いだからこそ気づいた異変!! 誰か助けを呼ぶには遅すぎます。私が何とかしなければ。果たして私にあの光の槍を消すことができるでしょうか。なによりも距離が1kmくらいは離れている気がします。あそこまで、私の魔法が届くのか………

 いや、出来る、出来ないではないんです。やるしかないんです。でなければ、この王都が灰になってしまいます。それくらい恐ろしいまでの魔力をあの光の槍は内包しています。

 その時、黒い鎖が光の槍に巻き付きました。

 何なんですか………あれは………? 

 私は鎖の出どころから2つの強力な魔力を感知しました。あ、あの魔力は北の大陸で感じた魔力です。つまり、変態悪魔があそこにいるという事です。もう一つの魔力は分かりませんが、変態悪魔の仲間でしょうか。

 私はそこで全てを理解しました。これは特別クラスが廃止されることに自暴自棄になってしまったのではないのでしょうか。ハーレムが作れないなら滅んでしまえ。つまりはそういう事ですね。
 徐々に光の槍は黒い鎖に引っ張られ地面に着弾しようとしています。

 私は自分の認識の甘さを悔やみました。まさか特別クラス廃止計画が変態悪魔にこんな行動を起こさせるとは………

 私が秘密裏に進めていた特別クラスの廃止計画は藪蛇をつつく結果になってしまったようです。
 地道にコツコツと冒険者ギルドだけでなく一般の世論をも動かし、あと一歩というところまできていたというのに………こんな落とし穴があったとは………

 兎に角、なんとしてもこの状況を打破しなければなりません。

『 炎精よ 流転し反転す 煉獄の炎で抗え 炎の柱フレイム・ピラー 』
  
これだけでは不十分!! 私は重ねて詠唱する。

『 深淵の闇 膨張し収縮す 歪な時空はその理を曲げろ 』

 詠唱を付け加えることによる長文詠唱です。

 続けざまに詠唱した魔法により、私が発動させた炎の魔方陣は光の槍の先端にちょうど発現しました。
 成功です。
 私の魔法は光の槍を包み込みました。ありったけの魔力で………なんとしても私が食い止めるのです。王都の皆の命がかかっているのですから………その直後、私の意識はブラックアウトし、その場に崩れ落ちました………

 ………私は全力を出し尽くし意識を失ってしまったようです。どれほど意識を失っていたのでしょうか………しかし、下に見える景色はいつもと変わらぬ平穏な日常が映し出されていました。

 どうやら私は人知れずこの王都を救ってしまったようですね。私は自分の力を再確認しました。あれだけの魔力を放出したのです。向こうもすぐには次の行動には出ないことでしょう。私の魔力探知に引っかかるような巨大な魔力は感じられなくなっています。私は事なきを得て、自分の個室へと戻ることにしました………

♢♦♢♦♢♦
 
 そして次の日、特別クラスのシリウス君から衝撃の訴えがありました。私以外にもこのクラスの違和感に気付いたものがいるとは………

 私は教室で皆に聞き取りをすることにしました。
「皆さん目を瞑ってください。・・・目を瞑りましたか。では、私こそがその犯人であるという方は正直に手を挙げてください。そうすれば、私はこの事は誰にも漏らすことはしませんし、追及する事もありません」
 みんな目を瞑ってくれているようです。私はクラスを見回しました。しかし、誰も手を挙げようとはしません。それもそのはずです。犯人は初めから分かっているのですから………

 変態悪魔ことアギラです。

 私ですら何度も操られかけたのです。並みの試験官ではひとたまりもないんじゃないでしょうか。しかし、当の本人は何食わぬ顔で目をつむり、全く手を挙げる気配すらありません。
 
 これを材料に変態悪魔だけを追放できればいいのですが、今の証拠だけではそこまでできません。であるならば、決定的証拠がないのでこれ以上追及しても誰も得する事はありません。そもそも追放などすれば、また王都を殲滅するような魔法をうちこむんでしまうんじゃないでしょうか。今回は私が気付いたからよかったようなものの、今度も防げるという確証はないのですから。

「皆さん、犯人は分かりました。ですが、これ以上追及しても誰も得することはありません。私はむしろ試験官を操ってまで入ったその技術を評価したいと思います。だから皆さんもこの件でこれ以上犯人を追及するのはやめにしましょう」

「そうだな」「たしかに」「そうよ、私たちは同じクラスの仲間なのよ」「仲間を疑うのは良くないわ」「自分の研究に他人は関係ないにゃ」「ドエレー "COOOL" じゃん…? 」「なんだか知らんがとにかくよし!」

 生徒たちは口々に私に賛同の意を示します。

 そして、変態悪魔はこちらを無言でじっと見ています。なるほどそういうことですか。私には全て分かりました。ここで私が追及しない代わりに、そちらも私が特別クラスを廃止にするために動いたことを不問にする。

