33 / 69
第二章:明らかになっていく真実
第32話 リビレジェ・ビース
しおりを挟む店がビースという人物で騒ぎになっているが、サトルたちはその人物が何者かわからない。
するとこの店の店主らしき人が話しかけてきた。
『あんたらニホンジンだろ?さっきの話を聞いたよ』
「あぁそうだ。日本人を知っているのか?」
『まぁな。これまで何人も見てきたし、みんな俺の料理を食って喜んでくれたからな。それに、いろいろ教えてもらったのもあるぜ。
例えばじゃんけんってやつ。
これは便利だよな。手っ取り早く物事を決めるのに分かりやすい』
「へぇ、じゃんけんも広まっているのね」
エリはじゃんけんがエヌにも伝わっていることを意外に感じたが、日本の文化が広まっていることに誇らしいようだ。
「そうそう、みんなが騒いでいるビースって何者だ?」
『ビースさんはリビレジェのビースさんだ。リビレジェは生きる伝説って意味らしいが、よくわからない。ただビースさんは何でもできる人で、旅をしながら無償で人助け、町助けをしていて有名なんだよ。
それこそ雑草狩りから怪我人や病人の治療、この街の用水路や井戸、それに外壁もやってもらったな。本当にあの人には頭が上がらないよ。エヌの人たちはみんな何かしら力になってもらっていると思うよ』
店主が説明していると、そのビースさんがこちらに向かって歩いてきた。見た目は70代後半のお爺さんだが、サトルはその動きに隙がないことを見て驚いた。
『ビースさん、久しぶりだな。まずは一杯飲んでけよ』
『おぅおぅ久しぶりじゃな、ウェイク君よ』
『よく俺の名前なんか憶えているな』
『その髭は特徴的だからのう。みんな、今回は3日ほど滞在する予定じゃから、やってほしいことがあれば遠慮なくいってくれ』
『さすがビースさん、ありがとう!』
ビースさんを目当てに他の店からも人が押し寄せて店は大騒ぎだ。
するとビースさんはサトルたちの存在に気付き、4人の席までやってきた。
『おや、おぬしらはニホンジンじゃな。どうじゃこの星は?』
ビースさんはにっこり笑いながら4人に話しかけた。その雰囲気は好々爺という感じですでに3人は気を許しているが、サトルだけは警戒心を解かない。
「まだそんな時間もたっていないですし、よくわからないんですよ。でもいい人ばかりですし、食事も美味しく、自然も綺麗。ただ娘に会いたくて…」
エリは素直に自分の感想と思いを説明する。
『ほうほう、なるほど、なるほど。今はニホンに残してきた娘さんが気になるということかな』
「こちらから手紙を送ることもできないので、大丈夫なのかなと…」
『よかろう。では一つ占ってみようかのぅ』
「占いですか…」
『おっ、ビースさんの占いか。羨ましいな。当たるって有名だから、ぜひ受けといたほうがいいぞ』
ビースさんにお酒を持ってきた店主が、その占いについて太鼓判を押す。
「じゃぁお願いしようかしら」
『よかろう。では目を閉じて、娘さんの顔を思い出してごらん。
そうじゃ、そうじゃ。では占うぞ』
ビースさんがエリに手をかざすと暖かい光が溢れ出す。すると光の中から妖精のような少女が現れた。手のひらに乗るサイズだ。
「ビースさん、その子は?」
『彼女は妖精カレン。人の記憶を紡ぎ、想いを繋げ、運命を導き出すものじゃ。
どうじゃカレン。この女性の運命は』
“エリさん。こんにちは。私は人の運命を導く妖精カレン”
“あなたが心配する娘さんは元気に駆け回っているわ。でもあなたのことを忘れたことは一日もないわよ。そしてあなたが戻るまで、何かひとつできるようになると頑張っているわ。心配しなくても大丈夫。娘さんは大きな力に守られているわ。今のあなたは娘さんのために何もできないけれど、その想いは伝わっているし、あなたも大きく成長した姿を見せてあげて。それで大丈夫だから”
妖精のカレンはやさしくエリに語り掛けると、最後に微笑んで消えていった。
するとエリは涙を流して「ありがとう」と呟いた。
『占いの結果は良かったようじゃの。エリさんとやら、何か娘さんに伝えたいことがあるんじゃないかな』
「そうです。ただ伝える方法がなくて…」
『では、こんなものはどうかな。これは夢の鏡といってな、この鏡に向けて心を込めて語りかけると、相手の夢の中で伝わるという道具じゃ。物の試しにやってみるかの?』
エリは喜び、ビースさんが手にした夢の鏡に向かって娘のミナへ話しかけた。そのメッセージが本当に届くかはわからないが、エリの中でひとつ靄が晴れたような気がしたのだろう。清々しい表情に戻っている。
『よかよか、必ずや娘さんに伝わるじゃろう。さて、おぬしらにも悩みがあれば聞いてやるが、何かあるかの?』
「自分はサトルといいます。最近この星で身に着けたスキルについて教えてほしいのですが」
『サトル? サトル…』
ビースさんは何か考えているようだが、次の言葉にサトルは衝撃を受ける。
『お主、サクラという女性は知っているかの?』
「サクラ?なんでその名前を知っているんですか?」
サトルの口から知らない女性の名前が出たことにエリとワカナは色めき立つが、少なからず動揺を隠せないでいる。
『以前会った4人組にいた魔法使いが、たしかサクラという女性だったのじゃが、その娘はサトルという男性を探していると言っていたのじゃ…』
「20階層のクリアと微妙な空気」へつづく
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる