50 / 123
第二章 魔導士学園 編
獣人
しおりを挟む
俺は冒険者ギルドに行ってみることにした。もしかすると、誤解が解けているのを期待したからだ。
念のため、リーンとアーサーは外で待機してもらうことにした。中でトラブルになった時、俺一人の方が切り抜けやすいかと思ったからだ。
俺は、依頼の掲示板を見ると、そこにはリーンと俺の捕獲の依頼がまだ掲示されていた。
しかし、俺はそれを見て、自分の被っているフードを取ることにした。
その俺のつもりであろう似顔絵は全然似ていなかったからだ。リーンの方は似ているのだが、俺の似顔絵はまるで悪魔の如く描かれていた。
何故、これで襲撃を受けていたのか……その答えは特徴の欄を見て明らかになった。
特徴:猫を頭に乗せている
これか………
思い返すと襲撃されたのは、いつもアーサーが頭に乗っていた気がする。
俺に関していえば、顔を隠す必要などなかったようだ。
俺は冒険者ギルドを出ることにした。入口付近で1人の小さな少年が俺にぶつかって、転げた。
俺が起こしてやると、ギルドの入り口を眺め、去ろうとした。と思ったら、また入口に近づき、入るかどうかを迷っているようだった。
「ギルドに何か用があるの?」
俺は声をかけた。
「あ、その、お姉ちゃんを助けてほしくて………」
ギルドへの依頼に来たのか。確かに、子供では酒場が併設されたギルドの中には入りにくいだろう。
「そ、それに………お金も………全然で………」
その子供は襤褸を纏っており、裕福そうではなかった。その開かれた手には、銅貨が3枚乗っていた。銅貨100枚は銀貨1枚に相当するようなので、銅貨1枚はだいたい100円くらいの価値になる。掲示板の報酬はだいたい、銀貨1枚以上のものばかりだったので、そのお金では受けてくれるとは思えなかった。
「わかった。一応、俺も冒険者だから、良かったら俺がその依頼を受けるよ。」
「本当に?じゃあ、ひとまず僕の村まで来てよ。」
少年は明るい笑顔になった。
リーンに事情を説明すると、「もちろんいいわ。アギラとの初めての冒険ね。ワクワクするわ。」と快諾してくれた。
村に行く道中に話の詳細を聞いた。少年の名前はポポで、お姉ちゃんはピピというらしい。そのピピが誰かに連れていかれて、奴隷にされてしまうから助けてほしいという事だった。
村に着くと、最初に思ったのは村全体が寂れているということだった。
少年は、村にある教会へ俺たちを連れていった。その教会も大きくなく、ところどころ壁が崩れかかていた。
「シスター、ピピを助けてくれる冒険者を連れてきたよ。」
少年が叫ぶと、修道女の恰好をしたおばあさんが出てきた。
「ピピを助けてくれるのですか?」
「僕が依頼をしたら、受けてくれたんだ。」
「そうですか………けども、今日はお疲れでしょうし、外も暗いですから、こちらで休んで明日詳しくお話することにします。」
連れていかれたなら焦った方がいい気もするが………
教会にはポポの他にも子供たちが他に7人ほどいた。
「どうやって連れてきたんだよ。」
「すげー。冒険者だ。」
「貯めてた小遣いを使ったのさ。」
ポポは子供たちと話していた。何人かの子供は元気がなさそうだった。みるからに痩せていたので、あまり食事をとれていないのではないだろうか。
俺は、泊めてもらうお礼として、料理を振る舞うことにした。
実はあれから、北の大陸で見つけた鎧を使って、包丁や、しゃもじ、お玉、長い鍋、フライ返しなどあらゆる調理器具を製作していたのだ。他の素材で調理器具を作らなかったのは、この鎧で作った調理器具で料理すると、美味しさが5割増しくらいすることが分かったからだ。
俺はこの鎧は本来調理器具としてあるべき素材でできていたことを確信していた。つまり、俺は鎧の本来あるべき姿に戻してやったのだ。
俺はこの調理器具を使って、たくさん肉と魚の入ったスープを作った。
「相変わらずマスターの料理はうまいにゃ。」
「アギラの料理は絶品ね。」
遠慮して食べようとしなかった子供たちは、リーンとアーサーが美味しそうに食べるのを見て、自分たちも料理を口にした。