 今回の件は私とあなたの間にはこれで貸し借りなし。つまりはそういう事ですね。

 どうやらこれで、解決のようです………いえ、違いました。これから、私の苦難はまだ続くのです。夏休みの合宿です。これから1カ月以上もの間『ジパンニ』というところに変態悪魔とその仲間の魔手から生徒達を守らねばならないのです。

 
~吸血鬼・ソロモンの視点~

 私は今一つの解決すべき悩みがあった。
 
 それは、夏休みの合宿において、血液パックの運搬をどうするかという事だった。1週間くらいの旅ならば自分で持っていくこともできるが、1カ月以上ともなると話は別だった。予備も考えると40以上の血液パックを持ち運ばなければならないのだ。流石にその量の血液を持ち運ぶのは衛生的にも現実的ではない。
 そこで私はふとアギラの使い魔のアーサーの事を思いだした。
 アーサーは時空魔法を使いこなし、大量の薬品をその空間に収納していたのだ。聞けば、食糧なども鮮度を保って保管できるという事だった。
 私はそこで考えた。アギラは信頼するに値する男である。それならば、アーサーもまた信頼に足る使い魔であるという事だ。
 念のため、本物のトマトジュースもいくつか混ぜておけば、万が一の時にも対応できるだろう。
 私は早速その考えを実行に移すべくアギラの元へ訪ねることにした。



~呪術研究会部長・クロエの視点~

 アギラさんの人脈は本当に凄いですね。

 私の島国は東の果てに位置するので往復で1カ月くらいかかるので、滞在期間は1週間程度と思っていました。しかし、イーリス帝国の魔道列車というもので移動することができることになったのです。なんでも王族の方と知り合いなんだそうです。これを使えば大陸の東側まで1週間もかからず到着できそうです。

 さらにアーサーちゃんのおかげでベッドや日用品などを魔道列車の貨車の部分に運び込み、ちょっとした部屋を貨車の中に作りあげたのです。なんて快適な旅なんでしょうか。おのおの思い思いに過ごすことができます。寝るもよし。流れる風景を眺めるもよし。アギラさんの絶品料理に舌鼓をうつもよし。ここは天国じゃないでしょうか。

 時間もある事ですし、私は道中で皆さんに『ジパンニ』について語る事にしました。

 『ジパンニ』、それは南の大陸の最東端に位置する島国です。そこは悪魔族だけでなく妖怪族という魑魅魍魎が跋扈するとても恐ろしい島国なのです。悪魔族は東の大陸に住まうと言われていますが、『ジパンニ』にもその存在は確認されているのです。その昔イーリス帝国の張った結界に進路を阻まれた悪魔族達の一部が『ジパンニ』に定着したとも言われています。

 アギラさんはその話を聞いて私の両親や『ジパンニ』に住むみんなの事を心配してくれているみたいです。本当に優しいです。先生が惚れるのも納得です………そんな事を考えた後、私は話を続けました。

 『ジパンニ』には特殊な結界術があり、中級クラスの悪魔族や妖怪族は侵入することすらできません。ですから、私の故郷が襲われるということは滅多に起きることはないんです。

 えっ? 上級クラスですか? 上級クラスは自らが動くことはほとんどないと聞いています。それに私の故郷には700年くらい前から龍神様りゅうじんさまが守り神として見守ってくれてますから………上級といえど手出ししてくるのは本当に稀な事なのです。おかげでここ最近は平和が続き、目覚ましい文明の発展がみられます。私のように外国に出て知識をつける人も少なくありません。

 龍神様りゅうじんさまですか? 言い伝えでは700年くらい前に、傷ついた龍神様りゅうじんさまを一人の村人が救ったそうです。それを恩に感じた龍神様りゅうじんさまがそれ以来悪魔族や妖怪族の侵攻から、その地を守ってくれるようになったとか………以来、私たちはその龍神様を守り神と崇め、その近くで文明を発展させてきたそうです。

 その後も、私は聞かれるままに皆さんのいろいろな質問に答えました。

 こうして、私たちは3日ほどでイーリス帝国へとたどり着く事ができたのです。


~魔女族・ドロニアの視点~

 私は『悪魔大全』を魔道列車のベッドの中で読みふける。
 何度も見たページをまた開く。
 そして、アギラがこの旅に連れてきた少女を思い出しながら開かれたページに視線を落とす。
『気のせいか? それにしては………』
 私が考えこんでいると、隣のベッドで布団に入ったティーエ先生が私に声をかける。
「どうしたんですか? 何か心配事でも?」

「………いえ。特に何もありません」
 私はベッドから立ち上がる。

「どうしたんです? どこに行くのですか?」

「ちょっとお手洗いに………」
 そう答えて私はお手洗いに向かう。

 私がお手洗いから帰ってくるとティーエ先生は布団に入り寝息を立てていた。

 私はベッドの上に置かれた本を片付けて眠ろうとする。

 その時、開かれたページがお手洗いに行く前に見ていたページと違っているような気がしたが、私はそこまで気にすることはなかった………
 

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