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第三章:エヌという星

第60話 帰還

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『あのリアル・ソーマジック・ギアは、王族の遺骨で作られたものなんだよ』

 マサノリの言葉が響く。再び告げられた衝撃の事実に4人は声を出せない。



 数秒の沈黙の後、補足するようにオブリバが説明を続けた。


『もしかしたら誤解があるかもしれないので、私の方でもお話させていただきます。あの装置は、王族の遺体すべてを使ったわけではありません。亡くなっても魔力は残されていましたので、火葬したお骨のごく一部を抜き出し、そこに王族の魔力を集めて凝縮、さらにマサノリ殿の魔力を加えたものです。そこまでしてあの装置を作ったのは理由があります。ノカ姫はマサノリ殿を召喚する前に、こうおっしゃいました。

“もし召喚が失敗した場合、もしくは召喚が成功しても結果が出なかった場合、私や王族の遺体を暴いてでもいいから、やれることはすべてやりなさい”

 と。実際はマサノリ殿たちのおかげでデュベリスをある場所まで追い詰めることができましたが、私どもはその先を見据え、マサノリ殿にお願いをして、あの装置を完成させたのです』

『デュベリスってのは、お前たちが死にかけた黒い魔物だ。ソーマジック・サーガのゲームにも出てきた、あの全身黒い魔物のことだ』


 オブリバとマサノリの説明は、サトルたちにとって決定的なものが足りなかった。それに気付いたエリが、意を決してマサノリに話しかける。


「あのアイテムにそんな力があることは理解できた。でなければ、地球からこの星まで行けるはずがないもの。でも、何故、そんなことをしてまで私たちを地球からここまで呼んだの?そんな説明は事前になかったじゃない?そのおかげでどれだけ不安な時間を過ごしたか。残して来た娘がどれほど心配か…」


 段々と感情があふれ出しているように、エリにとってこの状況は決して望んでいたものではなかった。ただ、気軽にゲームを楽しみたかっただけなのである。

 自分たちが地球からエヌまで飛ばされ、その後ダンジョンで戦わされている。その本当の理由が知りたかった。


 マサノリはエリが落ち着くのを待って静かに話し始めた。


『俺はデュベリスを撃退する中で、相手がどんな思考を持っているのか、どれほどの戦力や戦略があるのか、指揮官クラスを捕まえて、頭脳をスキャンして調べた。すると、相手の思考から、ありえないものが見えたんだ』

「あり得ないもの?なんだそれは?」

 マッキーも状況に慣れてきたのか、いつもの雰囲気に戻っている。


『富士山だよ。富士山だけじゃない。万里の長城や自由の女神、凱旋門にハワイのダイヤモンドヘッド、ナイアガラの滝や凱旋門も見えた。つまり奴らは、次の侵略先に地球を選んでいる。そのための調査をすでに済ませているといっていい』

「あの魔物が地球へ!?」

『信じられないかもしれないが、奴らの司令官クラスの思考からはそれが現実になろうとしている。実際に、つい数日前にもアメリカのグランドキャニオンでデュベリスを倒しているんだ』

 さらなる爆弾投下にサトルたちは沈黙する。

『俺たちがやつらの戦略に気付いたのが数年前。そこで俺は地球を守るため、日本の政府と話し合って対策を協議したんだが、その結論が魔物に対抗できる力をエヌで身に付けること。そしてその適性を持つ人間を探すために、政府と協力し合ってあのゲームを開発した。わかっていると思うが、あのゲームはこの世界を舞台に作られている。そしてこの世界で身に着けた能力は、実際に現実の世界でも使える』

「つまり、私たちに、この力を使って地球で戦えということ?」

『それはひとつのプランだが強制ではない。ここから先の選択肢は2つある。まず一つは、いつか来る決戦の日に向けてエヌでさらに力を付けること。この場合、すべての知識や経験、能力はそのままだが、決戦の日まで地球での使用は制限させてもらう。恐らく決戦まで半年もないと思う。そして実際に地球であの魔物と戦う。当然だが命の保証はない。

 もう一つはいたってシンプルだ。ソーマジック・サーガも、ここで過ごしたこともすべてを忘れて、一般人として過ごしていく。当然のことながら、すべての知識も経験も能力もスキルもすべて喪失する。日本に戻ってから一週間後に迎えに行くので、じっくり考えてほしい。なおこれから日本に戻るが、能力のほとんどは封印させてもらう。質問があれば聞こう』




「あのゲームで、私以上のプレイヤーは大勢いたはずだけど、なぜ私なのかしら?それと、伝説の宝玉クリア時の仲間が一人もいないのはなぜ?」

『今回日本から連れてこられる人間は20名だけだった。大事だったのは、プレイヤーのレベルが100以上でソーマジック・サーガの技術や知識があること。そして、人間性、生活習慣、協調性、犯罪歴なども考慮した。確かにゲームの実力でいえば、君たち以上の人間は大勢いた。だが、このエヌに迷惑をかけない人間であること、パーティーやチームとして協調性をもってやれること、そして何より強い力を手に入れても、それを犯罪などに使わないことが重要だ。そのためにはゲームの実力以上に人間性が重要と考えている。ちなみに伝説の宝玉の時で君たちが組んだ他のメンバーは、実は架空のキャラクターであって実在のプレイヤーじゃない。あのイベントは、各ジョブで優れた人を探すためのもの。他のメンバーの言動はすべてプログラムされたものなんだよ』

「国が関与しているって言っていたが、どこからどこまで関わっているんだ?」

『すべてだ。これは日本や世界を守るための国家事業。予算は航空宇宙自衛隊から出ていて無制限で、ゲームの開発から運用、管理までやっているし、今もみんなは国家公務員扱い。地球での戦いに参加してもしなくても、すでに1億円の報酬が決定しているし、今も毎月100万円が口座に振り込まれている。帰ったら銀行口座をチェックしてみろ。ただし、地球での戦いに参加しないなら、毎月の報酬はそこでストップになる。ちなみに参加した場合、緊急出動がなければ週休2日、一日8時間労働、夏と冬に賞与があり、働きに応じて年2回昇級がある。住居は無料で税金も生涯免除、かなり奮発しているぞ。ちなみに、今もみんなの家族は政府に保護されているし、安全な宿舎で暮らしているから安心していい』

「税金が生涯免除!それはマジか?」

「俺たちは日本で今どういう扱いになっているのか?」

『君たちは政府に選ばれた臨時職員として、海外に派遣されていることになっている。職場も学校も無断欠席や欠勤になっていないので、安心していい。エリさんの娘さんに関しても毎日報告が届くが、元気にしているよ』

「なぜレベル100という条件だったんだ?それに日本に帰るって言っていたけど、まだレベルは80だ」

「そうよ、早く帰せるなら早く帰してほしかったわ」

『エヌから日本に戻るのに、負担が何もないわけではない。俺たちが見つけた恒星間転移の術式を使うには、ソーマジック・ギアに使った王族と同等以上の魔力がなければ、日本へ向かう途中の転移に肉体と精神がもたない。個人差があるが、必要な魔力の基準がだいたいレベル80から100あたりだからな。ただ君たち4人は優秀だ。今のレベルでも問題なく日本に戻れる』

「28人の召喚に対し、生き残りは何人なんだ?」


『…7人だ。何人かは地球に戻っているが、ここに残っているのもいる。感づいていると思うが、そこにいるスカーレット王女もそのうちの一人で、俺たちとともにデュベリスとの戦いを生き抜いた日本人だ。今は魔法で容姿を変えている。レベルを言えばお前たちの10倍以上ある』

 スカーレット王女ことハルはニコリとほほ笑んでいる。サトルにとっては予想通りであったが。

「地球での戦いに勝算はあるのか?」

『現状では五分五分といったところ。こっちもいろいろと対策は練っているが、相手の規模や強さが断定できないからな。ただエヌを襲撃した魔物の強さを基準で考えれば、十分対処はできると思っている』

「日本以外の国はどうなっているんだ?例えばアメリカとか中国とか」

『話は通してあるが詳細は言えない。ただ、決戦の場所は日本でと考えている。詳しい作戦は、みんなには直前に伝える予定だ』

「俺たち以外の16人はどういう状況なんだ?」

『ここまで脱落者はいない。つまり16人全員が週5日のレベルアップを行っている。センスにバラつきがあるが、すでに最後の実戦を行っているし、日々レベルアップしている』


「私からもいいですか?」

『もちろんだ』

「もし地球での戦いに参加しない場合、もう皆さんとは会えないのですか?」

『偶然街で見かけることはあるかもしれないが、この数か月の経験も知識も、そしてお互いに関する記憶がなくなる。そういった意味では会えないといって間違いないだろうな』

「わかりました。私は皆さんが参加するなら参加します」

「参加だな。年齢的にも今がピークだろうし、自分の力が通用するか試してみたい。それに、地球での決戦で勝てば英雄じゃないか」

「俺は… いちおう考えさせてほしい」

「私も、娘と話さないと何も決められない…」

『もちろん。ここから先は何も強制しない。それぞれの意見を尊重する。ほかに質問は?なければ、このまま日本へ戻るぞ』

「えっ、宿屋に置いてあるものが…」

「武器も含めて持ち物は日本へ持ち出し禁止だ。みんなの収納も封印させてもらう。ただ、黄金の冠は後日換金して渡すけどな。結構な収入になるぞ」


 突然現れたマサノリという男。サトルたちは当初彼の説明に半信半疑ではあったが、自らとかけ離れたレベル差を感じたことで、その話を信じざるを得なかった。

 これから先、4人を待ち受ける運命は誰もわからない。ただ一つ言えることは、サトルにとって参加しない手はないということだ。それほどまでに、エヌの世界もソーマジック・サーガの世界も居心地が良かったのである。

 それでも答えを先延ばししたのは、日本に戻って確認したいことがあり、そして会わなければならない人がいたからだ。


 その後サトル、マッキー、エリ、ワカナの4人は日本へ戻った。エヌに滞在してから、およそ3か月が過ぎていた。


第3章完

「第4章:地球での戦い~デュベリスの星~」へつづく
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