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第二章:明らかになっていく真実

第32話 リビレジェ・ビース

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 店がビースという人物で騒ぎになっているが、サトルたちはその人物が何者かわからない。

 するとこの店の店主らしき人が話しかけてきた。

『あんたらニホンジンだろ?さっきの話を聞いたよ』

「あぁそうだ。日本人を知っているのか?」

『まぁな。これまで何人も見てきたし、みんな俺の料理を食って喜んでくれたからな。それに、いろいろ教えてもらったのもあるぜ。

例えばじゃんけんってやつ。

これは便利だよな。手っ取り早く物事を決めるのに分かりやすい』

「へぇ、じゃんけんも広まっているのね」

 エリはじゃんけんがエヌにも伝わっていることを意外に感じたが、日本の文化が広まっていることに誇らしいようだ。

「そうそう、みんなが騒いでいるビースって何者だ?」

『ビースさんはリビレジェのビースさんだ。リビレジェは生きる伝説って意味らしいが、よくわからない。ただビースさんは何でもできる人で、旅をしながら無償で人助け、町助けをしていて有名なんだよ。

それこそ雑草狩りから怪我人や病人の治療、この街の用水路や井戸、それに外壁もやってもらったな。本当にあの人には頭が上がらないよ。エヌの人たちはみんな何かしら力になってもらっていると思うよ』

 店主が説明していると、そのビースさんがこちらに向かって歩いてきた。見た目は70代後半のお爺さんだが、サトルはその動きに隙がないことを見て驚いた。


『ビースさん、久しぶりだな。まずは一杯飲んでけよ』

『おぅおぅ久しぶりじゃな、ウェイク君よ』

『よく俺の名前なんか憶えているな』

『その髭は特徴的だからのう。みんな、今回は3日ほど滞在する予定じゃから、やってほしいことがあれば遠慮なくいってくれ』

『さすがビースさん、ありがとう!』

 ビースさんを目当てに他の店からも人が押し寄せて店は大騒ぎだ。

 するとビースさんはサトルたちの存在に気付き、4人の席までやってきた。

『おや、おぬしらはニホンジンじゃな。どうじゃこの星は?』

 ビースさんはにっこり笑いながら4人に話しかけた。その雰囲気は好々爺という感じですでに3人は気を許しているが、サトルだけは警戒心を解かない。

「まだそんな時間もたっていないですし、よくわからないんですよ。でもいい人ばかりですし、食事も美味しく、自然も綺麗。ただ娘に会いたくて…」

 エリは素直に自分の感想と思いを説明する。

『ほうほう、なるほど、なるほど。今はニホンに残してきた娘さんが気になるということかな』

「こちらから手紙を送ることもできないので、大丈夫なのかなと…」

『よかろう。では一つ占ってみようかのぅ』

「占いですか…」

『おっ、ビースさんの占いか。羨ましいな。当たるって有名だから、ぜひ受けといたほうがいいぞ』

 ビースさんにお酒を持ってきた店主が、その占いについて太鼓判を押す。

「じゃぁお願いしようかしら」

『よかろう。では目を閉じて、娘さんの顔を思い出してごらん。

そうじゃ、そうじゃ。では占うぞ』

 ビースさんがエリに手をかざすと暖かい光が溢れ出す。すると光の中から妖精のような少女が現れた。手のひらに乗るサイズだ。

「ビースさん、その子は?」

『彼女は妖精カレン。人の記憶を紡ぎ、想いを繋げ、運命を導き出すものじゃ。

どうじゃカレン。この女性の運命は』


“エリさん。こんにちは。私は人の運命を導く妖精カレン”

“あなたが心配する娘さんは元気に駆け回っているわ。でもあなたのことを忘れたことは一日もないわよ。そしてあなたが戻るまで、何かひとつできるようになると頑張っているわ。心配しなくても大丈夫。娘さんは大きな力に守られているわ。今のあなたは娘さんのために何もできないけれど、その想いは伝わっているし、あなたも大きく成長した姿を見せてあげて。それで大丈夫だから”

 妖精のカレンはやさしくエリに語り掛けると、最後に微笑んで消えていった。

 するとエリは涙を流して「ありがとう」と呟いた。

『占いの結果は良かったようじゃの。エリさんとやら、何か娘さんに伝えたいことがあるんじゃないかな』

「そうです。ただ伝える方法がなくて…」

『では、こんなものはどうかな。これは夢の鏡といってな、この鏡に向けて心を込めて語りかけると、相手の夢の中で伝わるという道具じゃ。物の試しにやってみるかの?』

 エリは喜び、ビースさんが手にした夢の鏡に向かって娘のミナへ話しかけた。そのメッセージが本当に届くかはわからないが、エリの中でひとつ靄が晴れたような気がしたのだろう。清々しい表情に戻っている。


『よかよか、必ずや娘さんに伝わるじゃろう。さて、おぬしらにも悩みがあれば聞いてやるが、何かあるかの?』


「自分はサトルといいます。最近この星で身に着けたスキルについて教えてほしいのですが」

『サトル? サトル…』

 ビースさんは何か考えているようだが、次の言葉にサトルは衝撃を受ける。

『お主、サクラという女性は知っているかの?』

「サクラ?なんでその名前を知っているんですか?」

 サトルの口から知らない女性の名前が出たことにエリとワカナは色めき立つが、少なからず動揺を隠せないでいる。

『以前会った4人組にいた魔法使いが、たしかサクラという女性だったのじゃが、その娘はサトルという男性を探していると言っていたのじゃ…』


「20階層のクリアと微妙な空気」へつづく
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