上 下
54 / 123
第二章 魔導士学園 編

探偵

しおりを挟む
~探偵・エラリーの視点~

 私はバロワ商会の支部に事件の調査で呼ばれました。
 大切な商品を逃がした容疑者を捕まえてあるから真偽を調べて欲しいという事でした。

 その容疑者は、調査兵団団長のギルシュと、その部下であるシュラインというものでした。
 ギルシュと言えば神剣クラウ・ソラスを操る剣の達人という事で有名な人です。2人は布の服を着せられ、檻の中に入れられていました。その首には隷属の首輪をはめられ、力を封印されています。

 檻の外の机には、証拠品としてそれぞれの剣と鎧が置いてありました。
 どうやら、大事件の予感がします。私の脳細胞が歓喜しているのが分かります。
 私はまず、屋敷全体を調べました。驚く事に、侵入者の痕跡どころか、この屋敷にいた人の痕跡がありませんでした。しかし、ガラスの割れた破片の方向から2階の窓から侵入し、地下室の上にある部屋から何者かが出て行ったことが分かりました。

 次に私は屋敷内の証言を聞くことにしました。

証言者A(玄関付近にいた男)「俺たちは、誰かが外で叫ぶのを聞いて外へ出たんです。すると、誰もいないと思った瞬間に、意識を失って、目覚めたら屋敷の中で横たわっていました。」
ふむ、玄関に誰か1人いたという事は間違いなさそうですね。不確実な事は排除し、確実な事だけを残していく。そうすればおのずと事件の真相に突き当たります。

証言者B(2階廊下にいた男)「玄関で騒がしいなと思った時、2階のガラスが割れる音がしました。私はそちらを見ようとしたのですが、突然視界が霧で覆われて、それでシルエットだけだったんですが、犬の耳のようなものがあったので犬の獣人が来たと叫んだのです。」
なるほど、玄関に1人と、屋根にもう1人いたのでしょう。そして、2階の窓から侵入した。私はそこで気になることを思い出し、地下室へ行くことにしました。黒い兜を手に取り考えました。視界の悪い状態、そしてこの兜・・・・犬の形をしています。

証言者C(猫の獣人を捕まえた男)「確かに檻の中には猫の獣人がいた。俺が捕まえたからな。絶対に確かだ。」
これは、ギルシュとシュライン両氏の証言と食い違っています。2人は獣人の存在を隠そうとしていました。猫の獣人ではなくただの猫しか見ていないと。どうしてそんな嘘を。どうして猫の獣人の存在を隠すのか………

 そして消えた3人の見張りというのも気になります。一切の痕跡がありません。神剣クラウ・ソラスは炎の魔法剣だと聞いたことがあります。その力はどんな物体も燃やし尽くし、この世から消滅させてしまう。そんな伝説は嘘だと思っていましたが、これは………

これだけの状況証拠が揃っているのであれば間違いありませんね。

「謎は、すべて、解けました。このエラリーの名にかけて。」

 私は一同を地下室へと集めて事件の真相語ることにしました。
「この事件、大変苦労しました。この名探偵エラリーですら、痕跡のなさに戸惑いましたが、事件の概容はこうです。1階で1人が叫び、まず囮になったのでしょう。そして、2階からもう1人が霧魔法を周辺に展開した後に侵入した。おそらく、2階から侵入したのは、シュラインさんだと思われます。そして、1階の人物、すなわち残ったギルシュさんも自分の周辺に霧の魔法を放ち1階から侵入し、2人は合流して、地下室まで辿り着いた。そして、見張りのものを倒して、奴隷たちを1階の窓から逃がした。しかし、見張りの者たちが目を覚ましたので、2人は奴隷を逃がす時間稼ぎをするために屋敷に残って足止めをした。その後、地下室まで追い込まれてしまい、死闘の末3人の見張りは倒したが、シュラインさんはやられてしまった。ギルシュさんは死体がこのままではまずいと考え、神剣クラウ・ソラスを使い、死体を抹消した。しかし、誤算だったのは、死闘の末、クラウ・ソラスを使ったため、魔力切れが起こり、そこで気を失ってしまった。とまあ、これが事件の真相です。……言い逃れはできませんよ。」

「ふざけるな、1つも当たっていないじゃないか。」
まだ認めないつもりですか。往生際が悪いですね。

「そ、そうだ。ザックを呼べ。そうすれば、私達が嘘を言っていない事が分かる。」
ザック?誰ですか?それは。いいでしょう。私の推理が覆ることなどありえない事です。真実は1つしかありません。

~調査兵団・ザックの視点~

 胸糞が悪かった。バロワ商会から、私に直接依頼があったのだ。それでなくとも、私が王都に帰りついてから、今王都はいろいろと慌ただしいというのに。

 私は王都の近くにある、バロワ商会の支部へと向かった。

 私はバロワ商会に着いて驚いた。ここ数日行方が分からなくなっていたという団長とシュラインがいた。そして、バロワ商会の商品を逃がしたという罪に問われているようで、その真偽を私にして欲しいという事だった。どうやら、私の嘘を見破ることができる魔眼の能力を教えたようだった。

2人は自分たちに起こった事を証言した。

「私たちは商品奴隷である猫の獣人を逃がしに来た獣人の撃退のため、応援としてここに来たのです。」
本当だった

「来てみれば、獣人が逃がしていたのは猫の獣人ではなく猫でした。」
本当だった

「儂等はその獣人を撃退しようとしたが、逆にやられてしまったのじゃ。地下室で起こされるまで、儂等は気を失っておった。」
本当だった。

私に悪魔が囁いた。ここで、うまくやれば、団長派を失墜させて、バロワ商会を潰すことができるのでは、と。

「同じ調査兵団として、残念ながら、すべて嘘の様です。」
私はその悪魔の囁きを実行した。

「何だと。」

「貴様。」
2人はまさかという顔をした後、口々に叫んだ。

「どうやら、私の推理の正しさを裏付ける結果になっただけでしたね。私にいい考えがあります。直接この事件をやったかどうか聞いてみればいいんですよ。そうしたら、はっきりするじゃないですか。まあ、聞くまでもありませんが。」
探偵が提案する。

「なるほど。」「いわれてみれば。」「おお。」「さすが。」
その場にいたバロワ商会のもの達が納得の声をあげる。
それを聞いた団長とシュラインの表情は青ざめて、顔から汗を掻いている。

「おや、どうしました。何か後ろ暗いところでもあるんですか?ふふ、あなた達がやったんですか?」
「こいつは嘘をついている。」
団長は質問に答えない。

「何を言っているんですか。あなた達が連れてきたんじゃないですか。もう一度質問しますよ。答えなければ肯定ととります。あなた達がやったんですか?」
探偵は再び質問した。シュラインがそれに答える。

「……私たちは………やってはいない。」
本当だった。

「嘘をついていますね。」
私は嘘をついた………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

処理中です...