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第参章 強く咲き誇る蓮の花
第10話 〈終〉花
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それから、蓮姫は丸二日眠っていた。こちょこちょしてもピクリとも反応をしめさない。
深い布団の中で心地よい寝息をたてている。
蓮姫が眠っている間、村は洪水によって襲われた場所をなんとか、工面して住居を建てている。
村中の畑の作物は全滅。二日を過ぎた昼間、何かに気づいたように蓮姫が眠りから覚めた。
莫大な力を使ったぶん、やはり、体力が落ちている。立ち上がるにもヒビたちが支えねばならない。
「村はどうなったのじゃ?」
いつも高温で鈍った甘い声色ではない。死ぬ前に囁く掠れた声だ。本当に膨大な力を使ったらしい。
支える体重も空っぽの箱を持っているように軽い。もともと、細腕なのがさらに細くみえた。
「蓮姫、まさかそんな状態で村に行きませんよね?」
ヨウが病人を見るような眼差しで蓮姫の顔を覗く。すると、起きたばかりの蓮姫の瞳孔が恐ろしいものでも見たように大きく開いた。
「当たり前じゃ! 余の村が危機だって言うのに、余が行かなければ話しが合わない!」
一度決めたことは絶対にネジ曲がらない。蓮姫の熱い思いは二人に届いた。
§
蓮姫が実際に城をでるのは、蒸し暑い夏の強盗事件以来だ。
土はまだ水が乾いていないので、粘膜のようなねっちょりとした泥が草履につく。
「あの山はなんじゃ?」
蓮姫が洪水で死んでいった村人たちの死体の山を指差した。
蓮姫の目にはゴミの山にみえたのだろう。実際、遠くからみるとそんなふうに見える。けど、実際は違う。埋葬する為に今穴を掘ってあるんだ。そのために近くに死体を置いている。
ヨウもヒビをどう言っていいのか分からずたじろいでいると、後ろからカキおばさんが声をかけてきた。
「あれはな、土に帰る為みな待っておるんじゃ」
「カキ! 生きておったのか!」
「ほほっ、勝手に殺すではない」
カキおばさんは元は城に仕える上女中の一人であった。しかも、幼少の蓮姫のお側を仕える存在。今でいうヨウのポジションだ。
蓮姫はカキおばさんをひと目みて、今さっきの大人しい物静かで理想的だった影がふっとんだ。
カキおばさんにヒシと抱きつく。
カキおばさんはフフと孫を撫でるように蓮姫の背中をさすった。
「蓮姫、お力を使いご苦労様でした」
「うん! 頑張った!」
真珠のように目を輝かせ真っ青の空のように澄み切った笑顔を見せる。
すると、ゴミのようなものの正体を知り、悲しい面持ちをした。
「余がはやく決断していたら。あんなには……」
「姫さまが悔やむことはない。ほれ、見てみ。姫さま助けた母子もいる」
人差し指で指差す。確かに、そこには母子が太陽の光を浴びて元気に歩いている。
その姿に蓮姫の目が水を浴びたようにキラリと光った。
あまり、城の外に出ると面倒なことになるのでここいらで城に帰る三人。空の色が嵐さえ消してくれる真っ青。
西から吹く風が気持ちいい。絶望を打ち砕いた清らかな風。
三人はその風に酔いしれていた。ふと、蓮姫が立ち止まり村のほうを振り向く。
「親愛なる者の死は絶望を招く。しかし、それでも人は人を愛する事をやめられない」
ボソリと掠れて言う。
その言葉は未来人、二人は知っている。五〇〇年も生きた名のある姫の有名な言葉。
その言葉を発言し、ヒビとヨウは驚く。蓮姫は決心したような強い眼差しを二人に向かった。
「生きる意味、なんとなく分かったきがした。余はこの村を絶対に守る。もう、誰も死なせないために。この命が朽ち果てるまで!」
蓮姫の声がどこまでもこだました。それに賛同するようにヨウとヒビが口を開いた。
「どこまでもお供します! 蓮姫っ!」
「俺もです」
そう言うと、太陽のような笑顔を向けてきた。
―完―
深い布団の中で心地よい寝息をたてている。
蓮姫が眠っている間、村は洪水によって襲われた場所をなんとか、工面して住居を建てている。
村中の畑の作物は全滅。二日を過ぎた昼間、何かに気づいたように蓮姫が眠りから覚めた。
莫大な力を使ったぶん、やはり、体力が落ちている。立ち上がるにもヒビたちが支えねばならない。
「村はどうなったのじゃ?」
いつも高温で鈍った甘い声色ではない。死ぬ前に囁く掠れた声だ。本当に膨大な力を使ったらしい。
支える体重も空っぽの箱を持っているように軽い。もともと、細腕なのがさらに細くみえた。
「蓮姫、まさかそんな状態で村に行きませんよね?」
ヨウが病人を見るような眼差しで蓮姫の顔を覗く。すると、起きたばかりの蓮姫の瞳孔が恐ろしいものでも見たように大きく開いた。
「当たり前じゃ! 余の村が危機だって言うのに、余が行かなければ話しが合わない!」
一度決めたことは絶対にネジ曲がらない。蓮姫の熱い思いは二人に届いた。
§
蓮姫が実際に城をでるのは、蒸し暑い夏の強盗事件以来だ。
土はまだ水が乾いていないので、粘膜のようなねっちょりとした泥が草履につく。
「あの山はなんじゃ?」
蓮姫が洪水で死んでいった村人たちの死体の山を指差した。
蓮姫の目にはゴミの山にみえたのだろう。実際、遠くからみるとそんなふうに見える。けど、実際は違う。埋葬する為に今穴を掘ってあるんだ。そのために近くに死体を置いている。
ヨウもヒビをどう言っていいのか分からずたじろいでいると、後ろからカキおばさんが声をかけてきた。
「あれはな、土に帰る為みな待っておるんじゃ」
「カキ! 生きておったのか!」
「ほほっ、勝手に殺すではない」
カキおばさんは元は城に仕える上女中の一人であった。しかも、幼少の蓮姫のお側を仕える存在。今でいうヨウのポジションだ。
蓮姫はカキおばさんをひと目みて、今さっきの大人しい物静かで理想的だった影がふっとんだ。
カキおばさんにヒシと抱きつく。
カキおばさんはフフと孫を撫でるように蓮姫の背中をさすった。
「蓮姫、お力を使いご苦労様でした」
「うん! 頑張った!」
真珠のように目を輝かせ真っ青の空のように澄み切った笑顔を見せる。
すると、ゴミのようなものの正体を知り、悲しい面持ちをした。
「余がはやく決断していたら。あんなには……」
「姫さまが悔やむことはない。ほれ、見てみ。姫さま助けた母子もいる」
人差し指で指差す。確かに、そこには母子が太陽の光を浴びて元気に歩いている。
その姿に蓮姫の目が水を浴びたようにキラリと光った。
あまり、城の外に出ると面倒なことになるのでここいらで城に帰る三人。空の色が嵐さえ消してくれる真っ青。
西から吹く風が気持ちいい。絶望を打ち砕いた清らかな風。
三人はその風に酔いしれていた。ふと、蓮姫が立ち止まり村のほうを振り向く。
「親愛なる者の死は絶望を招く。しかし、それでも人は人を愛する事をやめられない」
ボソリと掠れて言う。
その言葉は未来人、二人は知っている。五〇〇年も生きた名のある姫の有名な言葉。
その言葉を発言し、ヒビとヨウは驚く。蓮姫は決心したような強い眼差しを二人に向かった。
「生きる意味、なんとなく分かったきがした。余はこの村を絶対に守る。もう、誰も死なせないために。この命が朽ち果てるまで!」
蓮姫の声がどこまでもこだました。それに賛同するようにヨウとヒビが口を開いた。
「どこまでもお供します! 蓮姫っ!」
「俺もです」
そう言うと、太陽のような笑顔を向けてきた。
―完―
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