「おいしー。」
「なんだ、これ。」
「肉なんてくったことねーぞ。」
「うまっ。」
「こんな至福の時間が味わえるなんて。」
「オッティモ!!」
「うまーん♡」
「ヒンナヒンナ」
みんな大満足で食べてくれていた。ただ、ポポとシスターだけが口にしようとしていなかった。
「ピピが帰ってきた時のためにとっておいてやろうと思って・・・」
「いや、また、帰ってきたら作ってあげるから。」
「本当に? ………ありがとう。じゃあ、いただきます。」
ポポは料理を口にした。
「おいしいよ。アギラの兄ちゃん。」
シスターも料理を食べていたが、泣いていた。
「シスターが、美味しすぎて泣いてるー。」
子供たちが騒いだ。
「………そうね。本当に美味しいわ……」
俺達は出された寝間着に着替えて、みんなで眠ることにした。
その夜、みんなが寝静まったころ、ごそごそという音で俺は目が覚めた。シスターが俺の服を漁っていたのだ。
俺は薄々気づいてしまっていた。
「お金ならありませんよ。」
俺はほとんどをアーサーに預けていたので、服には何も入れていなかった。
「いえ……そんな……」
シスターは狼狽えていた。
「ピピは連れていかれたんじゃなくて、もしかして売ったんですか?」
シスターは泣き崩れた。
連れていかれたのに、あまり焦っていなかったのはやはりそういう事だったのだ。
いったん俺はシスターを外へと連れ出した。
落ち着いてから事情を聞いた。
この村は、何も売るものがない貧しい村だった。食べ物などを村の外で買っていると、村の金がどんどんなくなっていき過疎がおきだした。子供を置いて町に出ていくものもいたそうだ。そんな子供たちをシスターは引き取っていた。教会のそばの小さな畑で作物を栽培して何とかしのいできたが、今年は日照りが続きどうにもならなくなった。
食べ物がなければ、子供たち全員が、飢えて死んでしまう。
一人を奴隷として売れば、その他が生き残ることができるし、その奴隷も貴族に買われれば幸せに生きていけますよ。という悪魔の言葉にシスターはのってしまったのだ。
「今では、後悔しています。何とかお金を集めて、買い戻せないかと思って……」
それで、俺からお金を取ろうとしたのか……どうやら、売ったお金は借金や食料などを買うのにすでに使ってしまったらしい。
俺もお金があるわけではなかった。服や食べ物を買ったり、馬車を借りたので、残りの銀貨は30枚くらいしかない。
奴隷なんて制度は悪いものである。なら、多少強引な手でいってもいい気がした。リーンを襲ったのも奴隷業者だったしな。
「俺がなんとかします。」
シスターは泣いて祈りをささげた。
「ああ……神よ……」
アジトを聞くと500m以上離れていたので、教会の中に戻り、アーサーを連れ出すことにした。
アーサーは俺と500m以上離れると、消えてしまうからだ。今回はリーンを連れていかない事にした。できれば顔を見られることなく、一瞬で片をつけるためだ。
アーサーは子供たちに抱かれながら一緒に眠っていた。
「アーサー……起きろ………アーサー。」
「にゃにゃ………もう食べられないにゃ………」
『こいつ』
俺はアーサーを揺すった。
「ん………んにゃ……はっ……どうしたんですかにゃ。マスター。」
「ちょっと出かけるぞ。」
「リーンはいいんですかにゃ。」
「ちょっと危険そうだからな。またここには戻ってくる。」
「わかりましたにゃ。」
俺はアーサーを連れて、ピピを取り戻しに向かった。
1km離れたところにその屋敷はあった。俺は近くの叢から様子をうかがった。ふと横を見ると同じように屋敷の様子を伺うものがいた。体格のいい、目つきのするどい青年だった。しかし、ひと目見て人ではない事がわかった。耳と尻尾がついていたからだ。犬の獣人だった。
向こうもこちらに気づいたらしく、近寄ってきた。
「お前は誰だ?あいつらの仲間か?」
顎で屋敷を差し、尋ねてきた。
「いえ、違います。」
