「初めての恋」

キジとら猫

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「初めての恋」

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 私の初めての恋は、中学一年の時だった。
それは突然始まった。ラブレターを貰ったその日から。
 
 僕はその日、ラブレターを貰った。
それまではその人のことを何も知らなかった。
その人と僕は、小学校も違うし学年も一つ上だったので、名前すら知らなかった。
 それなのに僕は、その人に恋をした。
ラブレターを貰ったその日から、その人のことを意識し始めた。
 なぜだろう?その人を意識したその日から、その人のことを好きになっていった。
 そのラブレターには返信用の手紙が入っていて、僕は数日後その手紙に、                 『僕も好きです。』と書いてその人に返していた。
 ただ、僕たちの手紙は直接手渡したものではなく、その人と同じ小学校の、僕のクラスメートの女の子を仲介してのやりとりだった。
 その後もその子経由で手紙のやりとりをした。
その人からの手紙はいつもいい香りがした。今でも鮮明に覚えている。
 
 休み時間に廊下からその人が僕を見ていた。
僕はそれに気づいていたけど、気づかないふりをして友達とふざけていた。
その人が僕を見ていてくれたことは嬉しかった。でも少し恥ずかしかった。
友達にバレたらいけないという気持ちもあった。(実はバレていたのだけど)
 
 その人は手紙で僕の好きな色を聞いてきた。僕はそれに手紙を返した。
するとその人は次の日、僕の好きな色のゴムで髪を束ねていた。嬉しかった。
 
 学校のマラソン大会があった。グラウンドに戻って来たとき、その人の姿が見えた。
僕は一位の人を追い抜いた。
その人は手紙で僕のことを褒めてくれた。嬉しかった。

 二年生の時、僕は修学旅行に行った。
そこで僕は、その人のためにネックレスを買った。もちろん安物だけど。
そのネックレスのハートの部分に、その人の名前を刻んで貰った。
後で考えると、そこには僕の名前を刻んで貰うべきだったんじゃないかと思った。少し後悔した。
 
 クリスマス、野球部の練習が終わった後、その人が体育館の裏で待っていた。
僕は緊張しながら歩いて行き、角を曲がるとその人が待っていた。
その人が差し出すプレゼントを受け取り、僕は戻ってきた。
その人に「ありがとう」も言えず、その人の顔も見ることもできずに。
僕も緊張していたけど、その人の緊張も伝わってきた。
 そして、二人っきりになったのも、その時のほんの短い時間だけだった。

 僕は風邪をひいて学校を休んだ。その日電話がかかってきた。
家にいるのは僕ひとり。僕は電話に出た。
受話器の向こうから聞こえてきたのはクラスメートの女の子の声だった。
そして、その人の声に変った。予想外のことでびっくりして、緊張して、何を話したか全く覚えていない。
 その人と話すのは、この時が初めてだった。最後でもあった。

 その人が卒業した。それと同時に僕たちの恋も終わった。

 その後その人と手紙のやりとりもしなくなった。
彼氏、彼女の関係にはなれなかった。だからこそ別れようと言える関係でもなかった。
 今思えば、言いたいことは山ほどある。
でも、あの頃の僕たちは精一杯だった。
あれが精一杯だった。
 「好きだ」なんて、面と向かって言えない、恥ずかしがりやで、臆病な、そんな二人だった。

 でも、私は今も覚えている。あの時の気持ちを、あの時の情景を、そして、
あなたを好きだったことを。
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