上 下
47 / 123
第二章 魔導士学園 編

リーン

しおりを挟む
~リーンの視点~

 私は北の大陸の南に位置する密林地帯の中にあるエルフの里で生まれた。

 私は魔法の才能があった。雷、土、風、光の4つの属性の魔法を扱うことができた。私は小さいころより、大賢者カダフィの遺した『信託の書』を読むのが好きだった。

 そこには、魔法の使い方、練習方法、魔法の特性など魔法に関する基礎的な事が書かれていた。
私は、それを読み独学で魔法を覚えた。

 そして私はエルフの学校に入学したとき、周りには私ほど魔法を使えるものがいなかった。教師ですら、私のように4つの属性を持つものはいなかった。せいぜい2つか3つしか属性は持ってはいなかったのだ。

 そして、大賢者カダフィの『信託の書』には、冒険の記録というものがあった。
 その記録こそが、私をこの閉鎖的なエルフの里の外へと誘う要因となった。
冒険の記録には、1000年以上前の魔王との戦いが綴られていた。人間の勇者と大賢者カダフィ、そして竜の力を以てその時の魔王を打ち倒したのだ。

 その冒険譚はどんなフィクションの物語よりも私をワクワクさせた。
私はこの本を読みながら、いつか私も仲間を組んで冒険をしたいという思いが大きくなっていった。
『信託の書』には大賢者カダフィの予言で締めくくられていた。

 魔王は時を経て復活する。後世のものに魔王を打倒してほしい。
ほとんどのエルフはこの予言を信じてはいなかった。大賢者カダフィの死んだ直後は信じる者も多かったが、1000年以上も魔王が復活したという噂がなかったからである。
 しかし、私はこの予言を信じていた。私が生きているうちに魔王が復活したならば、必ず私の手で魔王を打ち倒すのだ。

 けれども、それには問題があった。エルフの里にいたのではこれ以上の魔法の成長が望めそうになかったのだ。

 閉鎖的な里は新しい知識を取り入れることをしていなかった。私は20年で、この里で私のできる事はなくなったことを悟った。

 周りのみんなは魔法が向上しなくても特に焦ってはいなかった。1000年間ずっと平和にやっているので、特に魔法を覚える事に執着しているわけではなかった。

 私はというと、魔王復活が明日にでも起こるのではという焦燥感が常にあった。
 そんな時である。1年に一度、南の大陸へと渡る船に乗っていたエルフの情報に面白いものがあった。メガラニカ王国という人間の国にある魔導士学園で、種族問わず優秀な魔法使いを広く生徒として募集しているという事だった。

 私はその情報に食いついた。南の大陸へは両親と共に訪れたことがある。港町は活気があったのを覚えている。魔導士学園に入学すれば、私の魔法技術の停滞感を打開してくれるのではと考えた。

 私は南の大陸へと行くための手段を考えるため、海岸へと向かうと、幸運な事に一隻の船を発見した。何日かおきに見に行ったが、誰も使っている形跡がなかった。これは、大賢者カダフィの導きに違いないと確信した。

 私は渡航のための準備を始めた。南の大陸の言語を習得し、少しずつ南の大陸で使えるお金を貯めていった。

 そして、いざ出向しようと思い船に向かってみると、船が出向しようとしていた。私は慌てて飛び乗った。

 そこには、1匹の猫を連れた人間の少年が乗っていた。
 どうやら、その少年も南の大陸へと向かうらしい。見た目は私と同じくらいの若さであるが、エルフの寿命は人間のそれに比べてはるかに長い。私は20歳であったが、少年はもっと年下であるだろう。

 そして、私が雷の魔法でイカの魔獣を追い払ったの見て、驚いたことだろう。

 いつも寝るときは裸で寝ていたので、その癖が出て、少年に少し見られてしまったが、年下という事であまり気にならなかった。少年は恥ずかしそうにしているように見えた。

 その少年は名前をアギラといった。
 アギラの作る料理は絶品だった。海の上だというのに、魚介類以外のいろいろな食材を使った料理が出てきた。どのようにして、食材を調達しているのか分からなかった。しかし、美味しさに夢中であまり気にならなかった。

 私たちは南の大陸へ無事到着したのだが、アギラとは別行動をとることとなった。アギラの絶品料理を食べれなくなるのは残念だったけど、私にはやるべきことがあるのだ。私は1人でメガラニカ王国に向かうことにした。

 港町を出ると、私は2人の魔法使いに襲撃を受けた。土属性の魔法を2人は詠唱した。私はとっさに風魔法を詠唱し、2人の魔法使いを吹き飛ばした。

 しかし、その後ろには3人の新手が控えていた。私は何が何やら分からなかったので、ひとまず森の中に逃げ込んだ。

 しばらくすると、さっきの3人とは違う4人の男たちと森の中で出くわした。1人の魔法使いが水魔法であたりに霧状の魔法を放った。

 水魔法は、私とは相性が悪かった。私は使える4つの属性のうち雷属性をもっとも得意としていた。
今、雷属性の魔法を使えば、霧を伝わって自分にもダメージを受けてしまう。

