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第三章 ファイルステージ
第47話 その先にあるもの…
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今でも、コポコポと沸騰しているマグマの池には、白い湯気が天にまで昇っていた。
「はぁ~」
木材とプラスチックでつくられた長いテーブルに頬杖をつき、ナミは深いため息をついた。その横で、いそいそと帰る身支度をしているカイト。ナミが食べたあと食い散らかしたお菓子の袋をポイッとマグマの池に捨てた。
ジュワと音をたて、深い層に落ちていく。
「帰りますよ」
「…生命体の反応なし。ここもダメか」
うーんと、体を捻り、足のつま先までピンと伸ばした。
「カミュ様が待ってます! 帰りますよ!」
母親の説教みたく、カイトはナミに怒鳴った。普段、パッチリな瞼で大きな赤目なナミがギュゥと細目になり、カイトを睨んだ。
「うっせいな。食ったあとだから、動きたくないんだよ」
「それは、自業自得ですよ! それに…―」
「終わ……った……?」
カイトの話しが遮り、入ってきたのはマネ。
身長が八尺ある長身な女がマグマの水面上に立っている。白い湯気が立ち竦む中、忽然と現れた。
顔も覆える帽子を被った彼女の視線はどこに向いているのか、わからない。
「マネ様……」
さきに応えたのはカイト。普段、見開かない目は飛び出しそうな程、驚いている。
「この世界に……生命体の……反応な……し。全て……終わった。カミュ、次の……世界に行く……準備して……いる」
淡々と呟くように言う。ボソボソともの言うマネの会話はおかげで、何を言っているのかカイト含むナミですらもわからない。
「マネー食ったから動けないー!! 船まで運んでちょ!」
軽いノリでナミがマネに懇願する。茶色の塗料に塗られた机を覆うように寝そべる。
マネはわかったと首を振り、ふわりと浮いた状態で個店に近づく。
船というのは、ナミたち一行があらゆる世界を行き来し、手段で使っている乗り物だ。
世界――即ち、パワレルワールド。
ある事柄によって、多々分岐点が別れている道、線だ。
この世でもはや、使われていない道具でつくられた、特殊な船。
ゲーム主催者側のリーダ格、カミュ。その者はカイトたちにとって崇められる存在であり、また、人間が崇拝する存在として知られる。そう、「神」という立場。
「あ~あ、やっぱ器として外せないなぁ、あの二人」
唇を尖らせ、二人がマグマの池へと落ちていった場所を好奇な目で見つめる。
灼熱のマグマの上で建っている白いコンクリートには誰もいない。埃、塵さえも、見かけない。
静寂に包まった空間には、ここで起きた憎悪と殺意がまだヒンヤリと残っている。しかし、それを発する者は既にいない。人一人いないこの空間を見渡し、ナミはマネと一緒にこの空間から消えた。
黒い雲で厚く覆われた空はピキピキと鏡を落としたように亀裂が入った。その下の大地は火山が噴火し、マグマが町を溶かし、絶壁で作られた壁の中まで海水が入り込み、街や村をどす黒い海の中に引きずり込む。
もはや、人が生き残る環境ではない。いいや、既にこの世には誰もいないのだ。生まれたての赤ん坊も年老いた老人も、病気で苦しんでいる若い子も、みんな、この世にいない。世界中、探しても、生存者は見つからないだろう。
なにしろ、颯負や心也が死と隣合わせとして命賭けで戦っていた最中、外の世界でも命賭けだったのだから。
まず、その発端がマネの能力、毒ガス。
広大な宇宙の星々、月、太陽へと無許可に毒ガスを蒔いた。そして、蒔いた直後、あとは簡単。空を見上げればみな、毒ガスを吸うのだ。
ファイナルステージへと、突入したあの三日目、既に人類の生命体の反応は消えていた。
そうとは、知らず、命をかけ涙を流し死んでいったゲーム参加した者たち。
これを何度も何百年も幾度となくやっているカイト達。無駄な抗いや背く希望を見て、どう思ったのだろう。それは、本人しか知る由もない。
亀裂が入った空に硝子のような輝くものが大地におちていった。大地は既に海水とマグマが一体化している。
大きな改装ビルや発展した街など、この人類には姿形もない。空が完全に割れ、海水が真っ二つに別れた。その亀裂は丸い地球全体に行き渡ると、片方の大地が崩れ宇宙の彼方に落ちていった。
この光景を見るのは幾分か。ナミは船から見える景色に中腰になって覗いた。
船の中はカイト、マネ、カミュと揃っている。カミュが船の操縦を操ると、ナミは椅子に腰掛け、カミュに訊ねた。
「よし! 準備整った! 次は何処?」
「次はまだ、戦争がある世界だ」
「うっわ、面倒くさ! 面倒臭いからさきに空中落としからやろかな? さきに脱出ゲームやったから失敗したんだよな~」
うわ言を大声で言うナミの横にカイトは今、流行っている漫画をパラパラ捲っている。
