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第65話 延長戦

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 俺は必要な色を魔法で、どんどんと作っていき、3人で色を塗ってもらう。
 そのおかげで他の班より先に完成させることができた。作品の出来も俺が最初にイメージしていたものを越えたものとなっていた。
 それを提出して、他の班が終わるのを待つことになった。提出時に作品のコンセプトの説明を求められたので、俺が七つの大罪と四大天使の件を説明することになった。
 
 全員が提出を終えると、試験官達は作品を持って別室へ出て行った。話し合いが行われて、この場で合否が決まるらしい。
 しばらくすると、試験官達は戻ってきた。
 
 「それでは、合格者の名前を発表していく。……トラヴィス、マーティン、イノセント……」
 
 1番の班から順番に呼ばれていっているようである。名前を呼ばれたものは喜び、名前を呼ばれなかったものは悔しそうにしている。赤髪の青年も名前を呼ばれなかったようで、舌打ちをしている。イノセントさんは、受かったみたいである。

 「…ミルラン…」

 どうやら、1班と2班で3人しか受かってないようである。俺達の班で最初の合格者はミルラン君であった。ミルラン君は名前を呼ばれて、小さくガッツポーズをしていた。

 「……グリフィス、ゴドファス…… 以上だ」

 は?? 何で受かったんだ? ほとんど絵を描いていないというのに? 何か受かる要素があったというのか。
 
 「駄目だったわ……」

 フローリアさんは涙を目にためている。

 「ど、ど、どど、どういうことだ~!! ふざけるな~!! 私の名前が呼ばれていないじゃあないか!!! あれほど協力したというのに、あんまりじゃあないか!! はっ、ま、まさか私を騙したっていうんじゃあないだろうな!!」

 オスカーさんが体を震わせていると思ったら、いきなりきれだしてしまった。俺に難癖をつけてくる。勝手に勘違いしたのに、俺が騙したみたいな言い方は人聞きが悪いからやめてほしい。
 オスカーさんの叫びを呼び水として他にも何人かが声をあげる。

 「そうだ!! そこの子供に負けているのは納得がいかない」
 「俺は見ていたが、絵を描いたり、色を塗ったりすることに参加していなかったぞ」
 「不正か? ダリオ工房ともあろう有名な工房が賄賂でも受け取ったというのか?」
  
 赤髪の青年や、見回った時にもめた人が俺の合格に異を唱えだした。

 ……馬鹿野郎。俺も合格に異を唱えたいぜ。「ふざけるな!! 俺は何もしてないのに、どうして合格にしてくれてるんだ!!」声を大にして叫びたいが、そんなことを言える雰囲気じゃあない。

 「あの、合格者の名前を間違えているんじゃあないですか? グリフィスって僕のことですけど、合ってます?」
 「はっ!! た、たしかに、わたしの名前はオスカーですよ。私はグリフィスなんていう名前じゃあないですよ」

 「グリフィス君が合格で間違いがない」

 なんてことだ。これから、ここで働かないといけないというのか。それは話が違うぞ。いや、まだ慌時間じゃない。断ればいいだけじゃあないか。
 オスカーさんは項垂れている。

 「その子供と俺のどこに差があったというんだ。選考基準を教えろ!!」

 見回った時に揉めたやつが納得がいっていないとごねだすと、奥の部屋から髭をたくわえたおっさんが現れた。

 「そやつは合格で間違いないぞ」
 「………ダリオ様?!」

 納得のいってないやつは驚いた顔をしている。どうやら、このおっさんがこの工房のトップらしい。俺以外の受験生は全員知っているらしく、黙ってしまった。

 「君、名前は何というんだね?」
 「……グリフィスです」
 「ん? そういう名前だったか?」

 なんだ、俺が偽名を使っているのがばれているのか? しかし、ここはグリフィスで押し通すしかないので、肯首する。

 「試験中に風魔法を使ったと聞いてな。その特徴を聞いて、前に話を聞いたことのある子どもにそっくりだったんだが。………違うのかの? 君、モロー工房という名に聞き覚えは?」

 モロー工房………どこかで見たことがあるような………あっ、ギターを作った楽器店がそういう看板を出していた気がする。あそこでは、ジークと名乗っていたような気がする。

 「その顔は知っているようだな。ギターという楽器を作ったのは君じゃろう。あそこの親方とはよく飲みに行くんじゃが、君のことは最近よく聞かされておったんじゃ。聞いていた特徴がそっくりじゃったからのぅ。魔法を使ったと聞いてピンときたわい」

 なんてせまい世界なんだ。
 
「縁故採用じゃないですか!! それでは今日の試験の意味がないじゃないですか!!」

 納得のいってないやつが息を吹き返して、声を上げる。

「……今日の試験で風魔法を使っているのと今まで儂が集めた情報を元に採用したんじゃから、文句はない気がするがのぅ。確実にお前さんよりはこの工房に利益をもたらすと儂の直観がいっておる。なんなら、勝負するか? 勝てばお前さんを採用してもいいぞ」

 唐突に何を言い出すんだ、このおっさんは。

「します」

 納得のいってない奴も即答でその勝負を受けやがった。

「そうじゃな、誰にでも勝敗が分かりやすい勝負にするかのぅ。この女神像を10分の1のサイズで木を彫って作成するのはどうじゃ。どれだけ、同じように彫ることができるかということであれば、誰から見ても勝敗が分かりやすいじゃろう」

「おもしろい。俺は絵よりも彫刻の方が得意なんだ。こんなデブには負けないぜ」

 かっち~ん。俺の事をただの豚だというやつは、完膚なきまでに叩き潰してやらなければならない。

「あ、あの俺もやりたいんですけど」
「じゃあ、私も」

 次々に落ちた人たちが名乗りを上げる。漫画家候補として雇い入れたいフローリアさんやアリトマさん、当然オスカーさんも名乗りをあげているので、これは負けるわけにはいかない。
 いや、わざと負けて受からせてあげるべきか………俺の心は揺れ動く。
 
 試験官は一人一人に木材を配る。
「制限時間は30分、始め!!」

 「30分!!」
 「嘘だろ!!」
 「そんなに早く完成させられるわけがない!!」
 
 「工房で1人前になれば可能な速さじゃ」

 「俺達はまだ一人前じゃないじゃないですか」

 「これは本来なかった試験じゃからな。そのくらいできねば合格はやれぬ」

 「あのデブも完成させられないじゃないですか? その時はどうするんですか?」
 「そうですよ。そのデブの実力じゃあ、そんな短時間で作ることはできないじゃあないですか」

 またデブといいやがったな。それにどういうことだってばよ。オスカーさんもいつの間にかあっち側についてやがる。いつの間にかグリフィスさんからデブに格下げされとる。
 ダリオさんは「そんなことにはならないから安心せい」とか言っている。俺の【3Dプリンター】の魔法を知っているな。
 まあいい。ここはダリオさんの手のひらで踊らされることにしようじゃあないか。ここで全員を落とすことは俺の漫画家を雇うことにつながるからな。

 左手の指先から出る風魔法は右回転!

 右手の指先から出る風魔法は左回転!

 余裕の笑みで皆の前に立っているダリオさんも、その指先から出る風魔法が一瞬巨大に見えるほどの回転圧力にはビビった!

 そのふたつの風魔法によって生じる真空状態の圧倒的破壊空間は、まさに歯車的風魔法の小宇宙!

 俺はその小宇宙に木材を放り込む。

 工房にあった女神像が寸分たがわず10分の1スケールになって削り出されていく。

 「な………」
 「まじか?!」
 「なん……だと……」
 「そんな魔法聞いたことないぞ!!」
 「………どういうことだ?!」

 俺の作った女神像の周りに皆が集まってくる。

 「なんて精巧な出来だ」
 「あんな短時間で出来てしまうなんて」
 「これに敵うはずがない………」
 「終わった………」
 「俺にもこの魔法が使えるのか?」
 「グリフィスさん、やはり私の目に狂いはなかった。同じ班にいた時からただ者ではないと睨んでいたんだ。素晴らしい才能だよ」
 
 オスカーさんの掌返しがすごい。クルクル回転している。デブからまたさんづけに格上げされている。

 「素晴らしい。聞いていた以上だ。是非、うちに来てもらいたい」

 ダリオさんも興奮している。う~ん、これは即答で断れる雰囲気ではない。

 「実は……まだ親の許可を取っていないので、取れたらでいいですか」

 ひとまず保留だ。親の許可はとれるはずもないので、時間が解決してくれることを祈るばかりである。俺の返答を聞いて、ダリオさんは口を大きく開けていた。



 

 
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