 しかし、4人はかたまらず4方から攻撃しようとしていた。4方向を同時に攻撃するには、雷属性の魔法を撃ちこんで、私が先に目を覚ます事に賭けることにした。

「 雷精よ 深淵なる力を以て 辺りを覆え 雷光陣ライトング・アレイ 」

私は賭けに敗れた。

 魔法防御を付与された鎧を着ているものがいたようだ。私は目覚めると首輪をつけれていた。
その首輪は私の魔法の発動を阻害していた。

 私は檻の中に入れられ、奴隷として売られるようだった。なぜこんなことになったのか分からなかった。放心状態になり何も考えることができなかった。できることは祈る事だけであった。私は大賢者カダフィに祈った。

 その祈りは聞き届けられた。
 港町で別れたはずのアギラが現れたのだ。アギラは私の事を助けようとしてくれていた。
しかし、男たちはアギラと戦う構えをとった。私は魔法を使って、援護しようとしたが、首輪の影響で一切魔法を出すことができなかった。

 アギラの命が危ない。私はこの身を盾にしてでも少年であるアギラを守ろうとした。
 しかし、一瞬で勝負はついた。というか、何が起きたのか分からなかった。気づいたら、9人いた男たちは全て気絶していた。

 私は、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れて眠りに落ちてしまった。

 眠りから覚めると、私はアギラにおんぶされている状態だった。
 私はアギラから降りると、起きたことを説明した。アギラは私を信じてくれているようだ。
 私は、そこで閃いた。アギラが勇者で、私が魔法使い。そして、いろいろな冒険を一緒にして、魔王が現れたら一緒に倒すのだ。うん、悪くない。考えているうちに、このアイデアが非常にいいものに思えてきた。

 私はアギラに提案したが、アギラは勇者として登録はしていなかった。
 しかし、パーティーを一緒に組むことはOKしてくれたのだ。
 私はすごく嬉しかった。なぜこんなにも嬉しいのかは分からなかったが、とにかく嬉しかった。
そればかりか、一緒にメガラニカ王国に行ってくれるとのことだった。

 私は首に付いている首輪を外そうとしたが、外すことができなかった。アギラがその首輪を左右に引っ張るとその首輪は金属音をさせて、2つに分かれた。アギラの力は相当強いようだった。

アギラの身体能力は力だけではなかった。
アギラの歩く速さはかなり早かった。
「ちょっ、アギラ速すぎない?」

「そうかな………ごめん、いままで一人で旅してきたから………」
アーサーはアギラの頭の上にしがみついて、ずっと寝ていた。

 私もアギラにおぶってもらった方が早くつくのかも。私はアギラにおんぶされていたことを思い出した。それを思い出すと、なぜか胸の鼓動が少し早くなった気がした。

 その後、アギラは私の歩く速さに合わせて横並びで旅を続けた。2人で旅するのは楽しかった。大賢者カダフィも勇者と行動している時、こんな思いだったのだろうか。

 アギラはククリという町で私にローブを買ってくれた。白い色をして、魔法防御の付与がなされたローブだった。アギラがプレゼントしてくれた事が嬉しかったが、可愛いと言われたときは、あまりの嬉しさで顔をあげることができなかった。

 私たちが、ククリの町をでるとき、剣を持った4人の男たちに出会った。その構えから港町で出会った男たちより実力は上に感じた。

 私のせいでアギラに迷惑をかけるわけにはいかない。
 そう思うと、私は魔法の詠唱を開始した。しかし、アギラはそれを遮った。アーサーは相変わらずアギラの頭の上で寝ていた。ご主人の危機だというのに全く反応していなかった。

「ここで魔法を使ったら、目立つから俺がやるよ。」
アギラはそう言うと、前の時のように一瞬で4人の男を気絶させた。そして、追ってこれないように、4人を木に縛りつけていた。

 私はアギラの足を引っ張らないように、魔導士学園でもっと自分を磨かないといけないと気持ちを新たにした。

 私たちは馬車を借りて次の町へと向かった。
 アギラは自分もお尋ね者になっているかもしれないからと言って、次の町で自分用の黒いローブを買っていた。

 これで、襲われることはないだろうという事だった。私たちは色は違っていたが、同じような服を着ていた。それだけの事ではあるが、なぜか嬉しく感じてしまう。これが旅というものなんだろうか。
 そんなことを考えながら、メガラニカ王国を目指していたのだが、そんなに上手くはいかなかった。
私たちはまたしても、襲撃を受けることになった。

それにしても、何故バレてしまうのだろうか………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

異世界辺境村スモーレルでスローライフ

滝川 海老郎
ファンタジー
ブランダン10歳。やっぱり石につまずいて異世界転生を思い出す。エルフと猫耳族の美少女二人と一緒に裏街道にある峠村の〈スモーレル〉地区でスローライフ!ユニークスキル「器用貧乏」に目覚めて蜂蜜ジャムを作ったり、カタバミやタンポポを食べる。ニワトリを飼ったり、地球知識の遊び「三並べ」「竹馬」などを販売したり、そんなのんびり生活。 #2024/9/28 0時 男性向けHOTランキング 1位 ありがとうございます!!

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

処理中です...