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第弐章 未来人
第8話 惚れる
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京之助さまがお待ちになっている上品な屋敷へと辿りついた。
「ヒビさんヒビさん」
また小耳にヨウが話しかけてきた。
「蓮姫の婚約相手って誰ですか?」
「うぅんと、爽やかイケメン?」
「ほほぅ」
わかったのか。まぁ、わかったのなら、それでいいや。いざ、扉を開けるとそこには京之助さま一人が畳部屋にいた。普通は従者とかつけるものがこの人の背後にはそれらしき人物の影がどこにもいない。
畳部屋の中、律儀に正座で腰掛けていた京之助さまは待ってましたと、閉じていた瞼を開けた。
「どわっ!!」
いきなり、ヨウが叫んだ。
高校受験者が張り出しを見て自分の番号が載っていることに驚いた、そんな声。薄い唇をわなわなとし、京之助さまをまじまじと見つめている。
「どうした?」
「し、知り合いに似てます」
そういうと、なぜか顔を赤らめた。ほんのりと頬が紅色に変わっている。まぁ、こんな状態のヨウは置いといて、蓮姫と京之助さまは畳部屋で二人っきりとなった。
鳥の囀りしか聞こえない部屋の中、京之助がさきに口を開く。
「この見合い、蓮姫からなかったことにしてくれませんか?」
藁にでも縋るような面持ちでそんなことを言った。あっけらかんと口を呆けていた蓮姫。京之助は話しを続ける。
「好きな人がいるんです。ずっと想い続けてて、だからこの見合いはなかったことにしてくれませんか!?」
「ちょうど良い」
ふんと鼻をならし、蓮姫は男っ気のように強い口調で唱えた。
「余もおぬしなんか、興味もないしタイプでもない。破談しようと思ってたのじゃ。父上にはよぉく余から言っておく!」
ふふと内心、水面に跳ねる魚のように喜んだ。しかし、ふいに思いつく。さっきから、なんだこの違和感……。まるで、相手から突きつけられた破談みたいな感じ。いいや、違う! 違うぞ!
京之助はそう言う蓮姫を天使のような存在で崇拝してきた。
「ありがとう御座います。本当に、蓮姫はとてもお優しい方なのですね」
「モチのろん!」
さも当たり前に応えると、京之助さまは帰っていった。蓮姫がどうやって殿様を説得したのか定かではないが、あんなに宴で快く迎えていた城の連中たちは帰る京之助さまを見てもなんの声もかけなかった。殿様もだ。
もしかして、ことの成り行きが自分にコロコロ転がってきたから、そのまま、人の感情までも左右させた。
のではないだろうな。そんな、恐ろしい力まで使いこなせる年齢ではない。
もしかして、力を使ったことさえも忘れている。
帰る京之助さまや付き人の連中どもは村に行列を作って城から離れる。高い塔の城から見れば、人が蟻のように小さい。
蓮姫は隣で、関心の面持ちでその行列を見下ろしていた。ふと、ときおり、妖怪じみた薄気味悪い笑みを頬につめている。
「良かったですね。婚約しなくって」
「余は自由の人生を歩む! 人と連れ添うなどまっぴらごめん」
自分から独身貴族を貫くような発言を言う。疑いが晴れたような清らかな笑顔をした。
蓮姫のさらに隣のヨウが呆然と口を呆けていた。まるで、風邪をひいた子どものように頬を赤面し、うっとりとした鈍い目つき。
「惚れたの?」
「惚れてません!」
そう言うわりには、行列の中の馬に乗っている京之助さまを見つめている。
「ヒビさんヒビさん」
また小耳にヨウが話しかけてきた。
「蓮姫の婚約相手って誰ですか?」
「うぅんと、爽やかイケメン?」
「ほほぅ」
わかったのか。まぁ、わかったのなら、それでいいや。いざ、扉を開けるとそこには京之助さま一人が畳部屋にいた。普通は従者とかつけるものがこの人の背後にはそれらしき人物の影がどこにもいない。
畳部屋の中、律儀に正座で腰掛けていた京之助さまは待ってましたと、閉じていた瞼を開けた。
「どわっ!!」
いきなり、ヨウが叫んだ。
高校受験者が張り出しを見て自分の番号が載っていることに驚いた、そんな声。薄い唇をわなわなとし、京之助さまをまじまじと見つめている。
「どうした?」
「し、知り合いに似てます」
そういうと、なぜか顔を赤らめた。ほんのりと頬が紅色に変わっている。まぁ、こんな状態のヨウは置いといて、蓮姫と京之助さまは畳部屋で二人っきりとなった。
鳥の囀りしか聞こえない部屋の中、京之助がさきに口を開く。
「この見合い、蓮姫からなかったことにしてくれませんか?」
藁にでも縋るような面持ちでそんなことを言った。あっけらかんと口を呆けていた蓮姫。京之助は話しを続ける。
「好きな人がいるんです。ずっと想い続けてて、だからこの見合いはなかったことにしてくれませんか!?」
「ちょうど良い」
ふんと鼻をならし、蓮姫は男っ気のように強い口調で唱えた。
「余もおぬしなんか、興味もないしタイプでもない。破談しようと思ってたのじゃ。父上にはよぉく余から言っておく!」
ふふと内心、水面に跳ねる魚のように喜んだ。しかし、ふいに思いつく。さっきから、なんだこの違和感……。まるで、相手から突きつけられた破談みたいな感じ。いいや、違う! 違うぞ!
京之助はそう言う蓮姫を天使のような存在で崇拝してきた。
「ありがとう御座います。本当に、蓮姫はとてもお優しい方なのですね」
「モチのろん!」
さも当たり前に応えると、京之助さまは帰っていった。蓮姫がどうやって殿様を説得したのか定かではないが、あんなに宴で快く迎えていた城の連中たちは帰る京之助さまを見てもなんの声もかけなかった。殿様もだ。
もしかして、ことの成り行きが自分にコロコロ転がってきたから、そのまま、人の感情までも左右させた。
のではないだろうな。そんな、恐ろしい力まで使いこなせる年齢ではない。
もしかして、力を使ったことさえも忘れている。
帰る京之助さまや付き人の連中どもは村に行列を作って城から離れる。高い塔の城から見れば、人が蟻のように小さい。
蓮姫は隣で、関心の面持ちでその行列を見下ろしていた。ふと、ときおり、妖怪じみた薄気味悪い笑みを頬につめている。
「良かったですね。婚約しなくって」
「余は自由の人生を歩む! 人と連れ添うなどまっぴらごめん」
自分から独身貴族を貫くような発言を言う。疑いが晴れたような清らかな笑顔をした。
蓮姫のさらに隣のヨウが呆然と口を呆けていた。まるで、風邪をひいた子どものように頬を赤面し、うっとりとした鈍い目つき。
「惚れたの?」
「惚れてません!」
そう言うわりには、行列の中の馬に乗っている京之助さまを見つめている。
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