4 / 10
第壱章 日常
第4話 念
しおりを挟む
あと一歩の所で足を止めた二人は恐る恐る後ろを振り向いた。
少し離れた場所に美しい着物に身を纏った女がいた。蓮姫だ。しかし、二人はこの村の姫だという事は知らない。
細く滑らかな黒髪がさらりと肩から落ちた。女官たちに折角、してもらえた着物は今や、砂埃で茶色く淀んでいる。
「返しなさい」
子どもを指さし、強い口調で命令した。
透き通った肌にある二つのまん丸な瞳は、まるで、悪者を叩き潰すかのよう黒く見据えている。
「はっ」
親分が鼻で笑った。
木から落ちた猿を見る軽蔑した目で蓮姫の顔を覗く。盗んだ赤子をこれみよがしに、蓮姫に見せた。赤子の目袋は涙でパンパンになり、膨らんでいた。
「返してほしけりゃ、どうすんだ?」
からかうよう薄笑いで親分が言う。
蓮姫ははちきれそうになった頭の糸が途端にプツンと切れ、拍子に力が込上がってきた。
「この村で好き勝手はさせない……!」
ぶうぅんと大きな機械が作動した音がする。すると、地に落ちた竹やぶがなにかの拍子で空中に浮いた。
「うわぁ! なんだぁ! こりゃぁ」
「ひぃ!」
この世の力でもないものを見て、盗人たちは腰を抜かした。
口を半開きになり、化物を見た恐ろしい血相で宙に浮く竹やぶを見る。
宙に浮いた竹やぶは一本一本盗人たちの脇下や足下を狙って刺さってきた。
腰を抜かした親分の腕の中に抱えられた、小さな赤子もふわりと宙に浮き、離れた場所にいた蓮姫のほうにふわふわと移動する。
蓮姫の目の前につくと、途端に力がなくなったように、赤子がプツンと落ち、蓮姫の胸の中に抱えられた。
その間、竹やぶは何本もの、盗人たちを攻撃した。
チクリと肌に触れるだけで、致命傷に届かない懐を狙って刺してくる。
最後の一本が親分の顔を狙って鋭い角を向けてきた。
「ひぃ!」
小さな悲鳴をあげ、顔を伏せた。
その直後、竹やぶがカランと空き缶の乾いたような音を出し、数メートル飛ばされた。
竹やぶを木刀で飛ばしたのはなんと、ヒビだ。
「ご無事すっか?」
ヒビが顔を覗かせ、訊ねた。親分と子分は今でも悪夢を見てきたかのような青白い顔している。
「ヒビ! なんの真似だ!」
そう叫んだのは蓮姫。美しい顔立ちが今や、鬼の血相になっている。
「蓮姫、ここでとめなければ危なかたですよ」
「その二人なんて、どうでもいい! この村で余の前で罪を犯したのだから、当然の報いであろう!!」
薔薇の棘のよう、鋭い目つきで盗人たちを見下す。
ヒビから冷たく憐れみの視線が蓮姫にあたる。
「さっきの……人を殺めても当然だと?」
みるみるうちに蓮姫の表情が曇天の雲のように曇った。黒い瞳が水をかけたように潤い、怯んだ目つきに変わった。
「あれ? 余は……違う……そんなんじゃ」
混乱したように曇った声でズルズルと腰を落とした。冷蔵庫にあたった蒼白の顔し、次第に涙ぐんだ。
その場所にヒビはゆっくりと歩み寄り、頬に手を添える。
「大丈夫。蓮姫のやったことは正義であって誰も責める人なんていないっす」
いつもより、優しい眼差しと優しい口調でそう言うと、蓮姫は心落ち着いたのか、フッと瞼が落ち、スヤスヤと眠りに入った。
胸に抱えた赤子も、蓮姫の温もりに当てられ、スヤスヤと眠っている。あれ程、怖い目にあったにも関わらず、優しい顔で眠っている。
「さて……」
深い眠りに入った蓮姫をおんぶし、持っていた布で赤子を包み、首にさげた。
今だに、腰を抜かした盗人たちに顔を向け、にこやかに言った。
「行きますよ。牢獄に」
城に帰った蓮姫は約四時間も昏睡したまま、赤子はもとの母親のもとにヒビが帰した。
盗人たちはというと、狭くって冷たい牢獄の中に永久入ることになる。
そう、蓮姫が生きている限りの判決という事。永久にも近しい。
少し離れた場所に美しい着物に身を纏った女がいた。蓮姫だ。しかし、二人はこの村の姫だという事は知らない。
細く滑らかな黒髪がさらりと肩から落ちた。女官たちに折角、してもらえた着物は今や、砂埃で茶色く淀んでいる。
「返しなさい」
子どもを指さし、強い口調で命令した。
透き通った肌にある二つのまん丸な瞳は、まるで、悪者を叩き潰すかのよう黒く見据えている。
