―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第三章 ファイルステージ

第45話 託された想いと希望

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 狂っている程、弾を撃ち始める心也。とてもや、負傷しているとは思わない。それを避けている颯負のほうもだった。
 マグマのあつい熱がすぐ間近という中、希望と絶望の想いが入れ混じる。
 じんちょうではない暑さに、汗が服にピッタリとひっついている。
『お~と、また避けました! また撃ちます! これは些か長い攻防戦っ!』
 カイトが机の上に片足を乗せ、マイクを握りしめ、あつく実況している。それを見て、ナミは細目になり、声を低めた。
「おい」
「はい?」
「机の上は、食べもん食べる為に作られたの! 乗んな!」
 そう言って、お菓子をつまんだ手で足を虫のように払いのようとする。しぶしぶカイトは足を地に落とした。ジッと怪訝に机に広がったお菓子の袋を見る。
 灼熱の武闘会が始まるよりも、前、『解説者』という個店の中には汗拭きようのタオルとマイクが置いてあったにも関わらず、新商品のスナック菓子がいつのものか、机上に広がっていた。
 スナック菓子はトランプタワーのようにトントンと積み重ねている。
「もう、それ五袋ですよね? 食べ過ぎですよ」
「うっさいなぁ。あ、これナミのだから取んないでよね!」
 トランプタワーをグイグイと自分のほうに引き寄せる。狭い個店の中、並びあっている二人の距離はなぜか遠い。

 時間が刻一刻と迫っている中、中々、決着はつかない。それよか、与えられた「力」に負傷した体ではどんどん思考と体が食いつくされていく。
 しかし、颯負は忘れられない約束をずっと前にしたのだ。それは、自分を庇って死んだ想い人、菜穂との約束。
〝見てるから、絶望を希望にかえる世界〟
 これが、最後なら、自分は生きなくてはならない。約束を果たす為に。或いは、自分よりも前に死んだ人たちの為に。
 目の前にいる男を殺さなくてはならない。なにが何でも。
 そう、決心つくと最後の力で、あるものを引き出した。
 それは、この世のものではない武器。さきはナイフのように鋭く尖っており、取っ手やその付近には幾つにも鎖が巻き付いている。
 空想上を引き出すだけでも体力と頭がぐるぐるになるのに、この世のものではないものを生み出した途端、激痛が走った。

 血管がブチブチいい、なにかが弾け飛びそうだ。体の中の臓器も口から吐きそうなぐらい、気持ち悪い。動機がはやくなり、息切れが凄い。激痛に耐えられなく、しゃがみこんだ。
『それがあんたの生きる理由?』
 ふと、ナミが訊ねた。
 ゆっくりと個店のほうに顔を向けると、ニッコリと怪しげな笑みを漂わせたナミが颯負を見つめていた。
「生き…る…理由…」
『まぁさ、人にはさ、誰かがいるから生きるとか、なにか好きなもんがあるから生きてるとかあんもんね。ただ…死んだ人と交わして果たした約束は誰も見てくれない』
 まるで、見てきたかのように静かに言われた。
 何を言われたのか、分からず、暫くは呆然とナミの顔を見つめていた。ナミはずっと怪しげな表情でいる。その時、心也の当てずっぽうで当てた弾が颯負の足首をかすめた。
「しまっ…!」
 態勢を整えようと立ち上がろうとした。しかし、たった一つの弾丸が当たっただけが足首からどんどん痛みと熱さが体中に渡る。
『おーーと! 颯負選手、どうしたのでしょか? その先まで行けば…―』
 足元がフラフラ。目が霞む。しっかりと開いている筈の両目が黒い溝の眠りに入ろうとしてる。
 これが、死に際かと思った。ストンと何かが堕ちるように現状を知った。頭の中で、菜穂や玲緒、これまで出会った人物たちの顔や言葉が脳裏によぎる。それは、まるで走馬灯のように。

〝僕は誰かの為に死にたい!〟

〝託したから…―〟

〝ありがと…うれし〟

〝ナイトって呼ばれてる〟

〝あなたと出会えて本当に良かった〟

 ゆっくりと亡き人々の情景が広がっていく。まるで、生きていた頃のように温もりも。なんだか、暑いな。温もりって、こんなにも暑かったけ。近くで湯に茹でた水蒸気の湯気が背中に当たった。これはまるで、マグマじゃないか。
『お? お!? おーーとっ!! なんという事でしょう!! 颯負選手、マグマに真っ逆さまに落ちるではないかぁ!!』
 マグマ…。あぁ、そうか、俺は約束も果たせる事ができずに終わるのか。なんか、嫌だな。
 足元がふらつき、背中から倒れていく颯負がふと、目にしたのは、まだ、息がある心也の顔だった。
 死にかけの子猫を見るような哀れだ眼差しで颯負が落ちるまで見ている。
 回らなかった思考がやっと芽生え始めた。それまで、ポンプのような働きをしている心臓が止まったように神経が全て無反応だったのが、今、ここで、赤い血が血管を通った。
「ここで、くたばってたまるかぁーー!!」
「…………っ!?」
『おぉっと!!』
『あら、ま』
 寸前で落ちる所をやっと稼働した力によって、なんとか、元の態勢に戻った。怒声に似た大声をだし、心也に飛びついた。
「な、何を…!?」
「もう、お互い先はない。だったら一緒にいこうじゃないか」
 言葉の意味が分かった心也はさぁと血の毛が引き、化物の表情で牙を剥きだしにした。しかし、その力はあまりにも弱かった。飛びついたのち、離さないように体同士をくっつけ、腕をしっかりガードしたのだから。身動きも取れない筈。颯負に抱えられたまま、向かった先は赤いトマト色したマグマの池。

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