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第三章 ファイルステージ
第42話 人生初
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屋上から一人、外の様子を見学していたナイトは呆然としていた。爆発によって煙と突風。そして、現在、生きている人数を数えるとどうしようもなく、呆気にとらわれる。
外にいる颯負と心也は負傷。そして、今外敵から攻撃もされず、負傷もしていないのは…たった一人。
とりあえず、物を残したまま、屋上から去りリビングルームに向かった。ただ、状況の整理をつきたい為、柔らかいソファーに座りゆっくり休みたかったのだ。
階段を降り、真っ直ぐな廊下。そして、サイドにはそれぞれの個室。見渡す限り、まだ誰かがいるような空間。
ガチャリとドアが開くんじゃないかと思うぐらい何かが恋しかった。しかし、そんな事は起きない。そう、もう起きないのだ。
しぃんと嵐が去った空間はまるで、死体があるかのように寝静まり、ヒンヤリしている。ブルと鳥肌が立ちそうになった。
すると、ふと目にしたのは誰もいないリビングルームに灯りが灯っていた。
やや開いた扉の隙間に眩しい灯りが遮っている。そこから、一本の細長い光の道ができ、壁と廊下、そこだけ眩しくなっている。
しかし、おかしい。
ふと、そう思った。
明かりの消し忘れならある。が、どこか鈍った子どもの話し声なんて、普通聞こえない。この声はなんとも聞き覚えのある。ナミとカイトだ。
カイトとナミがなにやら、怪しい話しをしている。はっきりとは聞き取れない。だか、雰囲気的に、ゲーム参加者、つまり自分たちの事を話している。
そっと忍び足に、扉に耳を重ねた。
「……やはり、この世界もだめでしたか」
「ちょっと!テレビの邪魔、そこ退いてっ!!」
「聞いてますか?」
そっと片目を覗いてみる。
ナミは柔らかいソファーの上で雑魚寝し、もしゃもしゃおせんべいを食べている。テレビの近くでウロウロしているのはカイト。何をしているのかさっぱりわからない。
「いつまでこんなの続けるつもり?」
呆れ顔でナミが声をあげた。
「そりゃあ、カミュ様の妻、ミオン様を捜す為ですよ!!」
カッと目を見開き、怒鳴り散らすように言った。カミュ?ミオン?何を言っているのかさっぱりわからない。
ふと、何気なくカイトがこちらに振り向いた。今まで、気配も消し音も消したはずなのに。一瞬、肩が縮こまる。
〝逃げなくては〟と防御反応が神経の髄まで回った。しかし、真顔でこちらを振り向いた少年に、ドッと血圧が上がった。
「はぁ…疲れました。とりあえず、聞かれたので死んで下さい」
「は…―?」
カイトの指先から光のような光線が飛び出し、左胸に直撃。
「ブゴ…―!!」
訳がわからないものに攻撃され、血を吹き出した自分に驚き、尻もちをついた。器官がむせ、口から血が嘔吐した。血の味が口の中に充満し、気持ちが悪い。それに、さっきからこのむせ返る程の熱さが体から。熱さのせいか、目眩がする。
「はぁ、余計な手間を」
カイトが言う。
「あーあ。こんなに床を汚して。ま、終わったら綺麗にするけどさ」
ナイトが倒れている場所に膝をうちナミが言う。思考も視界もぐるぐるになり、全てが何を意味しているにかわからない。
ただ、自分はこれから死にいくという現状にあっさりと理解した。一人で誰からも見とられずこの世を去る事に寂しさが募った。
こんな感情を抱く事に、自分はまともな人間になっている事に今さら気づく。
「惜しかったよ!次は頑張れるといいね!」
ナミがにこやかに言った。
何が惜しいんだよ。死んだ事に?それに〝次〟って、死んだらもう…次なんて。
考える思考を放棄し、目の前が泥のようになっていく。痛みが酷いのに対し、眠気がさした。今までの出来事がまるで、走馬灯のように過ぎった。
本当にいろんな出来事。人を初めて殺した日、学校暴れた日、そしてこのゲームの始まりのあの日。何もかも初めてで斬新だった。
けど、今まさに初めて体験する事がある。
薄れゆく視界にそれだけを思う。
今まさに、初めて体験しているのは〝死〟。自ら死にいく事だった。
その人生初に渦をまきながら、泥のように眠りに入った。一生目覚めぬ眠りに。
人差し指と中指をくっつけ、帝斗の首筋にピトッと触れてみた。脈はなし。
「強き者は死に弱き者は生きる世界」
ふと、いつの日にかのカイトの言葉を口ずさんだ。
心也の足元には二体の死体が転がっていた。先程まで生きていた二人はもう、ピクリとも微動だにしない。
辺りが静寂に包まった。今、現在、生き残ってるのは心也と颯負。
颯負はさっきまで生きていた二人の亡骸を見つめた。
菜穂や玲緒が死んだ時にはこんな虚しさは感じられなかった。人が死ぬ散り際を見るのはこれが初めてじゃないのに、震えがきた。それは、右脇を負傷したから?
ふと、そんな時空中からナミが魔法少女みたく煙と現れた。遊園地のショーでみる白い煙。空中から現れ、ポテッと両足で着陸した。
「あれんま、やっぱあんたかい」
颯負を見るなり、呆れた物言いでそう言った。
「なんの事だ?」
訊ねるとナミは中腰になって颯負の顔を下から見つめた。
「寂しい? 孤独? なんのなんの、これからでしょ!!」
天真爛漫に嗤うナミの瞳には臆ついた颯負が映っていた。
外にいる颯負と心也は負傷。そして、今外敵から攻撃もされず、負傷もしていないのは…たった一人。
とりあえず、物を残したまま、屋上から去りリビングルームに向かった。ただ、状況の整理をつきたい為、柔らかいソファーに座りゆっくり休みたかったのだ。
階段を降り、真っ直ぐな廊下。そして、サイドにはそれぞれの個室。見渡す限り、まだ誰かがいるような空間。
ガチャリとドアが開くんじゃないかと思うぐらい何かが恋しかった。しかし、そんな事は起きない。そう、もう起きないのだ。
しぃんと嵐が去った空間はまるで、死体があるかのように寝静まり、ヒンヤリしている。ブルと鳥肌が立ちそうになった。
すると、ふと目にしたのは誰もいないリビングルームに灯りが灯っていた。
やや開いた扉の隙間に眩しい灯りが遮っている。そこから、一本の細長い光の道ができ、壁と廊下、そこだけ眩しくなっている。
しかし、おかしい。
ふと、そう思った。
明かりの消し忘れならある。が、どこか鈍った子どもの話し声なんて、普通聞こえない。この声はなんとも聞き覚えのある。ナミとカイトだ。
カイトとナミがなにやら、怪しい話しをしている。はっきりとは聞き取れない。だか、雰囲気的に、ゲーム参加者、つまり自分たちの事を話している。
そっと忍び足に、扉に耳を重ねた。
「……やはり、この世界もだめでしたか」
「ちょっと!テレビの邪魔、そこ退いてっ!!」
「聞いてますか?」
そっと片目を覗いてみる。
ナミは柔らかいソファーの上で雑魚寝し、もしゃもしゃおせんべいを食べている。テレビの近くでウロウロしているのはカイト。何をしているのかさっぱりわからない。
「いつまでこんなの続けるつもり?」
呆れ顔でナミが声をあげた。
「そりゃあ、カミュ様の妻、ミオン様を捜す為ですよ!!」
カッと目を見開き、怒鳴り散らすように言った。カミュ?ミオン?何を言っているのかさっぱりわからない。
ふと、何気なくカイトがこちらに振り向いた。今まで、気配も消し音も消したはずなのに。一瞬、肩が縮こまる。
〝逃げなくては〟と防御反応が神経の髄まで回った。しかし、真顔でこちらを振り向いた少年に、ドッと血圧が上がった。
「はぁ…疲れました。とりあえず、聞かれたので死んで下さい」
「は…―?」
カイトの指先から光のような光線が飛び出し、左胸に直撃。
「ブゴ…―!!」
訳がわからないものに攻撃され、血を吹き出した自分に驚き、尻もちをついた。器官がむせ、口から血が嘔吐した。血の味が口の中に充満し、気持ちが悪い。それに、さっきからこのむせ返る程の熱さが体から。熱さのせいか、目眩がする。
「はぁ、余計な手間を」
カイトが言う。
「あーあ。こんなに床を汚して。ま、終わったら綺麗にするけどさ」
ナイトが倒れている場所に膝をうちナミが言う。思考も視界もぐるぐるになり、全てが何を意味しているにかわからない。
ただ、自分はこれから死にいくという現状にあっさりと理解した。一人で誰からも見とられずこの世を去る事に寂しさが募った。
こんな感情を抱く事に、自分はまともな人間になっている事に今さら気づく。
「惜しかったよ!次は頑張れるといいね!」
ナミがにこやかに言った。
何が惜しいんだよ。死んだ事に?それに〝次〟って、死んだらもう…次なんて。
考える思考を放棄し、目の前が泥のようになっていく。痛みが酷いのに対し、眠気がさした。今までの出来事がまるで、走馬灯のように過ぎった。
本当にいろんな出来事。人を初めて殺した日、学校暴れた日、そしてこのゲームの始まりのあの日。何もかも初めてで斬新だった。
けど、今まさに初めて体験する事がある。
薄れゆく視界にそれだけを思う。
今まさに、初めて体験しているのは〝死〟。自ら死にいく事だった。
その人生初に渦をまきながら、泥のように眠りに入った。一生目覚めぬ眠りに。
人差し指と中指をくっつけ、帝斗の首筋にピトッと触れてみた。脈はなし。
「強き者は死に弱き者は生きる世界」
ふと、いつの日にかのカイトの言葉を口ずさんだ。
心也の足元には二体の死体が転がっていた。先程まで生きていた二人はもう、ピクリとも微動だにしない。
辺りが静寂に包まった。今、現在、生き残ってるのは心也と颯負。
颯負はさっきまで生きていた二人の亡骸を見つめた。
菜穂や玲緒が死んだ時にはこんな虚しさは感じられなかった。人が死ぬ散り際を見るのはこれが初めてじゃないのに、震えがきた。それは、右脇を負傷したから?
ふと、そんな時空中からナミが魔法少女みたく煙と現れた。遊園地のショーでみる白い煙。空中から現れ、ポテッと両足で着陸した。
「あれんま、やっぱあんたかい」
颯負を見るなり、呆れた物言いでそう言った。
「なんの事だ?」
訊ねるとナミは中腰になって颯負の顔を下から見つめた。
「寂しい? 孤独? なんのなんの、これからでしょ!!」
天真爛漫に嗤うナミの瞳には臆ついた颯負が映っていた。
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