「はっ」
親分が鼻で笑った。
木から落ちた猿を見る軽蔑した目で蓮姫の顔を覗く。盗んだ赤子をこれみよがしに、蓮姫に見せた。赤子の目袋は涙でパンパンになり、膨らんでいた。
「返してほしけりゃ、どうすんだ?」
からかうよう薄笑いで親分が言う。
蓮姫ははちきれそうになった頭の糸が途端にプツンと切れ、拍子に力が込上がってきた。
「この村で好き勝手はさせない……!」
ぶうぅんと大きな機械が作動した音がする。すると、地に落ちた竹やぶがなにかの拍子で空中に浮いた。
「うわぁ! なんだぁ! こりゃぁ」
「ひぃ!」
この世の力でもないものを見て、盗人たちは腰を抜かした。
口を半開きになり、化物を見た恐ろしい血相で宙に浮く竹やぶを見る。
宙に浮いた竹やぶは一本一本盗人たちの脇下や足下を狙って刺さってきた。
腰を抜かした親分の腕の中に抱えられた、小さな赤子もふわりと宙に浮き、離れた場所にいた蓮姫のほうにふわふわと移動する。
蓮姫の目の前につくと、途端に力がなくなったように、赤子がプツンと落ち、蓮姫の胸の中に抱えられた。
その間、竹やぶは何本もの、盗人たちを攻撃した。
チクリと肌に触れるだけで、致命傷に届かない懐を狙って刺してくる。
最後の一本が親分の顔を狙って鋭い角を向けてきた。
「ひぃ!」
小さな悲鳴をあげ、顔を伏せた。
その直後、竹やぶがカランと空き缶の乾いたような音を出し、数メートル飛ばされた。
竹やぶを木刀で飛ばしたのはなんと、ヒビだ。
「ご無事すっか?」
ヒビが顔を覗かせ、訊ねた。親分と子分は今でも悪夢を見てきたかのような青白い顔している。
「ヒビ! なんの真似だ!」
そう叫んだのは蓮姫。美しい顔立ちが今や、鬼の血相になっている。
「蓮姫、ここでとめなければ危なかたですよ」
「その二人なんて、どうでもいい! この村で余の前で罪を犯したのだから、当然の報いであろう!!」
薔薇の棘のよう、鋭い目つきで盗人たちを見下す。
ヒビから冷たく憐れみの視線が蓮姫にあたる。
「さっきの……人を殺めても当然だと?」
みるみるうちに蓮姫の表情が曇天の雲のように曇った。黒い瞳が水をかけたように潤い、怯んだ目つきに変わった。
「あれ? 余は……違う……そんなんじゃ」
混乱したように曇った声でズルズルと腰を落とした。冷蔵庫にあたった蒼白の顔し、次第に涙ぐんだ。
その場所にヒビはゆっくりと歩み寄り、頬に手を添える。
「大丈夫。蓮姫のやったことは正義であって誰も責める人なんていないっす」
いつもより、優しい眼差しと優しい口調でそう言うと、蓮姫は心落ち着いたのか、フッと瞼が落ち、スヤスヤと眠りに入った。
胸に抱えた赤子も、蓮姫の温もりに当てられ、スヤスヤと眠っている。あれ程、怖い目にあったにも関わらず、優しい顔で眠っている。
「さて……」
深い眠りに入った蓮姫をおんぶし、持っていた布で赤子を包み、首にさげた。
今だに、腰を抜かした盗人たちに顔を向け、にこやかに言った。
「行きますよ。牢獄に」
城に帰った蓮姫は約四時間も昏睡したまま、赤子はもとの母親のもとにヒビが帰した。
盗人たちはというと、狭くって冷たい牢獄の中に永久入ることになる。
そう、蓮姫が生きている限りの判決という事。永久にも近しい。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
はぐれ者ラプソディー
はじめアキラ@テンセイゲーム発売中
ファンタジー
「普通、こんなレアな生き物簡単に捨てたりしないよね?俺が言うのもなんだけど、変身できる能力を持ったモンスターってそう多くはないんだし」
人間やモンスターのコミュニティから弾きだされた者達が集う、捨てられの森。その中心に位置するインサイドの町に住むジム・ストライクは、ある日見回りの最中にスライムが捨てられていることに気づく。
本来ならば高価なモンスターのはずのスライムが、何故捨てられていたのか?
ジムはそのスライムに“チェルク”と名前をつけ、仲間達と共に育てることにしたのだが……実はチェルクにはとんでもない秘密があって。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる