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第二章 魔導士学園 編
アバロン湯けむり殺人事件 ~解決編~
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一番疑われていた俺は、必死に新たな証拠を探した。
そして俺は見つけてしまったのだ。食堂に残る血の跡を。
事件は混浴風呂で起こったのではない。食堂で起こった可能性だってあるのだ。
俺はこれをそれとなく探偵に伝える事に成功した。探偵はそのあと食堂をくまなく調べているようだった。
何かに気づいた様子で食堂を出ると、10分ほどで再び戻って来た。
俺の行為は俺の想像以上の成果があったようで、探偵は眼鏡をかけた男に身体検査を要求したのだ。
「何故私を身体検査するのです?あの男が犯人ではないんですか?」
眼鏡の男は不満を口にし、俺を指さした。
「確かめたいことがあるのです。拒否するのであれば、あなたへの疑いが増しますよ。」
探偵は何かをつかんでいるような口ぶりだった。
「ふん。いくらでも調べるがいい。私にやましいところ等ありませんからね。」
それを聞いて、探偵は手袋をはめて、眼鏡の男のポケットを探った。
左のポケットを確かめた後、右のポケットに手を入れた時、ポケットを探る手の動きが止まった。
「これは何ですか?『テトラニチン』と書かれていますね。私の知る限り、これは毒薬だと思いますが………どうして、これがあなたのポケットに?」
「な、なんだ。それは………」
眼鏡の男は狼狽えた。
「これが動かぬ証拠です。先ほど死体からもこの毒が検出されました。私のスキルを使えば造作もない事です。」
探偵は眼鏡の男のポケットから取り出した小瓶を掲げて叫んだ。
「こ、これは何かの間違いだ………いや………誰かに嵌められたのだ。そんな小瓶を私は知らぬ。」
眼鏡の男は取り乱した。
「お、お前がやったのか?」
ガタイのいい男が眼鏡の男に疑惑の目を向ける。
「本当に知らないんですか?この『テトラニチン』は滅多にお目にかかる事のできない毒薬です。誰が製造したのかくらいは私の力をもってすれば調べることは可能なんですよ。本当にこの毒に心当たりはないというんですね?」
「そ、そんな………ま、まさか、あの時の? ………いや、そんなはずは………」
探偵の追及に眼鏡の男は顔面が蒼白になっていた。何か心当たりがあるようだった。それを見た探偵は畳みかけるように自分の推理を展開した。
「この事件の全容はこうです。ドミニクさんはこの温泉旅行でハリスさんの殺害を計画していた。しかし、普通に殺したのでは、自分が疑われる可能性がある。そこで、自分の代わりに罪を被ってくれる人物を探していた。その時、あなたは見つけてしまったのですね。食堂でもめた学園の生徒達を………あなたはその学生の1人に目をつけた。そうです。アギラさん。あなたに罪を着せようと考えていたのです。実に………実に巧妙な手口でした。あなたしか犯人として考えられないという状況を作り出す事に成功したのです。私もうっかりその罠にはまるところでした。」
探偵はそこで言葉を切った。そして、俺は背筋が凍りつくのを感じた。一歩間違えれば俺が犯人にしたてあげられていたのだ。
探偵は続けた。
「順を追って説明します。まずこの事件はハリスさんが混浴風呂で殺されました。その死亡推定時間にその場所で殺すことができたのはアギラさんただ一人だったのです。ハリスさんの妻達は『隷属の首輪』の力でハリスさんに危害を加えるようなことはできなかった。そして、混浴風呂につながる男風呂にはドミニクさんとグスタフさんがいたが、アギラさんに気絶させられていた。こうして、アギラさんはただ一人の容疑者となっていたのです。」
「それじゃあ、やっぱりこの小僧が犯人なんじゃないか?俺があそこで気絶するのは演技でも何でもねぇ。たしかに俺は朝まで気を失っていたんだ。」
ガタイのいい男は叫んだ。
「そうなんです。そこなんです。二人の証言とアギラさんの証言も一致している。しかし、考えてみてください。戦場で何度も活躍したことがあるグスタフさんがそんなに簡単にこの少年にやられるでしょうか。おそらく、グスタフさんは何らかの薬が投与されていた可能性があります。だから、簡単に気絶してしまったのです。もしかすると、最初はあなたに罪を着せるつもりだったのかもしれません。」
「なんだと!!」
ガタイのいい男は眼鏡の男を睨んだ。眼鏡の男は必死に否定した。
「しかし、混浴風呂からアギラさんが出てきたので、全ての罪をアギラさんに着せることにしたのです。薬の力で簡単に気絶したグスタフさんを確認した後、ドミニクさん自身もわざと気絶させられたのです。」