そう、一行が目指す場所は新たな地。そこに、カミュが求めている最愛の妻、ミオンを探す為。そして、そのミオンの器。
「はぁ~」
木材とプラスチックでつくられた長いテーブルに頬杖をつき、ナミは深いため息をついた。その横で、いそいそと帰る身支度をしているカイト。ナミが食べたあと食い散らかしたお菓子の袋をポイッとマグマの池に捨てた。
ジュワと音をたて、深い層に落ちていく。
「帰りますよ」
「…生命体の反応なし。ここもダメか」
うーんと、体を捻り、足のつま先までピンと伸ばした。
「カミュ様が待ってます! 帰りますよ!」
母親の説教みたく、カイトはナミに怒鳴った。普段、パッチリな瞼で大きな赤目なナミがギュゥと細目になり、カイトを睨んだ。
「うっせいな。食ったあとだから、動きたくないんだよ」
「それは、自業自得ですよ! それに…―」
「終わ……った……?」
カイトの話しが遮り、入ってきたのはマネ。
身長が八尺ある長身な女がマグマの水面上に立っている。白い湯気が立ち竦む中、忽然と現れた。
顔も覆える帽子を被った彼女の視線はどこに向いているのか、わからない。
「マネ様……」
さきに応えたのはカイト。普段、見開かない目は飛び出しそうな程、驚いている。
「この世界に……生命体の……反応な……し。全て……終わった。カミュ、次の……世界に行く……準備して……いる」
淡々と呟くように言う。ボソボソともの言うマネの会話はおかげで、何を言っているのかカイト含むナミですらもわからない。
「マネー食ったから動けないー!! 船まで運んでちょ!」
軽いノリでナミがマネに懇願する。茶色の塗料に塗られた机を覆うように寝そべる。
マネはわかったと首を振り、ふわりと浮いた状態で個店に近づく。
船というのは、ナミたち一行があらゆる世界を行き来し、手段で使っている乗り物だ。
世界――即ち、パワレルワールド。
ある事柄によって、多々分岐点が別れている道、線だ。
この世でもはや、使われていない道具でつくられた、特殊な船。
ゲーム主催者側のリーダ格、カミュ。その者はカイトたちにとって崇められる存在であり、また、人間が崇拝する存在として知られる。そう、「神」という立場。
「あ~あ、やっぱ器として外せないなぁ、あの二人」
唇を尖らせ、二人がマグマの池へと落ちていった場所を好奇な目で見つめる。
灼熱のマグマの上で建っている白いコンクリートには誰もいない。埃、塵さえも、見かけない。
静寂に包まった空間には、ここで起きた憎悪と殺意がまだヒンヤリと残っている。しかし、それを発する者は既にいない。人一人いないこの空間を見渡し、ナミはマネと一緒にこの空間から消えた。
黒い雲で厚く覆われた空はピキピキと鏡を落としたように亀裂が入った。その下の大地は火山が噴火し、マグマが町を溶かし、絶壁で作られた壁の中まで海水が入り込み、街や村をどす黒い海の中に引きずり込む。
もはや、人が生き残る環境ではない。いいや、既にこの世には誰もいないのだ。生まれたての赤ん坊も年老いた老人も、病気で苦しんでいる若い子も、みんな、この世にいない。世界中、探しても、生存者は見つからないだろう。
なにしろ、颯負や心也が死と隣合わせとして命賭けで戦っていた最中、外の世界でも命賭けだったのだから。
まず、その発端がマネの能力、毒ガス。
広大な宇宙の星々、月、太陽へと無許可に毒ガスを蒔いた。そして、蒔いた直後、あとは簡単。空を見上げればみな、毒ガスを吸うのだ。
ファイナルステージへと、突入したあの三日目、既に人類の生命体の反応は消えていた。
そうとは、知らず、命をかけ涙を流し死んでいったゲーム参加した者たち。
これを何度も何百年も幾度となくやっているカイト達。無駄な抗いや背く希望を見て、どう思ったのだろう。それは、本人しか知る由もない。
亀裂が入った空に硝子のような輝くものが大地におちていった。大地は既に海水とマグマが一体化している。
大きな改装ビルや発展した街など、この人類には姿形もない。空が完全に割れ、海水が真っ二つに別れた。その亀裂は丸い地球全体に行き渡ると、片方の大地が崩れ宇宙の彼方に落ちていった。
この光景を見るのは幾分か。ナミは船から見える景色に中腰になって覗いた。
船の中はカイト、マネ、カミュと揃っている。カミュが船の操縦を操ると、ナミは椅子に腰掛け、カミュに訊ねた。
「よし! 準備整った! 次は何処?」
「次はまだ、戦争がある世界だ」
「うっわ、面倒くさ! 面倒臭いからさきに空中落としからやろかな? さきに脱出ゲームやったから失敗したんだよな~」
うわ言を大声で言うナミの横にカイトは今、流行っている漫画をパラパラ捲っている。
そう、一行が目指す場所は新たな地。そこに、カミュが求めている最愛の妻、ミオンを探す為。そして、そのミオンの器。
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