「そうか、俺は今からあの屋敷に捕らわれたツレを助けないといけない。邪魔するんじゃねーぞ。」
どうやら、目的が同じようだった。
「俺も、あの屋敷から助けたい人がいまして。」
「そうなのか?ちょうどいい。どうするか迷っていたが、お前が囮になれ。玄関にひきつけておいてくれれば、俺がツレと一緒にお前の助けたい奴を連れだしてきてやる。俺の嗅覚でツレの場所はだいたいわかってるんだ。どうせ、他の捕まった奴も同じところにいるだろう。」
その作戦には不服があったが、場所は知っておきたかった。
「ピピって女の子です。………で、ツレが捕らわれてるって場所はどこなんです?」
「地下だ。あの屋敷の地下から匂いがする。じゃあ、あとは頼んだぞ。」
獣人は、叢から飛び出し、玄関の方へ向かい、叫び声をあげた。
「出てこいや。悪党どもがーー。」
玄関が開いたかと思うと、その獣人は屋敷の屋根の上に飛び乗った。
つまり、出てきたやつをひきつけて、相手しろということか。
俺は玄関から出てきた4人に氷の魔法を放った。一瞬で、4人を氷の彫像へと変えた。
獣人の方を見ると、もう屋敷の中に侵入したようで、姿が見えなかった。
俺は屋敷内の1階と2階を霧の魔法で覆った。この霧はレーダーとなり、生き物がどこにいるかを把握することができる。その生き物が誰であるかが判別できないのが難点であるが、視界の悪い中、猛スピードで地下に向かう反応が1つあった。おそらく、獣人である。
俺はその反応が地下に入った瞬間に、氷の魔法を発動させた。
『 時間凍結 』
1階と2階にいるものを全て氷漬けにした。一定時間内ならば、解除すればもとに戻せるので、関係ないものは後で助ける事にした。
俺は、さっき地下に降りた反応があった場所へと向かった。
獣人が血まみれで、階段から上がってきた。その両手には獣人の少女を抱えていた。ツレは猫の獣人であった。その後ろを見たが他に誰もいなかった。
「ピピは?」
「怯えて誰も出てきやがらねぇ。下にいた見張りのやつらが援軍を魔法で呼んでたぽいから、檻のドアだけぶち破っておいて先に上にあがってきた。逃げたければ勝手に逃げるだろう。俺たちは先にずらかるぜ。」
「んん………ボス………助けてくれたのかにゃ。」
両手に抱えられた猫の獣人が目を覚ました。
「馬鹿が。人間なんかに、捕まりやがって。」
「違うんですにゃ。ジャーキーをくれるっていうからついていったら、いきなりこの首輪をはめられて………」
あれはリーンにつけられていた物と一緒だった。両手がふさがっている獣人の代わりに俺が外してやることにした。力づくで。
左右に引っ張った首輪は、バキッという音を立てて2つになった。
「誰か知らないけど、ありがとうですにゃ。」
「お前、結構、力があるな。さっきの霧の魔法もお前か?」
「そうだけど。」
「そうか………じゃあ、また会うことがあったらよろしくな。俺たちは先に行くぜ。お前も追手が来る前に逃げた方がいい。」
獣人は部屋の窓を蹴破り、外へと逃げだしていった。
「アーサー………お前とキャラかぶっていたな。」
「何を言っているんですかにゃ。全然被ってないですにゃ。ジャーキーにつられて捕まるバカと一緒にしないで欲しいにゃ。」
……俺は何も言わなかった。
俺はピピを連れ出すために地下へと降りた。
念のため、リーンとアーサーは外で待機してもらうことにした。中でトラブルになった時、俺一人の方が切り抜けやすいかと思ったからだ。
俺は、依頼の掲示板を見ると、そこにはリーンと俺の捕獲の依頼がまだ掲示されていた。
しかし、俺はそれを見て、自分の被っているフードを取ることにした。
その俺のつもりであろう似顔絵は全然似ていなかったからだ。リーンの方は似ているのだが、俺の似顔絵はまるで悪魔の如く描かれていた。
何故、これで襲撃を受けていたのか……その答えは特徴の欄を見て明らかになった。
特徴:猫を頭に乗せている
これか………
思い返すと襲撃されたのは、いつもアーサーが頭に乗っていた気がする。
俺に関していえば、顔を隠す必要などなかったようだ。