「いや、それだとハリス様はあの少年に殺されたという事になるのでは?ドミニクが気絶していたのではその死亡推定時刻に殺すことができないのではないのか?」
ガタイのいい男は疑問を口にした。
「実は殺人が行われたのは混浴風呂ではなかったのです。今回の事件はこの食堂で行われていたものだったのです。おそらく、ドミニクさんは食事の中にこの『テトラニチン』を混ぜてハリスさんを殺害したのです。もしかすると、その時にグスタフさんにも気絶させるための薬を混ぜていたのかもしれません。この『テトラニチン』は死の時間を操る事ができる特殊な毒薬なのです。だからそれを使って、自分のアリバイを確保しつつハリスさんを殺害しようと考えていたのでしょう。その証拠にこの食堂の床からわずかですが『テトラニチン』が私のスキルによって検出されました。よほど失敗を恐れていたのでしょう。食べ物だけでなく、念入りに首筋からも『テトラニチン』を注入する念の入りようです。食堂の床に残る血痕に気づかなければ、ハリスさんの首筋に残る小さな傷に気づく事はできなかったでしょう。そして、食堂でハリスさんの食事にこの毒を盛れたのはドミニクさんとグスタフさんの2名しかいないのです。それは私の調べでわかっている事なのです。そして、『テトラニチン』などという薬物を所持できるのはS級薬師であるドミニクさんくらいです。2人が共犯の可能性も残ってはいますが、それはこれから裁判所で徹底的に調べればわかる事です。ふっ、私がこの宿に泊まっていたのがあなたの最大の誤算だったようですね。その瓶を捨てる前で本当に良かったですよ。」
「ふざけるな!1つも当たっていないじゃないか。こ、この瓶は誰かにはめられたのだ。」
眼鏡の男は目を見開いて抗議した。ここまで証拠がでているのにまだしらを切るつもりか。なんて悪どい奴なんだ。
「私に真相を見破られたものは皆そう言いますね。しかし、最後は皆言い逃れできなくなり諦めるのです。」
「き、貴様ー。ハリス様を裏切りやがって!!」
ガタイのいい男は眼鏡の男の胸倉をつかみ、押し倒した。そして、馬乗りになり殴ろうとした。
「ま、待て。これは何かの間違いだ。」
眼鏡の男は抵抗した。
「うるせぇ!お前は宰相の元へと連れて行く。言いたいことがあるならそこで言いやがれ。」
強烈な拳が眼鏡と共に顔面にめり込み、眼鏡は壊され、眼鏡の男は気を失った。ガタイのいい男は動かなくなった男を担ぎあげ、どこかへと連れて行った。
後に残ったのは呆然とその姿を見ていた呪術研究会のメンバーの姿と、涙を流すハリスの妻たち2人の姿だった。
探偵は俺のところへと近づき言った。
「あなたを疑って申し訳ありませんでした。そして、あなたの言葉がなければ真実には辿りつけなかったでしょう。本当に助かりました。事後処理はこちらでやっておきますので、残りの休暇をお楽しみください。」
俺はハリスの妻たちを見た。
「あの方達は奴隷としてあのハリスという男に扱われていたようです。しかるべき手続きに従って奴隷から解放できるように善処します。契約上、所有者が死ねば、みなさん元の場所に帰れるはずです。」
なんて気の回る男なのだ。一時は疑われはしたが、この男は信頼できる男だと確信した。そもそも、この世界で権力に屈さずに真実を暴き出す等普通にできる事ではないのかもしれない。
「そうですか。それなら良かったです。真実を突き止めてくれて俺も助かりました。ありがとうございます。」
「いえ、当然のことをしたまでです。」
俺は探偵と固い握手を交わした。
…………こうして、俺達が醜い貴族同志の争いに巻き込まれてしまったアバロン殺人事件の惨劇の幕は静かに下りたのだった。
そして、旅行の終わりに1人の少女が俺のそばにやってきた。
「私、迎えが来るまで帰る場所がないの。だから、お兄ちゃんのところに行ってもいい?」
ハリスが連れていた奴隷の一人だろうか。その首には『隷属の首輪』がつけられていなかった。探偵が首輪を外したのだろう。
この少女もジュリエッタのように無理やり連れてこられた子なのかもしれない。もしかすると、ジュリエッタのように地位の高い家の娘さんなのかもしれなかった。
俺はピンときた。この少女を保護することによって、俺の異世界成り上がりライフが始まるのかもしれない。ジュリエッタの時は見栄を張って、お礼を断ってしまったが、今度は受け取る事にしよう。
俺は少女の迎えが来るまで、少女を保護する事を決めた。
「わかった。じゃあ、迎えが来るまで俺のところにいてもいいよ。」
「本当に?ありがとう。」
少女は無邪気に喜んだ。
「名前は何というの?」
俺は少女に聞いた。
「私? ………私の名前はアス………」
そして俺は見つけてしまったのだ。食堂に残る血の跡を。
事件は混浴風呂で起こったのではない。食堂で起こった可能性だってあるのだ。
俺はこれをそれとなく探偵に伝える事に成功した。探偵はそのあと食堂をくまなく調べているようだった。
何かに気づいた様子で食堂を出ると、10分ほどで再び戻って来た。
俺の行為は俺の想像以上の成果があったようで、探偵は眼鏡をかけた男に身体検査を要求したのだ。
「何故私を身体検査するのです?あの男が犯人ではないんですか?」
眼鏡の男は不満を口にし、俺を指さした。
「確かめたいことがあるのです。拒否するのであれば、あなたへの疑いが増しますよ。」
探偵は何かをつかんでいるような口ぶりだった。
「ふん。いくらでも調べるがいい。私にやましいところ等ありませんからね。」
それを聞いて、探偵は手袋をはめて、眼鏡の男のポケットを探った。
左のポケットを確かめた後、右のポケットに手を入れた時、ポケットを探る手の動きが止まった。
「これは何ですか?『テトラニチン』と書かれていますね。私の知る限り、これは毒薬だと思いますが………どうして、これがあなたのポケットに?」
「な、なんだ。それは………」
眼鏡の男は狼狽えた。
「これが動かぬ証拠です。先ほど死体からもこの毒が検出されました。私のスキルを使えば造作もない事です。」
探偵は眼鏡の男のポケットから取り出した小瓶を掲げて叫んだ。
「こ、これは何かの間違いだ………いや………誰かに嵌められたのだ。そんな小瓶を私は知らぬ。」
眼鏡の男は取り乱した。
「お、お前がやったのか?」
ガタイのいい男が眼鏡の男に疑惑の目を向ける。
「本当に知らないんですか?この『テトラニチン』は滅多にお目にかかる事のできない毒薬です。誰が製造したのかくらいは私の力をもってすれば調べることは可能なんですよ。本当にこの毒に心当たりはないというんですね?」
「そ、そんな………ま、まさか、あの時の? ………いや、そんなはずは………」
探偵の追及に眼鏡の男は顔面が蒼白になっていた。何か心当たりがあるようだった。それを見た探偵は畳みかけるように自分の推理を展開した。
「この事件の全容はこうです。ドミニクさんはこの温泉旅行でハリスさんの殺害を計画していた。しかし、普通に殺したのでは、自分が疑われる可能性がある。そこで、自分の代わりに罪を被ってくれる人物を探していた。その時、あなたは見つけてしまったのですね。食堂でもめた学園の生徒達を………あなたはその学生の1人に目をつけた。そうです。アギラさん。あなたに罪を着せようと考えていたのです。実に………実に巧妙な手口でした。あなたしか犯人として考えられないという状況を作り出す事に成功したのです。私もうっかりその罠にはまるところでした。」
探偵はそこで言葉を切った。そして、俺は背筋が凍りつくのを感じた。一歩間違えれば俺が犯人にしたてあげられていたのだ。
探偵は続けた。
「順を追って説明します。まずこの事件はハリスさんが混浴風呂で殺されました。その死亡推定時間にその場所で殺すことができたのはアギラさんただ一人だったのです。ハリスさんの妻達は『隷属の首輪』の力でハリスさんに危害を加えるようなことはできなかった。そして、混浴風呂につながる男風呂にはドミニクさんとグスタフさんがいたが、アギラさんに気絶させられていた。こうして、アギラさんはただ一人の容疑者となっていたのです。」
「それじゃあ、やっぱりこの小僧が犯人なんじゃないか?俺があそこで気絶するのは演技でも何でもねぇ。たしかに俺は朝まで気を失っていたんだ。」
ガタイのいい男は叫んだ。
「そうなんです。そこなんです。二人の証言とアギラさんの証言も一致している。しかし、考えてみてください。戦場で何度も活躍したことがあるグスタフさんがそんなに簡単にこの少年にやられるでしょうか。おそらく、グスタフさんは何らかの薬が投与されていた可能性があります。だから、簡単に気絶してしまったのです。もしかすると、最初はあなたに罪を着せるつもりだったのかもしれません。」
「なんだと!!」
ガタイのいい男は眼鏡の男を睨んだ。眼鏡の男は必死に否定した。
「しかし、混浴風呂からアギラさんが出てきたので、全ての罪をアギラさんに着せることにしたのです。薬の力で簡単に気絶したグスタフさんを確認した後、ドミニクさん自身もわざと気絶させられたのです。」
「いや、それだとハリス様はあの少年に殺されたという事になるのでは?ドミニクが気絶していたのではその死亡推定時刻に殺すことができないのではないのか?」
ガタイのいい男は疑問を口にした。
「実は殺人が行われたのは混浴風呂ではなかったのです。今回の事件はこの食堂で行われていたものだったのです。おそらく、ドミニクさんは食事の中にこの『テトラニチン』を混ぜてハリスさんを殺害したのです。もしかすると、その時にグスタフさんにも気絶させるための薬を混ぜていたのかもしれません。この『テトラニチン』は死の時間を操る事ができる特殊な毒薬なのです。だからそれを使って、自分のアリバイを確保しつつハリスさんを殺害しようと考えていたのでしょう。その証拠にこの食堂の床からわずかですが『テトラニチン』が私のスキルによって検出されました。よほど失敗を恐れていたのでしょう。食べ物だけでなく、念入りに首筋からも『テトラニチン』を注入する念の入りようです。食堂の床に残る血痕に気づかなければ、ハリスさんの首筋に残る小さな傷に気づく事はできなかったでしょう。そして、食堂でハリスさんの食事にこの毒を盛れたのはドミニクさんとグスタフさんの2名しかいないのです。それは私の調べでわかっている事なのです。そして、『テトラニチン』などという薬物を所持できるのはS級薬師であるドミニクさんくらいです。2人が共犯の可能性も残ってはいますが、それはこれから裁判所で徹底的に調べればわかる事です。ふっ、私がこの宿に泊まっていたのがあなたの最大の誤算だったようですね。その瓶を捨てる前で本当に良かったですよ。」
「ふざけるな!1つも当たっていないじゃないか。こ、この瓶は誰かにはめられたのだ。」
眼鏡の男は目を見開いて抗議した。ここまで証拠がでているのにまだしらを切るつもりか。なんて悪どい奴なんだ。
「私に真相を見破られたものは皆そう言いますね。しかし、最後は皆言い逃れできなくなり諦めるのです。」
「き、貴様ー。ハリス様を裏切りやがって!!」
ガタイのいい男は眼鏡の男の胸倉をつかみ、押し倒した。そして、馬乗りになり殴ろうとした。
「ま、待て。これは何かの間違いだ。」
眼鏡の男は抵抗した。
「うるせぇ!お前は宰相の元へと連れて行く。言いたいことがあるならそこで言いやがれ。」
強烈な拳が眼鏡と共に顔面にめり込み、眼鏡は壊され、眼鏡の男は気を失った。ガタイのいい男は動かなくなった男を担ぎあげ、どこかへと連れて行った。
後に残ったのは呆然とその姿を見ていた呪術研究会のメンバーの姿と、涙を流すハリスの妻たち2人の姿だった。
探偵は俺のところへと近づき言った。
「あなたを疑って申し訳ありませんでした。そして、あなたの言葉がなければ真実には辿りつけなかったでしょう。本当に助かりました。事後処理はこちらでやっておきますので、残りの休暇をお楽しみください。」
俺はハリスの妻たちを見た。
「あの方達は奴隷としてあのハリスという男に扱われていたようです。しかるべき手続きに従って奴隷から解放できるように善処します。契約上、所有者が死ねば、みなさん元の場所に帰れるはずです。」
なんて気の回る男なのだ。一時は疑われはしたが、この男は信頼できる男だと確信した。そもそも、この世界で権力に屈さずに真実を暴き出す等普通にできる事ではないのかもしれない。
「そうですか。それなら良かったです。真実を突き止めてくれて俺も助かりました。ありがとうございます。」
「いえ、当然のことをしたまでです。」
俺は探偵と固い握手を交わした。
…………こうして、俺達が醜い貴族同志の争いに巻き込まれてしまったアバロン殺人事件の惨劇の幕は静かに下りたのだった。
そして、旅行の終わりに1人の少女が俺のそばにやってきた。
「私、迎えが来るまで帰る場所がないの。だから、お兄ちゃんのところに行ってもいい?」
ハリスが連れていた奴隷の一人だろうか。その首には『隷属の首輪』がつけられていなかった。探偵が首輪を外したのだろう。
この少女もジュリエッタのように無理やり連れてこられた子なのかもしれない。もしかすると、ジュリエッタのように地位の高い家の娘さんなのかもしれなかった。
俺はピンときた。この少女を保護することによって、俺の異世界成り上がりライフが始まるのかもしれない。ジュリエッタの時は見栄を張って、お礼を断ってしまったが、今度は受け取る事にしよう。
俺は少女の迎えが来るまで、少女を保護する事を決めた。
「わかった。じゃあ、迎えが来るまで俺のところにいてもいいよ。」
「本当に?ありがとう。」
少女は無邪気に喜んだ。
「名前は何というの?」
俺は少女に聞いた。
「私? ………私の名前はアス………」
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