―ミオンを求めて―スピンオフ世界

ハコニワ

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第三章 ファイルステージ

第48話 幾つかの星々

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 肩まで浸かる温泉にゆったりと浸かっていた。

「たった今、終わりました」
 全身白装束を着た顔も見えない女がそう言った。淡々となんの感情も篭っていない。その言葉を聞くたび、様々な感情がいきたたり、勝手に瞼が閉じる。真っ暗な視界に入る。

 温泉近くにあった紅葉の木から、ひとひらと一枚の紅葉の葉が湯船に落ちていった。くるくると捻りを廻し、水面に落ちるまで数秒間葉は風に乗って廻りだす。

 たった一枚の葉にそれ程の重さはないが、水面に少し触れ、落ちたとき、波紋が広がった。葉を中心に三つの波紋が水面に浮かぶ。
 鏡のように真っ平らだった水面上に波紋が広がるとそれはやけに大きく間を置き、広がり、やがては消えた。
「…そう」
 閉じた瞼をゆっくりと開けた。
 そして、湯船から立ち上がった。体中にお湯を取り巻き、立ち上がると真っ平らだったお湯が石段に押し上げ、荒れた。

 白装束を着た女が一枚のバスタオルを肩から乗せ着せた。
「ありがと」
 笑顔でそう告げると濡れた体を吹くようにバスタオルを着た。
 そして、濡れた髪の毛をこまめに吹き、脱衣場に向かった。

 いつも、着慣れた服に着込む。その時、袖や内の中を皺のないように整えた。何故か、「終わった」と告げられると〝次の段階〟に移らなければいけないのだ。その心の意気込みだと思う。
「ミオン様」
「わかっている」
 服を着込んだのを見て、女が現れた。
 最初に現れた白装束の女とは違う別の女。みな、白装束を着て誰か誰だかわからないが、主であるミオンはわかるのだ。
 ミオンはふぅと深い深呼吸をし、女に顔を向けた。

「準備はいいわ。さぁ、行きましょう」
 優しくそう言って、ある部屋に向かった。

 長い金髪に碧青目の持ち主。細い体に魅力的な存在感を放っている。

 そう、この物語の最重要人物。ゲーム主催者側の主犯格、カミュの探し人、ミオン。

「ミオン様、これで」
 部屋に辿り着いた直後、後ろでついてきた女がそう告げ、フッと消えた。
 何処に行くにもなにをするにも、全身に白装束を着た女が現れるのだ。
 ミオンは扉の前に立った。見渡すと他の部屋となんら変わらない。木でできた骨組みの両面に紙と布を貼った襖の部屋。

 襖の左真ん中に黒くって丸い取っ手が窪んである。そこに手をかざす。ゆっくりとスライドさせてみた。木材と襖が擦れる音はなんとも心地良い。

 部屋は真っ暗でなんの照明もついていない。にも、関わらず、薄萌葱色に広がった糸のように小さい線が細切れに部屋中に広がっている。明かりがついてない部屋で薄萌葱色の線だけが輝いていた。
 電子回路のように真っ直ぐな線と途中から砕けている線がある。その線は決して一つにまとまらないし、交わりもしない。一つの線から幾つにも分岐点が別れている。
 まるで、夜空の星々だ。
 幾つにも別れた線が流れ星のよう。
 部屋の壁際に一本だけ薄萌葱色が絶えている。機械の故障のように光が絶え、なんの反応もしめさない。
 その線を人差し指でなぞって触ってみるとその世界がどんなものか情景が頭の中に映画のワンシーンのように刷り込んでくる。
 一つ、一つ、一つのシーンが細切れに再生し、頭の中にどんどん吸収してく。

 最後のワンシーンを見終わると閉じていた瞼をゆっくりと開けてみた。微かに線の中に歯車のようなものが浮き出ている。光が絶えているのと同じ、歯車もとまっている。
 ミオンはそれに手を翳してみた。すると、とまっていた歯車がガタガタと反応し、ゆっくりと右に回った。歯車が動いた数秒後、線の中の薄萌葱色がポワッと蛍のように色が戻り始めた。
 ストローで液体を吸ったように上から途絶えている場所まで色がスゥと戻る。
 それを確認したミオンは一息つき、部屋をあとにした。
「ミオン様」
 部屋を出た直後、また白装束の女に声をかけられる。何?と訊ねる前に女が口を開いた。
「五〇〇一回目の世界にあちらは既に到着したもようです。どうされますか?」
「あら。そうなの。早いわね」
 呑気な口調でそう言うと、ミオンはフッと囁くように笑った。
「五〇〇四回目の世界『長寿の世界』まで待ちましょう。まだ、早いわ」
 女の横を通り過ぎ、にこやかに言った。
 眉をややハチの字の曲げ困っている笑み、だが、薄っすら両目が輝いている。

 この時、ミオンがどう思ったのか誰も理解できない。知るのはただ、本人だけ。
「お茶を用意してくださる? 気長に待つのは退屈だし」
 風のように透き通る声でミオンが言った。
「はい。かしこまりました」
 女は深々と頭を下げ、スゥと闇の中に消えた。一人、廊下で立ち竦んでいるミオンは、静かに息を吸った。頭の中で思い浮かんでいるのはある人物の顔。

 カミュだ。ミオンはずっとずっと前から何世紀に渡って、カミュがした行為を眺めていた。いつか、自分自身で我を知り、止まる事を待ちながらも。しかし、それはついには来なかった。

 神が人を殺めるなど、禁止行為だ。
 それを止める為、ミオンは膨大な力を得て、次なる世界に臨んだ。
「…首を洗って待ってなさい」
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