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第68話 黒き島の引率者
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マサノリ達のように地球から召喚された者達は、召喚主であるエヌの王族からさまざまな能力を引き継いでおり、その力は転移者であるサトル達とは大きな違いがある。
しかもこれまでの戦いによって獲得した経験値も多く、レベル的には兵隊あるいは部隊長クラスのデュベリスを寄せ付けない強さがある。
ゆえにサトルたち転移者が、デュベリスが拠点とする「黒き島」でレベリングを行う際は、安全と指導のため召喚者の誰かが一定のレベルに到達するまでサポートするようになっている。
これまでは大木やナツ、花井夫妻が交代でサポートしていたが、最後のチームであるサトル達は、マサノリ本人がサポートを担当することになった。
その理由はマサノリがサトルを転移者の中でもっとも評価していること、そしてサトルとサクラを将来エヌに残すことを考えており、サトルの真意を探るためだ。
もちろんマサノリ達も地球も、そしてエヌの人々も、デュベリスとの戦いに勝たなければ、すべてはなんの意味もない。
だがデュベリスの襲撃によってエヌの王族は多くが殺され、また生き残った王族は老若男女を問わず召喚のために命を捧げた。マサノリ達を召喚した最後の王族はその遺体を冷凍保存してあるが、蘇生させる目処は立っていない。
将来的にデュベリスとの争いが決着した場合、次に必要なのはエヌの再建。そのためには、王族の遺骨から作られた転移装置によりエヌに送還され、エヌを救ったという筋書きを描ける転移者がエヌに居を構え、子孫を残し、生涯を全うすることが、エヌからも望まれているのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、相思相愛で能力も十分なサトルとサクラだ。
この2人はデュベリスとの戦いに勝利したあと、エヌに戻りそこで暮らすことを夢見ている。それはエヌに対して憧れともいえるものを抱いているからだ。
一方でマサノリ達召喚者は、先の戦いにおいて多くの仲間を失った。当時は召喚されても地球に戻る手段がなく、拒否することもできず戦いに繰り出され仲間や家族を亡くしている。そのためエヌの国民から王族のような扱いを受けることに、少なからず抵抗がある。
特に最愛の妹を守れなかったマサノリは今も複雑な心境を抱いており、サトルやサクラのように先入観を持たずエヌと接することができるのは、マサノリ達にとって貴重な人材であったのだ。
サトル達がエヌから地球に戻り、その後戦いに参加することを決断してから2週間後、サトル、マッキー、エリ、ワカナはマサノリと共にエヌにある黒き島に来ていた。
「ここがあのデュベリスが拠点としている、俺達が黒き島と呼んでいる場所だ。奴らはここに転移陣を作り、宇宙のどこかにある奴らの星からここに兵隊を送り込んでいる。今はナツの結界でここから外に出ないよう対処しているが、完全ではなく稀にイレギュラーもある。それでもハルの召喚獣も使ってパトロールしているから、大きな問題には至っていない」
マサノリの話を聞いたサトルは冷静に状況を分析する。この黒き島にあるというデュベリスの転移陣は、あえて破壊していないのかもしれない。これは俺達をレベルアップさせるためのステージなんだろう。だがマサノリからの説明は、サトルの分析を覆すものであった。
「ちなみにこれまで10回ほど、この転移陣の破壊を試みたが、すべて失敗している。失敗した理由は、転移陣の正確な場所は不明で探せていないこと。奥の方に行けば行くほど、ヤバい雰囲気だからだ。一度、適当に極大殲滅魔法をぶつけてみたが、魔法を反射してナツの結界を破壊してしまい、デュベリスが結界の外に逃げ出したことがあった。こっちもこれ以上戦力を減らすリスクは負えないので、現状の扱いになっている。まぁ結果的にレベリングもできているから良しとしているが」
つまり敵のデュベリスに関して、まだわからないことが多いのだろう。このエヌに関しては今のところ大きな変化がないため、とりあえず現状維持で対処。そして地球での対デュベリスに重点を置いているといった印象だ。もし地球が襲われるという懸念がなければ、本格的にここを攻略するだろう。
「では早速島の中に入るぞ。この辺りに出てくるのは、低レベルのデュベリスばっかりだ。落ち着いていれば完封できるだろう。まずはシミュレーション通りにやってみようか」
サトル達がデュベリスとの戦いに参加することを決めてから、黒き島に来るまでの2週間の間に、マサノリ達が用意した特訓という名のブートキャンプを過ごした。
それは仮想デュベリスとの戦いであり、サトル達はそこでみっちりと本物の戦いを味わされた。そしてマサノリからのゴーサインを経て、いよいよ黒き島に渡ることになったのである。目標は現在のレベルを300まで上げること、そして1000レベルの部隊長クラスをチームで倒せるように経験を積むこと。
サトルは落ち着いてメンバーに声をかける。
「これからはシミュレーションと違って一つのミスが命取りになる。無理をせずに、練習通りに、お互いを信頼してやろう」
3人は緊張した面持ちで頷く。
それを見たマサノリは、何も言わずただ感じていた。4人が想像もつかない激しい戦いが待っているだろうと。だが同時にサトルという切り札に手応えも感じていた。
いつデュベリスが地球を襲うのか、それがどの程度の規模なのか、誰にもわからない。しかしその日は着実に近づいているのは間違いない。マサノリたちに残された時間はあとわずかだ。
「黒き島での死闘」へつづく
しかもこれまでの戦いによって獲得した経験値も多く、レベル的には兵隊あるいは部隊長クラスのデュベリスを寄せ付けない強さがある。
ゆえにサトルたち転移者が、デュベリスが拠点とする「黒き島」でレベリングを行う際は、安全と指導のため召喚者の誰かが一定のレベルに到達するまでサポートするようになっている。
これまでは大木やナツ、花井夫妻が交代でサポートしていたが、最後のチームであるサトル達は、マサノリ本人がサポートを担当することになった。
その理由はマサノリがサトルを転移者の中でもっとも評価していること、そしてサトルとサクラを将来エヌに残すことを考えており、サトルの真意を探るためだ。
もちろんマサノリ達も地球も、そしてエヌの人々も、デュベリスとの戦いに勝たなければ、すべてはなんの意味もない。
だがデュベリスの襲撃によってエヌの王族は多くが殺され、また生き残った王族は老若男女を問わず召喚のために命を捧げた。マサノリ達を召喚した最後の王族はその遺体を冷凍保存してあるが、蘇生させる目処は立っていない。
将来的にデュベリスとの争いが決着した場合、次に必要なのはエヌの再建。そのためには、王族の遺骨から作られた転移装置によりエヌに送還され、エヌを救ったという筋書きを描ける転移者がエヌに居を構え、子孫を残し、生涯を全うすることが、エヌからも望まれているのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、相思相愛で能力も十分なサトルとサクラだ。
この2人はデュベリスとの戦いに勝利したあと、エヌに戻りそこで暮らすことを夢見ている。それはエヌに対して憧れともいえるものを抱いているからだ。
一方でマサノリ達召喚者は、先の戦いにおいて多くの仲間を失った。当時は召喚されても地球に戻る手段がなく、拒否することもできず戦いに繰り出され仲間や家族を亡くしている。そのためエヌの国民から王族のような扱いを受けることに、少なからず抵抗がある。
特に最愛の妹を守れなかったマサノリは今も複雑な心境を抱いており、サトルやサクラのように先入観を持たずエヌと接することができるのは、マサノリ達にとって貴重な人材であったのだ。
サトル達がエヌから地球に戻り、その後戦いに参加することを決断してから2週間後、サトル、マッキー、エリ、ワカナはマサノリと共にエヌにある黒き島に来ていた。
「ここがあのデュベリスが拠点としている、俺達が黒き島と呼んでいる場所だ。奴らはここに転移陣を作り、宇宙のどこかにある奴らの星からここに兵隊を送り込んでいる。今はナツの結界でここから外に出ないよう対処しているが、完全ではなく稀にイレギュラーもある。それでもハルの召喚獣も使ってパトロールしているから、大きな問題には至っていない」
マサノリの話を聞いたサトルは冷静に状況を分析する。この黒き島にあるというデュベリスの転移陣は、あえて破壊していないのかもしれない。これは俺達をレベルアップさせるためのステージなんだろう。だがマサノリからの説明は、サトルの分析を覆すものであった。
「ちなみにこれまで10回ほど、この転移陣の破壊を試みたが、すべて失敗している。失敗した理由は、転移陣の正確な場所は不明で探せていないこと。奥の方に行けば行くほど、ヤバい雰囲気だからだ。一度、適当に極大殲滅魔法をぶつけてみたが、魔法を反射してナツの結界を破壊してしまい、デュベリスが結界の外に逃げ出したことがあった。こっちもこれ以上戦力を減らすリスクは負えないので、現状の扱いになっている。まぁ結果的にレベリングもできているから良しとしているが」
つまり敵のデュベリスに関して、まだわからないことが多いのだろう。このエヌに関しては今のところ大きな変化がないため、とりあえず現状維持で対処。そして地球での対デュベリスに重点を置いているといった印象だ。もし地球が襲われるという懸念がなければ、本格的にここを攻略するだろう。
「では早速島の中に入るぞ。この辺りに出てくるのは、低レベルのデュベリスばっかりだ。落ち着いていれば完封できるだろう。まずはシミュレーション通りにやってみようか」
サトル達がデュベリスとの戦いに参加することを決めてから、黒き島に来るまでの2週間の間に、マサノリ達が用意した特訓という名のブートキャンプを過ごした。
それは仮想デュベリスとの戦いであり、サトル達はそこでみっちりと本物の戦いを味わされた。そしてマサノリからのゴーサインを経て、いよいよ黒き島に渡ることになったのである。目標は現在のレベルを300まで上げること、そして1000レベルの部隊長クラスをチームで倒せるように経験を積むこと。
サトルは落ち着いてメンバーに声をかける。
「これからはシミュレーションと違って一つのミスが命取りになる。無理をせずに、練習通りに、お互いを信頼してやろう」
3人は緊張した面持ちで頷く。
それを見たマサノリは、何も言わずただ感じていた。4人が想像もつかない激しい戦いが待っているだろうと。だが同時にサトルという切り札に手応えも感じていた。
いつデュベリスが地球を襲うのか、それがどの程度の規模なのか、誰にもわからない。しかしその日は着実に近づいているのは間違いない。マサノリたちに残された時間はあとわずかだ。
「黒き島での死闘」へつづく
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