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第一章 ルード皇国 編

謝罪

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 3年目も終わりに近づいてきたある日、サムシーとヤンが俺に謝りにきた。
「すまなかったでやんす。」

「ごめんなさい。」
俺が1人でいる時を見計らって謝りに来たようだった。

「そのいろいろと誤解があったみたいで・・・」

「おばあちゃんがアギラが取ってきた薬で助かったでやんす。ヤンの兄ちゃんも助かったでやんす。アギラは命の恩人でやんすよ。そんな恩人を殺そうとしたでやんす。オイラをどうしてくれったっていいでやんす。」
必死に頭を下げていた。

 俺はそれを見て、許すことにした。もちろん心の底にわだかまりは残っているが、誤解があったことだ。

 俺は師匠の話を聞いてるうちに、できれば、竜人と人間がともに暮らせる世の中になればという気持ちを抱いていた。なぜ襲ったかは師匠にもわからないらしいが、人間が竜族の村を襲ったことは事実だった。

 お互いが恨みを持ち続ければ、ずっとこの恨みの連鎖は続くのだ。その連鎖をここで断ち切りたい。俺が人間の代表というわけではないけども、人間に会ったことのない彼らは、俺の行動こそが、人間の世界に影響を与えるような気がした。

「わかった。許すよ。」
俺は呟いた。

「ありがとう。」
「ありがとうでやんす。」

 俺はあたりを見回した。その姿を見て何かを感じ取ったのか、
「フレイの兄貴もアギラには感謝してるでやんす。アギラの薬で救われて、じいちゃんも救われたでやんす。でも、なかなか素直になれないでやんす。」

「フレイは頑固だから・・・」
とヤンが言った。

 爺ちゃんは呪いの影響を受けてまだ生きていたのか・・・治って良かったな。俺はそう思った。しかし、一度は殺されそうになったのである。一言くらいは謝ってくれてもいいのではと思った。

 しばらくすると、格闘訓練でフレイと当たった。フレイとは学校に再び来るようになってから初めて戦うことになった。フレイは特に言葉を発することはなかった。俺は魔法を使わなくても、かなり戦うことができた。だから、フレイのボディーへと先制で拳を叩きこんだ。フレイは「ゴフッ」と声を漏らした。『効いてる!』そう思い連打を繰り返し、飛びのいた。そこで、俺は気づいた。フレイは全く手を出してこなかった。俺が止まっていると。

「かかってこい!お前の拳など全く効かんわ!」
それは嘘だとわかった。竜人の体は怪我を回復することができるが、急回復できるわけではない。それに同じ個所を狙われればダメージは蓄積されるのだ。そして、今の俺の攻撃はそれをすることができる。
フレイは俺に殴られたがっているように思えた。

 しかし、こんなに一方的に殴るのは気持ちがいいものではなかった。相手がやる気がないのに、一方的に痛めつけるのは、やってはいけないことだ。例え、それがいじめてきた相手であっても。俺も同じになってしまう気がした。俺は先生の方をちらりと見て、降参を宣言した。本来降参することは認められないのであるが、何かを悟ってくれたのか、フレイの勝利を宣言した。

「こんな勝ち方認めねー。かかってこい。俺を殴れ。殴れー。」
そう言うフレイの目には、うっすら涙が浮かんでいた。

 直接謝罪はなかったが、フレイはフレイなりの信念があった。そして、けじめをつけようとしていたのだ。
 どれが分かっただけで俺は良しとした。

 4年目になると、結界の外での魔獣討伐の頻度が格闘訓練を上回るようになった。3年の時は班に分かれて行動していたが、単独で行動するように変わった。単独でも全員魔獣を狩ることに余裕があったので、いかに返り血を浴びずに仕留めるか、いかに傷をつけずに魔獣を仕留めるか等あらゆる技術を磨くようになった。

 それは格闘訓練にも影響した。魔法を使うと、魔獣を焼失させたり、角や爪等の素材を痛めつけたり、食べられる部位を焦がしてしまう。そうならないように、素手で素早く、素材を傷めない最小限の力で勝つ方法を編み出すようになった。魔法以外の素手での格闘がメインへと変わっていった。

 そして、その4年目の夏休みが始まる少し前に俺はお兄ちゃんになった。

 妹が生まれたのだ。その妹は尻尾がなかった。ほとんど、人間の赤ん坊のように見えた。

 師匠に聞いてみると、もしかすると昔かけた人化の魔法は弱まっていなかったのかもしれない。両親が人間に対して負の感情を抱いたなら、それが魔力結晶に影響を及ぼし、竜へと戻そうとする力が働いたのではなかろうか。それが尻尾の一部分だけが竜になるという状況を生み出した可能性がある。ということだった。

 それはつまり、アギリスとルーラは人間に対していい印象を持っているということを意味したのだ。その仮説は間違っているかもしれない。しかし、俺はその仮説を信じることにした。2人からの絆を感じることができるからだ。

俺は充実した毎日を送っていた。フレイやサムシーに嫌がらせを受けることもなくなった。毎日楽しく学校で過ごした。師匠との修行では、瀕死になることはしばしばだったが、いろいろな魔法を使える喜びに夢中になっていた。
 

 4年も終わりに近づいてくると、俺は今後の事について考える事が多くなった。周りのみんなは、成竜の儀に備え始めていた。しかし俺はそれに参加する事はできない。一度、師匠に相談したら、みんなといたいなら、竜になって成竜の儀に出るか?と冗談で聞かれた。竜になる魔法があるらしかった。人化があるなら竜化の魔法もあるらしい。一応、竜化の魔法も教えてもらったが、成竜の儀に参加する気はなかった。

 俺にはある考えがあったのだ………
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