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第9話 夢
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目が覚めたら大学の食堂だった。
「あぇ? 寝てた?」
目を擦って周囲を見渡す。席に座って食べている人、お喋りしている人、知っている光景だ。ほっとした。だよね。もう一人の己が出てくるわけないもんね。
「あ~良かった良かった」
わたしは背を猫みたいに伸ばした。
「何が良かったの?」
綺麗な声の人に話しかけられて、背伸びしたまま答えた。
「えっとね。変な夢見たの。家帰ったらもう一人の自分が出迎えたの。おかしな夢だよね」
「へぇ。おかしな夢だね。それってもしかして、こんなふう?」
声と気配が近くなってきた。くるりと振り向いた。一体綺麗な声の主は誰なのだ。ひっ、と悲鳴が喉奥で押しつぶした。目の前にいるのは、自分だった。鏡合わせみたいに自分そっくりな姿。
わたしは悲鳴をあげれなかった。口を開けても声が出ない。
「ねぇもしかして、こんなふう?」
周りの人たちの姿も〝わたし〟になっていた。あり得ない。腰が抜けてヘナヘナと床に腰が落ちた。〝わたし〟が一歩一歩近づいてくる。
やだやだやだやだ、来ないで。
来るな来るな来るな。夢だ、これはきっと夢に違いない。お願い夢から覚めて。覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ。
「来るなぁ‼」
喉奥で潰された自分の声がやっと出た。ヒィヒィと呼吸する。過呼吸のようで気持ち悪い。そうだ。早く逃げないと。踵を返したとき、腕を掴まれて肩を竦んだ。恐る恐る振り向く。
「どうしたの。いきなり」
腕を掴んでいたのは佐江ちゃんだった。
まるでおかしな人を見るような眼差しで、唐突に自分の理解が追いつけなかった。それと、周りから向けられる奇異な眼差しも。講師の人もポカンとしていた。
「え?」
わたしはよく周囲を見渡してみた。講堂で授業している。わたしの机にあるノートには書き綴ったあとがある。隣にいる佐江ちゃんも同じ。つまり、授業中だということ。
かぁ、と火の手が体中に回った。すぐにすいません、と叫んで自分の椅子に腰掛けて丸まった。恥ずかしくて死にそう。穴があったら入りたいとは、まさにこのこと。
「怖い夢でもみたの?」
佐江ちゃんが顔を覗いてきた。
「うん」
そうかそうか、頭をポンポンと撫でてくれた。優しい手つきにほっとする。子供みたい。佐江ちゃんはきっと、将来いい奥さんになりそう。
なんだか気持ちよくなってきた。
「寝ないの。授業あんだから」
佐江ちゃんがお母さんのように叱ってきた。
「う~ん。まだ5分」
まるでベットから離れられない子供みたいな言い訳をしつつ、瞼が徐々に落ちていく。睡魔に勝てる人間などいない。徐々に落ちていく瞼はついに意識まで放たれた。
そして起きると食堂だった。
「あぇ? 寝てた?」
目を擦って周囲を見渡す。席に座って食べている人、お喋りしている人、知っている光景だ。ほっとした。だよね。もう一人の己が出てくるわけないもんね。
「あ~良かった良かった」
わたしは背を猫みたいに伸ばした。
「何が良かったの?」
綺麗な声の人に話しかけられて、背伸びしたまま答えた。
「えっとね。変な夢見たの。家帰ったらもう一人の自分が出迎えたの。おかしな夢だよね」
「へぇ。おかしな夢だね。それってもしかして、こんなふう?」
声と気配が近くなってきた。くるりと振り向いた。一体綺麗な声の主は誰なのだ。ひっ、と悲鳴が喉奥で押しつぶした。目の前にいるのは、自分だった。鏡合わせみたいに自分そっくりな姿。
わたしは悲鳴をあげれなかった。口を開けても声が出ない。
「ねぇもしかして、こんなふう?」
周りの人たちの姿も〝わたし〟になっていた。あり得ない。腰が抜けてヘナヘナと床に腰が落ちた。〝わたし〟が一歩一歩近づいてくる。
やだやだやだやだ、来ないで。
来るな来るな来るな。夢だ、これはきっと夢に違いない。お願い夢から覚めて。覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ。
「来るなぁ‼」
喉奥で潰された自分の声がやっと出た。ヒィヒィと呼吸する。過呼吸のようで気持ち悪い。そうだ。早く逃げないと。踵を返したとき、腕を掴まれて肩を竦んだ。恐る恐る振り向く。
「どうしたの。いきなり」
腕を掴んでいたのは佐江ちゃんだった。
まるでおかしな人を見るような眼差しで、唐突に自分の理解が追いつけなかった。それと、周りから向けられる奇異な眼差しも。講師の人もポカンとしていた。
「え?」
わたしはよく周囲を見渡してみた。講堂で授業している。わたしの机にあるノートには書き綴ったあとがある。隣にいる佐江ちゃんも同じ。つまり、授業中だということ。
かぁ、と火の手が体中に回った。すぐにすいません、と叫んで自分の椅子に腰掛けて丸まった。恥ずかしくて死にそう。穴があったら入りたいとは、まさにこのこと。
「怖い夢でもみたの?」
佐江ちゃんが顔を覗いてきた。
「うん」
そうかそうか、頭をポンポンと撫でてくれた。優しい手つきにほっとする。子供みたい。佐江ちゃんはきっと、将来いい奥さんになりそう。
なんだか気持ちよくなってきた。
「寝ないの。授業あんだから」
佐江ちゃんがお母さんのように叱ってきた。
「う~ん。まだ5分」
まるでベットから離れられない子供みたいな言い訳をしつつ、瞼が徐々に落ちていく。睡魔に勝てる人間などいない。徐々に落ちていく瞼はついに意識まで放たれた。
そして起きると食堂だった。
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