ソーマジック・サーガ ~異世界と地球を紡ぐ物語~

渡邊渡

文字の大きさ
上 下
69 / 70
第4章:地球での戦い

第68話 黒き島の引率者

しおりを挟む
『必要冒険者ランク:B
 カテゴリー:調査
 場所:アルゴリアと思われる
 内容:行方不明者の数が増えている。原因を調査し報告せよ』
 
 依頼書の内容を見ただけでは、何故アルゴリアという名前が出て来ているのかてんで分からない。
 しかし、これはいつものことである。
 というのは、依頼書に書き込むことができる文字数が非常に少ないことが原因だ。
 紙が勿体ないというのも一つの理由だけど、冒険者ギルドは同じ紙を何枚も準備する必要があるのだから仕方ない。
 最低でも依頼ボード、各窓口受付の担当、依頼を受けた冒険者に渡す分が必要なのだ。
 冒険者に渡す分が何枚まで膨らむか分からないし、渡すたびに書き写しているという話をパウルから聞いたことがある。
 
 つまり、何が言いたいのかというと「依頼の内容を説明するために、パウル達が常駐している」ってわけだ。
 そんなわけで、彼へ質問を投げかける。
 
「パウルさん、人さらいって今にはじまった話じゃないですよね?」
「その通りです。衛兵達が治安維持にあたっておりますが……」
「街中での行方不明者が増えているのですか?」
「いえ、郊外に出た者の数が増えています」
「それがアルゴリアと繋がるんですか?」
「はい。再度調査をすることをお勧めいたしますが、ギルドが掴んだ情報によりますと、アルゴリアへ連れ去られた者が増えていると噂されています」

 ふうむ。
 アルゴリアはかつて栄えた街の跡地だ。現在は廃墟になっていて、人が暮らしていくには難しい。
 何しろ、過去に作られた広大な地下にモンスターが住み着いていて危険度が高いんだよね。
 冒険者にとってはお世話になる場所で、彼らが夜を明かす為に地上部分へ簡易的な小屋が準備されていたりする。
 
「んー。野盗がアルゴリアに巣くうとは考え辛いですね」

 冒険者は野盗より屈強だ。それにモンスターもいるわけだし……野盗がわざわざアルゴリア遺跡に居を構えるメリットがない。

「そうですね。ひょっとすると(野盗が)深層にいるのかもしれませんが……冒険者の方々でも進むのが困難な場所に野盗など考えられません」

 ん、待てよ。

「ねーねー。難しいお話はよく分からないぞー」
「あ、すまんすまん」
「アルゴリアってところに行けばいいんでしょー。じゃあ、すぐに向かおうよー」
「ちょっと待ってくれ。今やっと考えが整理できたんだよ」
「えー」
「この調査依頼。相当な危険が伴うかもしれない」
「別にいいよー。バルトロとわたし……ついでにイルゼもいるもん」

 あ……。
 すっかりいつもの冒険者モードで物事を考えていたよ。
 地形を易々と変えてしまうプリシラとイルゼがいて、強いモンスターが出るんじゃないかなんて危険性を懸念する必要なんてどこにもなかった。
 
 でも、一応聞いておくか。
 
「パウルさん。今回で調査に向かう冒険者パーティは何組目ですか?」
「さすがバルトロさん、鋭いですね。あなた方で十組目です」

 冒険者ギルドの職員は聞かれなければ何も語らない。
 聞いても教えてくれないこともあるけどね。

「帰った人達は?」
「五組です。当初どこに原因があるか探って未発見に終わったパーティ。アルゴリアに原因があると突き止めたパーティ。そしてアルゴリアの浅い層だけを探索したパーティです」
「無難にこなした人達と自分達の実力以上に深い階層に入らなかった人たちが戻ったってわけかな」
「はい。冒険者とは自らの実力を正確に把握する能力が求められますから。バルトロさん、あなたはそういう意味で一流と私は思っています」
「ありがとう。聞きたいことはだいたい聞けたよ。行ってくる」
「ご武運を」

 パウルは深々と礼を行う。
 右手をあげて彼に応じ、俺とプリシラは冒険者ギルドを後にするのだった。
 
 ◆◆◆

 冒険者ギルドを出た俺は、冒険者向けの服屋や武器屋を巡りアルゴリアと行方不明者のことについて店主や店に来ていた冒険者達に聞いて回った。
 ダメ元で聞いてみたけど、いくつかの情報を得ることができる。
 最も、プリシラ用の少しお高めのローブを購入したから……情報料としては高くついた。
 でも、彼女が喜んでいたから良しとしようじゃないか。
 
 この後、露天を回って噂話の収集にあたるが、情報が錯綜していて却って混乱してしまう。

「次はどこにいくのー?」

 青と赤のピアスを購入しご機嫌なプリシラが俺の服を引っ張る。
 ピアスは鳥の頭をモチーフとしていて、首元に当たる部分に赤色の綺麗な石が取り付けられていた。
 青色のピアスもデザインが同じで、石の色だけが違う。
 
「そうだなあ。そろそろ酒場に行くか」

 陰ってきた日へ目を細め呟く。それと同時に腹がぐううと鳴った。

 そんなこんなで、いつもの行きつけの酒場でも情報収集を行う。
 経験上、ここでいろいろ聞いて回るのが一番情報が集まるのだ。
 グインはいるかなあと少し期待していたんだけど、残念ながら会うことはできなかった。
 でも、そのうち彼は俺の自宅を訪ねて来てくれるはずだ。
 俺の畑が短期間で完成したことを驚く彼の顔を見る時まで、会うのを楽しみに待っておくとしよう。

 料理を注文し、酒場のマスターに話を聞いてみると予想通りまとまった情報を聞くことができた。
 マスターにすかさずお酒を注文しようとしたプリシラへ「めっ」してリンゴジュースを頼む。
 俺? 俺はもちろんエールを飲むよ?
 だって、一日中歩きまわったんだもの。汗をかいたらエールだろ。
 
「バルトロだけずるーい」
「我慢してくれ。魔族の社会ではどうか分からないけど、ここでは君くらいの年齢だとお酒は出せないんだよ」
「ぶー」

 膨れているプリシラだったけど、料理が到着すると目を輝かせる。
 「おいしそー」と口元から涎が出そうになって、スプーンとフォークを握りしめ俺が料理を取り分けるのを待っていた。
 
「ほら」
「やったー」

 ちょうどその時、リンゴジュースとエールも運ばれてきてプリシラが料理より先にジュースに口をつける。
 
「おいしー」
「そいつはよかった」
「うんー」

 にへえと口元を緩めながら、プリシラがシチューにパンをつけてほうばった。
 
「これもおいしー」
「そうか」
「これもー」
「そうか」
「これもこれもー」
「そうか」

 なんて会話を交わしていたら、あっという間にお腹いっぱいになる。

「よっし、じゃあ。イルゼとの合流場所に行くか」
「うんー」

 イルゼとは宿で落ち合う約束をしていたんだ。
 依頼のことも彼女に伝えないとな。
 
 ◆◆◆
 
「え……ここに泊るの……?」
「いっぱいお部屋がありそうだけど、イルゼはどこにいるのかな」

 あんぐりと口を開けたまま上を見上げる。
 この街にこんな宿があったなんて驚いた。
 建物は六階まであり、赤レンガの洒落た外装にアーチがふんだんに使われた窓。
 窓にはちゃんとガラスがハマっていて高級感をアピールしている。
 一階部分の窓はステンドグラスになっていて、宿の前を通る人の目を楽しませていることだろう。
 
 一言で言うと、この宿は超高級店だ。
 
 こんなところに宿泊するととんでもないお金を取られてしまうぞ。
 払えないことはないだろうけど、生活費が一気に吹き飛ぶ。断固拒否だ。
 
 ある種の決意をもって、宿の扉をくぐる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...