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第参章 強く咲き誇る蓮の花
第9話 洪水
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朝からどんよりとした雲が大空に広がっていた。焼却炉からでた煙のようにモクモクと黒い雲。見合い話しの次は大嵐の予感。一難去ってまた一難。
「蓮姫、外は危ないですよ。大人しくヨウと遊びましょう」
村を一望できる台によじ登っていた蓮姫にそう言ったのはヨウ。蓮姫は振り向き、ぴょんと台から降りるとヨウの横をササッと通り過ぎる。
「鬼ごっこ! ここまでおいでっ!」
「ふふ、逃しませんよ」
長い廊下を二人は滑りながら、追いかけっこをする。着物から白い太腿を露にしながら、バタバタと走り回る蓮姫。
そんな時、ピカッと空が光った。白銀の雷が黒い雲を刺激し、威嚇のように低い唸り音をあげている。
白銀の雷がピカピカと光り、黒い雲に稲妻が駆けめぐってく。
「びっくりしましたねぇ」
ヨウが中腰になって、空を見上げた。
「今の堕ちたな」
そばにいたヒビも蟻を観察するように空を見上げた。すると、大股で走り回ってこの世の闇を知らない無垢な蓮姫がガタガタと震えていた。
胎児のように背を丸くし、膝を抱えてしゃがみこんでいる。小さな肩が小刻みに震えていた。
「蓮姫? 大丈夫すよ。この城には堕ちないし」
そう言うと、不安そうな顔をあげた。金魚をすくおうと神経を張り巡らせているような警戒した面持ちで恐る恐る顔をあげる。
「だめじゃ、外にいたらヘソを取られる!」
そう言って、バタバタと駆け足で自分の部屋へと戻っていった。
廊下に残ったヒビとヨウは顔を見合わせる。
子どもがいきなりヨチヨチ歩きをしたのを目撃し、驚くように互いに顔を見合わせる。
その後、嵐のような強風と地面を強くうちつける大雨がこの村を襲った。
ガタガタと厚い木の窓が今にでも壊れそうなほど耐えている。
この嵐、ずっと蓮姫は膝を抱え、ヨウにしがみついていた。まるで、怖い夢を見た子がそのまま眠れなくなり親に縋るような光景だ。
「廊下、渡れそうですか?」
小声でヨウが訪ねてくる。どうやら、昼のご飯の支度をしないといけないらしい。しっかりと上女中の仕事を果たしているな。
しかし、蓮姫の部屋から料理家へと行くには廊下を通り過ぎて、一つの敷地から外れた所にあるので、この嵐の中、難しいだろう。
因みに、空が曇っているので曖昧だか今は昼時だ。
「難しいな。ま、一日食わなくても死にはせん」
「死にます」
そんな会話していると、こんな大嵐の中廊下を駆け回っている足音が聞こえた。ドタドタと急いでどこかに向かってく。なにかを叫んでいる。
けど、雨の音と風の音がやけに耳にしているので人の声は、そよ風のようにふっとんでいく。
ヒビは重心を傾け、ガタガタと揺れる分厚い木の窓に耳をあてる。すると、それまで金切りにしか聞こえなかった人の声が確かに耳に聞こえた。
「川の水が! 村に押し寄せてきたぞぉぉ!」
蓮姫の部屋を通り過ぎるとその声は確かなものとなり、事の状況が即座に分かった。
こんな大嵐の中だ。川の水嵩は堤防を越えるほど増し、ついには氾濫し、村に押し寄せてきたのだろう。
ヨウが顔も唇も青ざめ、震えたように言う。
「川の水が――!? 洪水ですか!?」
その声に驚き、蓮姫が起きた。
「こうずい……? なんじゃそれ」
パチリと闇を知らなさそうな澄み切った黒い瞳が瞬きをした。応えたのはヒビ。
「村に川の水が押し寄せてるてことっす」
そう言うと、幽霊にでも会ったように瞳孔を開き、目の中の深い光りがギラリとなった。
「村に……?」
思いっきったように腰を浮かせ、ピンクの花柄の着物を脱いだ。慌てて、ヨウは両手でヒビの目を伏せるがヒビはその手を振り払う。
「村にはカキおばさんやあの赤子を抱いた母子もいる。余が守らねば……」
「お供します」
蓮姫が分厚い木の窓を襖のように開ける。
小柄で華奢な腕をもつ蓮姫でも簡単にこじ開けられる扉。開いた窓からは目も開けられぬ強風と痛い大粒の雨が室内に入ってきた。
蓮姫の数少ない小道具が風によって円をかき、外に飛び出していった。
窓の外の景色はまさに、夜と思える真っ暗闇。太陽の光り一筋許さないように厚い雲が空を覆っている。
そして、今、村が洪水に遭っているというのを蓮姫の目が確かに捉えた。
辺り山に囲まれた喉かな村に、轟々とドス黒い水が民家や人を飲みこんでいる。
「…――」
蓮姫の息を飲んだ息遣いが聞こえた。
暫くそうしていると、胸の前に手を合わせた。星に向かってお願いこどを言うような。
「…――!」
呪文のような怪しい言葉を言ったと思う。豪雨のせいで何を言ったのか分からなかった。機械が無造作に動いたような金切り音。
初めて聞く蓮姫の口から唱えた呪文のようなもの。もっと耳をすませば良かった。
すると、強くうちつけていた雨が小雨になり、黒い雲からひとひらと雪のように花が舞い降りた。その花は蓮の花。
白い花びらに先ちょが薄いピンク色した蓮だ。
「すごい……!」
ヨウは関心に降りしきる花を窓から覗いている。ひらひらと風にのって村中に花が落ちた。
いつの間にか、村に洪水していた水はピタリと止み、住居の屋根まで飲み込んでいる。
よく見ると徐々に水嵩が減っていく。ごく自然と、もといた場所に水が帰っていく。
ドス黒い溝だったのが、本来の土や畑、住居など姿を現す。
三十分もしないうちに村に押し寄せた水がなくなった。こんな現象は見たことない。
はっきり言って蓮姫のしわざだ。蓮姫しかいない。
「蓮姫、お疲れ様です」
そう言うと、フラリと貧血を起こしたように倒れかかってきた。慌てて、抱き寄せる。ヨウもすかさず駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!? 蓮姫っ!」
ヒビとヨウは倒れた蓮姫の顔を覗くと、蓮姫はいい夢を見ているように心地よさそうに眠っていた。
スヤァといびきまでかいている。二人揃って安堵する。
「蓮姫、外は危ないですよ。大人しくヨウと遊びましょう」
村を一望できる台によじ登っていた蓮姫にそう言ったのはヨウ。蓮姫は振り向き、ぴょんと台から降りるとヨウの横をササッと通り過ぎる。
「鬼ごっこ! ここまでおいでっ!」
「ふふ、逃しませんよ」
長い廊下を二人は滑りながら、追いかけっこをする。着物から白い太腿を露にしながら、バタバタと走り回る蓮姫。
そんな時、ピカッと空が光った。白銀の雷が黒い雲を刺激し、威嚇のように低い唸り音をあげている。
白銀の雷がピカピカと光り、黒い雲に稲妻が駆けめぐってく。
「びっくりしましたねぇ」
ヨウが中腰になって、空を見上げた。
「今の堕ちたな」
そばにいたヒビも蟻を観察するように空を見上げた。すると、大股で走り回ってこの世の闇を知らない無垢な蓮姫がガタガタと震えていた。
胎児のように背を丸くし、膝を抱えてしゃがみこんでいる。小さな肩が小刻みに震えていた。
「蓮姫? 大丈夫すよ。この城には堕ちないし」
そう言うと、不安そうな顔をあげた。金魚をすくおうと神経を張り巡らせているような警戒した面持ちで恐る恐る顔をあげる。
「だめじゃ、外にいたらヘソを取られる!」
そう言って、バタバタと駆け足で自分の部屋へと戻っていった。
廊下に残ったヒビとヨウは顔を見合わせる。
子どもがいきなりヨチヨチ歩きをしたのを目撃し、驚くように互いに顔を見合わせる。
その後、嵐のような強風と地面を強くうちつける大雨がこの村を襲った。
ガタガタと厚い木の窓が今にでも壊れそうなほど耐えている。
この嵐、ずっと蓮姫は膝を抱え、ヨウにしがみついていた。まるで、怖い夢を見た子がそのまま眠れなくなり親に縋るような光景だ。
「廊下、渡れそうですか?」
小声でヨウが訪ねてくる。どうやら、昼のご飯の支度をしないといけないらしい。しっかりと上女中の仕事を果たしているな。
しかし、蓮姫の部屋から料理家へと行くには廊下を通り過ぎて、一つの敷地から外れた所にあるので、この嵐の中、難しいだろう。
因みに、空が曇っているので曖昧だか今は昼時だ。
「難しいな。ま、一日食わなくても死にはせん」
「死にます」
そんな会話していると、こんな大嵐の中廊下を駆け回っている足音が聞こえた。ドタドタと急いでどこかに向かってく。なにかを叫んでいる。
けど、雨の音と風の音がやけに耳にしているので人の声は、そよ風のようにふっとんでいく。
ヒビは重心を傾け、ガタガタと揺れる分厚い木の窓に耳をあてる。すると、それまで金切りにしか聞こえなかった人の声が確かに耳に聞こえた。
「川の水が! 村に押し寄せてきたぞぉぉ!」
蓮姫の部屋を通り過ぎるとその声は確かなものとなり、事の状況が即座に分かった。
こんな大嵐の中だ。川の水嵩は堤防を越えるほど増し、ついには氾濫し、村に押し寄せてきたのだろう。
ヨウが顔も唇も青ざめ、震えたように言う。
「川の水が――!? 洪水ですか!?」
その声に驚き、蓮姫が起きた。
「こうずい……? なんじゃそれ」
パチリと闇を知らなさそうな澄み切った黒い瞳が瞬きをした。応えたのはヒビ。
「村に川の水が押し寄せてるてことっす」
そう言うと、幽霊にでも会ったように瞳孔を開き、目の中の深い光りがギラリとなった。
「村に……?」
思いっきったように腰を浮かせ、ピンクの花柄の着物を脱いだ。慌てて、ヨウは両手でヒビの目を伏せるがヒビはその手を振り払う。
「村にはカキおばさんやあの赤子を抱いた母子もいる。余が守らねば……」
「お供します」
蓮姫が分厚い木の窓を襖のように開ける。
小柄で華奢な腕をもつ蓮姫でも簡単にこじ開けられる扉。開いた窓からは目も開けられぬ強風と痛い大粒の雨が室内に入ってきた。
蓮姫の数少ない小道具が風によって円をかき、外に飛び出していった。
窓の外の景色はまさに、夜と思える真っ暗闇。太陽の光り一筋許さないように厚い雲が空を覆っている。
そして、今、村が洪水に遭っているというのを蓮姫の目が確かに捉えた。
辺り山に囲まれた喉かな村に、轟々とドス黒い水が民家や人を飲みこんでいる。
「…――」
蓮姫の息を飲んだ息遣いが聞こえた。
暫くそうしていると、胸の前に手を合わせた。星に向かってお願いこどを言うような。
「…――!」
呪文のような怪しい言葉を言ったと思う。豪雨のせいで何を言ったのか分からなかった。機械が無造作に動いたような金切り音。
初めて聞く蓮姫の口から唱えた呪文のようなもの。もっと耳をすませば良かった。
すると、強くうちつけていた雨が小雨になり、黒い雲からひとひらと雪のように花が舞い降りた。その花は蓮の花。
白い花びらに先ちょが薄いピンク色した蓮だ。
「すごい……!」
ヨウは関心に降りしきる花を窓から覗いている。ひらひらと風にのって村中に花が落ちた。
いつの間にか、村に洪水していた水はピタリと止み、住居の屋根まで飲み込んでいる。
よく見ると徐々に水嵩が減っていく。ごく自然と、もといた場所に水が帰っていく。
ドス黒い溝だったのが、本来の土や畑、住居など姿を現す。
三十分もしないうちに村に押し寄せた水がなくなった。こんな現象は見たことない。
はっきり言って蓮姫のしわざだ。蓮姫しかいない。
「蓮姫、お疲れ様です」
そう言うと、フラリと貧血を起こしたように倒れかかってきた。慌てて、抱き寄せる。ヨウもすかさず駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!? 蓮姫っ!」
ヒビとヨウは倒れた蓮姫の顔を覗くと、蓮姫はいい夢を見ているように心地よさそうに眠っていた。
スヤァといびきまでかいている。二人揃って安堵する。
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