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第三章:エヌという星
第56話 地球での遭遇
しおりを挟む地球から遠く離れた惑星エヌを襲った異星の黒き魔物デュベリスは、地球上の生物学的常識が通用せず、能力も生態系も謎が多く、魔物達の目的も規模も拠点となる星もどこか掴めていない。
わかっていることは、他の星の生物を食料とするなど何らかの意図があって侵略しているということ。そして地球やエヌにはない特殊な能力により、他の星へ渡る術を持っているということ。
地球がこの魔物たちの侵略先に選ばれた理由はもちろん不明。だがマサノリは、ある出来事がきっかけでその計画を掴むことができ、結果として様々な対応を取ることができた。
そしてこれまで何度か地球でもデュベリスの痕跡を見つけることはあったが、実際に動き回るのを探知したのはこれが初めてだ。
デュベリスが現れたのはグランドキャニオン。
アメリカ西海岸のアリゾナ州北西部に位置し、大峡谷の長さは446kmだから東京から京都ほどの距離。その広さは4926平方kmと広大で、日本では福岡県と同じくらいだと言われている。またあまり知られていないが標高は2000m以上と高く、崖の高さは平均で1200mと絶壁だ。一部の観光地域以外は人の出入りはほぼなく、デュベリスにとって身を隠す絶好の環境といえるだろう。
そこを3体のデュベリスがうろついている。
すでに転移してきたシーナはその3体を空から見下ろしながら、周囲を警戒しつつ、やつらが使用した転移場所を探してみた。
するとある空間に巨大な黒い渦を見つけたのである。
「あれがやつらの転移手段ね。しっかり調べて分析する必要がある。もちろんあの3体も逃がさない。あの鳥型はエヌで見たことがある。鑑定してもレベルは300に届かない。これなら2秒もあれば十分」
レベル換算で2000を超えるシーナにとって、あの魔物は脅威ではない。しかしただ倒せばいいわけでもなかった。ここでシーナは、このケースを想定したマニュアルを思い出す。
「大事なのは、まず空間を遮断して結界を作り、逃さない状況を作ること。次に少し様子を見て地球での環境の適応状況をチェックすること。そしてすべて生きたまま捕らえること。アメリカに気付かれないこと。被害を出さないこと。目撃者を出さないこと。最後に転移スポットも破壊せず、強い結界で確保すること。これがすべてよね。それではいきますか」
シーナは両手を空に掲げ、空中にドームの形を描いた。
「イオス!」
シーナがそのドームに魔力を込めて結界魔法を発動させると、魔物を中心に半径200mほどの結界を作り出した。続けて
「ドラヴ!」
と叫ぶと、デュベリスの転移スポットが完全に外部から遮断され、外部から見えなくなってしまった。
「よし。あとは殺さずに捕獲しないとね」
あっさりと仕事をやってのけたが、これだけの結界魔法を使いこなせるのは全召喚者の中でもシーナだけだ。
しかしそこで信じられないことが起こる。
「ズガドロボォーン!!!!!!!」
なんと結界の閉じ込めたデュベリスが3体とも自爆したのだ。そして転移スポットも消滅したのである。自爆したデュベリスの体は消滅していき、あたりは何もなかったような状況に戻っている。
その瞬間、マサノリがやってきた。
「シーナ。どうした、何があった?」
「マサノリさん。やられた。罠だったかも。こっちの手の内を知られたかもしれない。ごめんなさい…」
シーナは今回の出来事が、すべて敵の作戦であり、掌で踊らされたような気がした。そしてそれは大きなミスになったのではないかと考え、落ち込んでいる。
「そんなことはない。考えすぎだ。それにまだすべてを明かしたわけではないし、こっちの切り札をやつらが事前に把握することはできない。それよりもシーナに怪我がなくて良かった。まぁ、せっかく来たから調べていこうか」
マサノリはシーナの頭をなでながら落ち着かせた。
「うん、そうだね。とりあえず痕跡が残っているかもしれないから調べよう」
シーナは少し頬を染めながら冷静さを取り戻し、マサノリの後を追って崖の下に降りていった。
「う~ん、デュベリスの方は大したものは残ってないな。単なる囮だったかもな。そっちはどうだ?」
「マサノリさん、ちょっと来て。これは思ったよりも深刻かも…」
「流星群」へつづく
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