俺は冒険者ギルドを出ることにした。入口付近で1人の小さな少年が俺にぶつかって、転げた。
俺が起こしてやると、ギルドの入り口を眺め、去ろうとした。と思ったら、また入口に近づき、入るかどうかを迷っているようだった。
「ギルドに何か用があるの?」
俺は声をかけた。
「あ、その、お姉ちゃんを助けてほしくて………」
ギルドへの依頼に来たのか。確かに、子供では酒場が併設されたギルドの中には入りにくいだろう。
「そ、それに………お金も………全然で………」
その子供は襤褸を纏っており、裕福そうではなかった。その開かれた手には、銅貨が3枚乗っていた。銅貨100枚は銀貨1枚に相当するようなので、銅貨1枚はだいたい100円くらいの価値になる。掲示板の報酬はだいたい、銀貨1枚以上のものばかりだったので、そのお金では受けてくれるとは思えなかった。
「わかった。一応、俺も冒険者だから、良かったら俺がその依頼を受けるよ。」
「本当に?じゃあ、ひとまず僕の村まで来てよ。」
少年は明るい笑顔になった。
リーンに事情を説明すると、「もちろんいいわ。アギラとの初めての冒険ね。ワクワクするわ。」と快諾してくれた。
村に行く道中に話の詳細を聞いた。少年の名前はポポで、お姉ちゃんはピピというらしい。そのピピが誰かに連れていかれて、奴隷にされてしまうから助けてほしいという事だった。
村に着くと、最初に思ったのは村全体が寂れているということだった。
少年は、村にある教会へ俺たちを連れていった。その教会も大きくなく、ところどころ壁が崩れかかていた。
「シスター、ピピを助けてくれる冒険者を連れてきたよ。」
少年が叫ぶと、修道女の恰好をしたおばあさんが出てきた。
「ピピを助けてくれるのですか?」
「僕が依頼をしたら、受けてくれたんだ。」
「そうですか………けども、今日はお疲れでしょうし、外も暗いですから、こちらで休んで明日詳しくお話することにします。」
連れていかれたなら焦った方がいい気もするが………
教会にはポポの他にも子供たちが他に7人ほどいた。
「どうやって連れてきたんだよ。」
「すげー。冒険者だ。」
「貯めてた小遣いを使ったのさ。」
ポポは子供たちと話していた。何人かの子供は元気がなさそうだった。みるからに痩せていたので、あまり食事をとれていないのではないだろうか。
俺は、泊めてもらうお礼として、料理を振る舞うことにした。
実はあれから、北の大陸で見つけた鎧を使って、包丁や、しゃもじ、お玉、長い鍋、フライ返しなどあらゆる調理器具を製作していたのだ。他の素材で調理器具を作らなかったのは、この鎧で作った調理器具で料理すると、美味しさが5割増しくらいすることが分かったからだ。
俺はこの鎧は本来調理器具としてあるべき素材でできていたことを確信していた。つまり、俺は鎧の本来あるべき姿に戻してやったのだ。
俺はこの調理器具を使って、たくさん肉と魚の入ったスープを作った。
「相変わらずマスターの料理はうまいにゃ。」
「アギラの料理は絶品ね。」
遠慮して食べようとしなかった子供たちは、リーンとアーサーが美味しそうに食べるのを見て、自分たちも料理を口にした。
「おいしー。」
「なんだ、これ。」
「肉なんてくったことねーぞ。」
「うまっ。」
「こんな至福の時間が味わえるなんて。」
「オッティモ!!」
「うまーん♡」
「ヒンナヒンナ」
みんな大満足で食べてくれていた。ただ、ポポとシスターだけが口にしようとしていなかった。
「ピピが帰ってきた時のためにとっておいてやろうと思って・・・」
「いや、また、帰ってきたら作ってあげるから。」
「本当に? ………ありがとう。じゃあ、いただきます。」
ポポは料理を口にした。
「おいしいよ。アギラの兄ちゃん。」
シスターも料理を食べていたが、泣いていた。
「シスターが、美味しすぎて泣いてるー。」
子供たちが騒いだ。
「………そうね。本当に美味しいわ……」
俺達は出された寝間着に着替えて、みんなで眠ることにした。
その夜、みんなが寝静まったころ、ごそごそという音で俺は目が覚めた。シスターが俺の服を漁っていたのだ。
俺は薄々気づいてしまっていた。
「お金ならありませんよ。」
俺はほとんどをアーサーに預けていたので、服には何も入れていなかった。
「いえ……そんな……」
シスターは狼狽えていた。
「ピピは連れていかれたんじゃなくて、もしかして売ったんですか?」
シスターは泣き崩れた。
連れていかれたのに、あまり焦っていなかったのはやはりそういう事だったのだ。
いったん俺はシスターを外へと連れ出した。
落ち着いてから事情を聞いた。
この村は、何も売るものがない貧しい村だった。食べ物などを村の外で買っていると、村の金がどんどんなくなっていき過疎がおきだした。子供を置いて町に出ていくものもいたそうだ。そんな子供たちをシスターは引き取っていた。教会のそばの小さな畑で作物を栽培して何とかしのいできたが、今年は日照りが続きどうにもならなくなった。
食べ物がなければ、子供たち全員が、飢えて死んでしまう。
一人を奴隷として売れば、その他が生き残ることができるし、その奴隷も貴族に買われれば幸せに生きていけますよ。という悪魔の言葉にシスターはのってしまったのだ。
「今では、後悔しています。何とかお金を集めて、買い戻せないかと思って……」
それで、俺からお金を取ろうとしたのか……どうやら、売ったお金は借金や食料などを買うのにすでに使ってしまったらしい。
俺もお金があるわけではなかった。服や食べ物を買ったり、馬車を借りたので、残りの銀貨は30枚くらいしかない。
奴隷なんて制度は悪いものである。なら、多少強引な手でいってもいい気がした。リーンを襲ったのも奴隷業者だったしな。
「俺がなんとかします。」
シスターは泣いて祈りをささげた。
「ああ……神よ……」
アジトを聞くと500m以上離れていたので、教会の中に戻り、アーサーを連れ出すことにした。
アーサーは俺と500m以上離れると、消えてしまうからだ。今回はリーンを連れていかない事にした。できれば顔を見られることなく、一瞬で片をつけるためだ。
アーサーは子供たちに抱かれながら一緒に眠っていた。
「アーサー……起きろ………アーサー。」
「にゃにゃ………もう食べられないにゃ………」
『こいつ』
俺はアーサーを揺すった。
「ん………んにゃ……はっ……どうしたんですかにゃ。マスター。」
「ちょっと出かけるぞ。」
「リーンはいいんですかにゃ。」
「ちょっと危険そうだからな。またここには戻ってくる。」
「わかりましたにゃ。」
俺はアーサーを連れて、ピピを取り戻しに向かった。
1km離れたところにその屋敷はあった。俺は近くの叢から様子をうかがった。ふと横を見ると同じように屋敷の様子を伺うものがいた。体格のいい、目つきのするどい青年だった。しかし、ひと目見て人ではない事がわかった。耳と尻尾がついていたからだ。犬の獣人だった。
向こうもこちらに気づいたらしく、近寄ってきた。
「お前は誰だ?あいつらの仲間か?」
顎で屋敷を差し、尋ねてきた。
「いえ、違います。」
「そうか、俺は今からあの屋敷に捕らわれたツレを助けないといけない。邪魔するんじゃねーぞ。」
どうやら、目的が同じようだった。
「俺も、あの屋敷から助けたい人がいまして。」
「そうなのか?ちょうどいい。どうするか迷っていたが、お前が囮になれ。玄関にひきつけておいてくれれば、俺がツレと一緒にお前の助けたい奴を連れだしてきてやる。俺の嗅覚でツレの場所はだいたいわかってるんだ。どうせ、他の捕まった奴も同じところにいるだろう。」
その作戦には不服があったが、場所は知っておきたかった。
「ピピって女の子です。………で、ツレが捕らわれてるって場所はどこなんです?」
「地下だ。あの屋敷の地下から匂いがする。じゃあ、あとは頼んだぞ。」
獣人は、叢から飛び出し、玄関の方へ向かい、叫び声をあげた。
「出てこいや。悪党どもがーー。」
玄関が開いたかと思うと、その獣人は屋敷の屋根の上に飛び乗った。
つまり、出てきたやつをひきつけて、相手しろということか。
俺は玄関から出てきた4人に氷の魔法を放った。一瞬で、4人を氷の彫像へと変えた。
獣人の方を見ると、もう屋敷の中に侵入したようで、姿が見えなかった。
俺は屋敷内の1階と2階を霧の魔法で覆った。この霧はレーダーとなり、生き物がどこにいるかを把握することができる。その生き物が誰であるかが判別できないのが難点であるが、視界の悪い中、猛スピードで地下に向かう反応が1つあった。おそらく、獣人である。
俺はその反応が地下に入った瞬間に、氷の魔法を発動させた。
『 時間凍結 』
1階と2階にいるものを全て氷漬けにした。一定時間内ならば、解除すればもとに戻せるので、関係ないものは後で助ける事にした。
俺は、さっき地下に降りた反応があった場所へと向かった。
獣人が血まみれで、階段から上がってきた。その両手には獣人の少女を抱えていた。ツレは猫の獣人であった。その後ろを見たが他に誰もいなかった。
「ピピは?」
「怯えて誰も出てきやがらねぇ。下にいた見張りのやつらが援軍を魔法で呼んでたぽいから、檻のドアだけぶち破っておいて先に上にあがってきた。逃げたければ勝手に逃げるだろう。俺たちは先にずらかるぜ。」
「んん………ボス………助けてくれたのかにゃ。」
両手に抱えられた猫の獣人が目を覚ました。
「馬鹿が。人間なんかに、捕まりやがって。」
「違うんですにゃ。ジャーキーをくれるっていうからついていったら、いきなりこの首輪をはめられて………」
あれはリーンにつけられていた物と一緒だった。両手がふさがっている獣人の代わりに俺が外してやることにした。力づくで。
左右に引っ張った首輪は、バキッという音を立てて2つになった。
「誰か知らないけど、ありがとうですにゃ。」
「お前、結構、力があるな。さっきの霧の魔法もお前か?」
「そうだけど。」
「そうか………じゃあ、また会うことがあったらよろしくな。俺たちは先に行くぜ。お前も追手が来る前に逃げた方がいい。」
獣人は部屋の窓を蹴破り、外へと逃げだしていった。
「アーサー………お前とキャラかぶっていたな。」
「何を言っているんですかにゃ。全然被ってないですにゃ。ジャーキーにつられて捕まるバカと一緒にしないで欲しいにゃ。」
……俺は何も言わなかった。
俺はピピを連れ出すために地下へと降りた。
0
お気に入りに追加
1,921
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます
空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。
勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。
事態は段々怪しい雲行きとなっていく。
実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。
異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。
【重要なお知らせ】
※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。
※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
異世界辺境村スモーレルでスローライフ
滝川 海老郎
ファンタジー
ブランダン10歳。やっぱり石につまずいて異世界転生を思い出す。エルフと猫耳族の美少女二人と一緒に裏街道にある峠村の〈スモーレル〉地区でスローライフ!ユニークスキル「器用貧乏」に目覚めて蜂蜜ジャムを作ったり、カタバミやタンポポを食べる。ニワトリを飼ったり、地球知識の遊び「三並べ」「竹馬」などを販売したり、そんなのんびり生活。
#2024/9/28 0時 男性向けHOTランキング 1位 ありがとうございます!!
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる