王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

文字の大きさ
38 / 71

第38話 金貨の重み

しおりを挟む
「あなた達だけなの?森で迷ったの?」

 女性は俺達に近づきながら、質問をしている。手には剣を持ち、その顔には火傷の傷跡が大きく残っているのでものものしい雰囲気を醸し出していた。

「いや、ちょっと虫を捕まえていたので………」

 エドガエル君は多分あんまり理解していないので、俺が女性の質問に答えた。

「虫? こんな森の中で? ここは魔物が出るから危ないのよ?」

 俺はエドガエル君に耳元で「ここって危ない魔物が出るの?」とエルフの言葉で聞いた。すると、同じく耳元に手を当てて、「弱い魔物しか出ないから大丈夫」と返してくる。

「近くに誰か大人の人がいるの?」

「いや、いませんけど………」

 弱い魔物くらいなら大丈夫ではある。

「子供2人でこんなところに来ちゃったの? この辺に村があるって聞いたことないけど………どこから来たの?」

「ハイゼンベルクの王都から来ました」

「えっ!! 子供2人で?! 門番に止められなかったの? もしかして、商隊からはぐれたのかしら?」

 そういえば、門番に止められるから子供2人でこんなところにうろついているのを見られるのはあまりよろしくなかったかもしれない。

「まぁ、そんな感じです」
 咄嗟に話を合わせてしまった。俺の悪い癖だ。

「だから空腹を紛らわすためにセミを捕まえてたのね。大丈夫よ。私の持ってきた食べ物を分けてあげるわ」

 セミは食べるためにあるのは、この世界では常識なんだろうか。ただ、反応的には最終手段という感じがするが。女性は、袋から直方体の形をした乾パンを取り出して、俺とエドガエル君に渡してくれる。
 俺とエドガエル君は乾パンを手に持ったまま目を見合わせた。

「遠慮せずに食べていいのよ。お腹減ってるんでしょう?」

 【ブラックホール】の中に食料が入っているから、大丈夫ではあるのだけれど、せっかくの好意を無下にすることはできない。
「ありがとうございます」

 お辞儀をして、乾パンを口に運ぶ。エドガエル君も真似をしてお辞儀をして、同じく乾パンを食べる。結構固くてなかなかかみ砕くことができない。かなり唾液がもっていかれてしまう。
 俺達が食べ終わるのを待って女性は口を開いた。

「私の後について来なさい。そうすれば森を抜けることができるわ」

 俺はエドガエル君に「送ってくれるって言ってるけど、どうする? 今日はもう帰る?」と耳打ちすると、こくりと頷いた。
 ひとまず標本は出来上がったし、エドガエル君もここに無断で来ていることがばれるのはやばいと思ったのだろう。一緒に帰ることに同意した。

「ありがとうございます。助かります」

「用心してね。魔物が襲ってくることがあるから」

 行きの道中では全然魔物に会わなかったのだが、運が良かったのかもしれない。俺達は素直に女性の後に従った

「お姉さんは何で、こんな森に一人でいたんですか?」
 俺は気になったことを尋ねた。

「この辺りで採れるリルナの葉というものを集めに来たんだ。怪我なんかに効くから、いい値段で買い取って貰えるんだ」

「冒険者ギルドに出ている採集依頼ってやつですか?」

「冒険者ギルドを知っているのか? そうだな、このリルナの葉は常時依頼に出ている依頼だな。傷薬として使えるから、大量にあっても買い取ってくれるんだ」
 冒険者ギルドに行ったことはないけど、イメージ通りのところのようだな。

「お姉さんは冒険者なんですね。凄いです。女性の冒険者の人って多いんですか?」
 俺が依頼するときは風の旅団とやらではなく女性冒険者に頼むとしよう。むさくるしくないしな。

「あんまり多くはないな。魔法使いやヒーラーなんかは女性がいるけれど、冒険者じゃなくて国とかに仕えることが多いからね」

「お姉さんは魔法使いじゃあないんですか?」

「そうだな。私には魔法の才能がなかったからな。これで戦っているんだ」
 腰にさしてある剣を俺達に見せてくれる。

「女性なのに凄いですね」

「凄いっていうか………冒険者しか選択肢がなかったんだ。これ」お姉さんは俺達の方に顔を向ける「顔に火傷の傷があるからね。普通の女としての人生は捨てたってだけさ」
 なかなかヘビィな話である。さらっと何でもない顔で話している辺り、何度も人に話している内容なんだろう

「お姉さんの顔の傷はさっき言ってたリルナの葉からできる薬では治らないんですか?」

「これは昔子供のころに負った火傷なんだ。火の通った油をかぶってしまってな。傷薬くらいではこの火傷跡は治らないんだ」

「そうなんですか……」リルナの葉も万全というわけではないのか。「魔法の【聖なる癒しホーリー・ヒール】でも治らないんですか?」

「【聖なる癒しホーリー・ヒール】をかけて貰うには金貨が1枚は必要だからな。当時、そんなお金はなかったからね。治すことができなかったんだ」

 金貨1枚は冒険者にとっては大金なのか。服とかに金貨を何十枚もかける冒険者もいれば、金貨1枚でも大変な冒険者もいるってのは悲しい現実である。
 俺が考えていることを読み取ったのかお姉さんは続けた。
「今も治さないのは金貨1枚がないからってわけではないんだ」

「そうなんですか? では何で?」

「私も親が金貨1枚と旅費を貯めてくれて、治してもらおうと思って、司祭のところに行ったことがあったんだ。でも私の傷は【聖なる癒しホーリー・ヒール】では治らないって言われたんだ。時間が立つと、それが正常の状態だと認識されるらしくて【聖なる癒しホーリー・ヒール】では治らなくなるらしい。時間が立った火傷の傷を完治させるには最高司祭が使う【高位の癒しハイ・ヒール】なんかじゃなきゃ駄目みたいでね。金貨が20枚くらいかかるらしいんだ。でもそれが今の私の目標さ。聖都までの旅費も稼がないと駄目だけど、いつかはってね」

 うっ、金貨20枚か。奇しくも俺がこの前無駄に使った金額と一緒である。なんかよくわからない罪悪感があるな。しかし、そこは王族だからね。気にしたら負けである。
「しっ!! 動かないで!!」
 突然お姉さんは叫んだ。
 叢が動いたと思えば、中から前に爆散させた種類のオオカミが1匹現れた。お姉さんは腰の剣を抜いて、オオカミと対峙した。エドガエル君も剣の柄に手をかけようとするが、俺が首を振って止めておいた。ピンチになったら、俺の魔法で爆散させればいし、念のためにちょっとした手助けとして闇魔法で相手の視界を塞いでおいた。
 視界が暗くなったオオカミは暴れ始めて、お姉さんを噛みつこうと口を開いて飛びついた。その単調な動きを捉えて下から切り上げて難なく葬り去った。

「大丈夫だったか? グレーターウルフとは君達だけだったら危ないところだったな」
 オオカミじゃなくてグレーターウルフという魔物だったみたいである。

「集まってくる前にさっさと帰ろう」

「素材とか持ち帰らないんですか?」
 魔物だと魔石が取れるはずである。さっきの話を聞いてしまったので、少しでも足しにしてもらいたいところではある。

「今はそんなことよりも君達の安全の方が優先だからね。ついておいで」
 なんて男らしいお姉さんなんだ。
 その後グレーターウルフがまた現れたが、俺は陰ながら手伝って、お姉さんが同じように斬って捨てた。

「ここまで来ればもう安全だ。あそこに王都の門が見えているだろう」

「本当ですね。ありがとうございます」
 どうやらここでお別れをするようである。もしかすると、さっきの魔石を回収しに行くのかもしれないし、依頼のリルナの葉を取りに行くのかもしれない。俺達にとってもそれは都合がいいので、異論はない。
「少ないですが、これ……」
 俺は腰に下げた袋から銀貨を取り出そうとする。

「気にしなくてもいい。そんなに大したことはしていない」
 それではお姉さんにオオカミを狩ってもらった意味がなくなる。お礼としてお金を渡すつもりだったのだが。どうしようか。

「お姉さん、ちょっと座ってくれる」

「どうしたんだ? こうか?」
 俺はお姉さんの顔に右手を触れて、心の中で【高位の癒しハイ・ヒール】と唱えてお姉さんの顔が治るのをイメージする。できるかどうか分からないので何も説明せずにやってみる。できる雰囲気を醸し出してできなかったらショックが大きいしね。
「ひどい火傷だろう。君たちは私のことを最初から怖がらなかったな。あんな森の中にいたのに、焦った様子もないし、案外将来は大物になるかもしれないな」
 お姉さんは大きく笑った。

 そして、その顔の火傷の傷がみるみる治って、本来の素顔を取り戻して、素敵な笑顔になる。
 エドガエル君はそれを見て、両手をぶんぶんと上下に振って俺の方に顔を向ける。
「ああ、それじゃあな」

 エドガエル君の行動が、早く帰りたがっていると思ったのかお姉さんは立ち上がって手を振った。
 リンネの光魔法が最高司祭の回復魔法に匹敵することを知れたし、エドガエル君の驚きも見れたのでこれで良しとしよう。顔が治ったことを伝えるのは野暮ってものである。

「お姉さんに素敵な出会いがあるように願ってます」

「ありがとう。あればいいけどな」
 俺は手を振り返して、俺達は門の方へと歩き出した。エドガエル君はエルフの言葉で『すごい、すごい』という言葉を連呼している。
 振り返ると、俺達を見送ってまだ手を振っているお姉さんの姿があった。あの顔であるなら存外早くいい出会いが見つかる気がするなと思った。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...