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第三章 ファイルステージ
第43話 灼熱の武闘会
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ふと、こんな時、こんな場所にナミがいるのに違和感を感じた。まだ、人数減りゲームの決着はついていないはず。まだ、一人、生き残っている。確か、あの時、犬飼にブーケのように空から落とされ、キャッチされた男。あの時はまだ、爽やかだと思ったが今やどす黒いなにかが辺りを囲んでいる。
そういえば、雪戸が死ぬ直前、あの男の心臓を刺したんじゃないか。なら、なんでまだ生きている。
「胸のとこにプラスチックを貼ってあったんじゃない?」
またしても、心を読まれたのかナミがさも当たり前に口ずさむ。しかし、裏腹に表情は興ざめている。
「そんな…だったら雪戸が頑張った意味が…」
「無駄だったね」
落胆している颯負と違い、にこやかに笑みを漂わせナミが言った。それについて、つい腹ただしさが芽生える。鍋に煮たお湯がコポと泡を吹いたような。
「…どうしてここにいる?」
怒りを抑え、やや憤然とした声でナミに訊ねた。ナミは唇の骨格をさらにあげると、数メートル距離を離れ、スカイダイビングのように高くジャンプした。
『ピーンポーンパーンポーン!! やっと決まりました運命の日です!!』
ジャンプし、くるりと反転、着陸したのち、片手にマイクを持ち大声をだした。キーンと耳につんざくノイズとナミの声が辺りにこだまする。
すると、突拍子なく辺りの光景が変わった。運動場だったのが、『フィナーレ』と華々しく書かれた旗と武闘会とも思える程の大きな四角い台に立っていた。
周りには無人の客席が張り巡らせている。
少し離れた先で対面しているのは心也だ。運動場では離れた先にいたはずが、この道場では対面している。
熱い。さっきからなにかが熱い。足元に鉄板があるのではないかと、思わず見下ろした。しかし、足元には白いコンクリートでつくられた道場床があるだけ。
熱い、と思ったのは台の外が灼熱のマグマだったからだ。コポコポと湯気をたち、泡を吹いている。赤く発光しているマグマはこの世の全てを焼け溶かすよう。
台の外から客席までマグマが覆い尽くしている。逃げ場はない。
たちまち、額から脂汗が浮き出た。
『それでは自己紹介します。実況解説のカイトと申します』
『同じくナミでーす!』
道場、マグマというスペースから離れた先に『解説者』と書かれた汚い文書でちいさな個店が置いてあった。そこには二つのマイクと多めのタオルが置いてある。突き出たマイクの先には主催者側のカイトとナミが呑気に頬杖をつき、腰掛けていた。
二人はクイズ番組でみる司会者の格好をしている。きらびやかで蝶ネクタイをつけている。背丈も体つきも同じなのか、並ぶと双子そっくりだ。
『いや~やっと決まりましたね。まぁ、これもまたお約束の生き残り者ですけど』
カイトがマイクを持って、すぐ隣にいるナミに言う。ナミはややご不満な面持ちでカイトを恨めしげに見る。
『近けんだよ! 熱いんだよクソが! あとこの格好、やっぱダサいわ』
シュルと蝶ネクタイを外し、マグマにポイと捨てた。
『あーあ!! 日本では実況者はみなこの格好していると〝ネット〟では言ってたのに!!』
『みんな、じゃねぇだろ』
ちいさな個店の中で二人は蹴ったり、踏んだり、争っている。普通のこの状況なら、仲睦ましいが、こんな訳わからない状況下そんな争いを見てもどうも思わない。
「おい、どういう事だ! 説明しろ!」
颯負が叫ぶと、個店で争っていた二人の動きがピタッと石のように止まった。そして、颯負の顔をジロジロと見上げる。
「1体1になったから」
ボソッと対面する男が口を開いた。思わず、顔を向けると負傷している人間の顔つきじゃない禍々しい顔をしている。
「人数減りゲーム、最終的には人数が多いほうを勝者とするけど、今は、もうどちらとも一人しかいない。そこで『この世でたった一人』を決めるんだと思う」
確かに。
颯負は開いた口が塞がらなかった。こんな緊迫とした空気の中、目の前にいる人物は淡々と冷めたふうにものを言った事に驚きもある。
『えー。ごっほん』
カイトが咳払し、颯負は再び個店のほうに顔を向けた。そこには、態勢を整え、落ち着いた風貌に腰掛けている二人がいた。
『先程は失礼しました。こちらも時間に追われている身なのに』
灼熱の炎で益々、少年の紅い瞳がギラついている。
「時間…?」
訊ねると少年が初めての笑顔を見せ、応えた。
『はい! 先程、久保さんが仰っている通り、人数減りゲームはこの際、クリアしたと思い、残った二人はこの灼熱の武闘会で決着をつけたいと思います』
少年が対面する男のほうに綺麗に手を翳し、マイクに言った。だが、しかし、時間に追われているというのはどういうのか全く訳わからん。
少し間を置き、マイクで語ったのがナミ。
それまで、頭を整理しようと口を閉ざしていた。コポコポと沸騰するマグマの音で思考が微かに揺れる。
『体力に思考、判断力に五感、そして、運…。まだ、あんたたちにはレッスンとして挑戦していないのがあんの』
最初に語ったのはいつかの言葉。
あの時は、こんなフィナーレになるとは考えなかった。ナミはポツリポツリと喋りはじめた。
そういえば、雪戸が死ぬ直前、あの男の心臓を刺したんじゃないか。なら、なんでまだ生きている。
「胸のとこにプラスチックを貼ってあったんじゃない?」
またしても、心を読まれたのかナミがさも当たり前に口ずさむ。しかし、裏腹に表情は興ざめている。
「そんな…だったら雪戸が頑張った意味が…」
「無駄だったね」
落胆している颯負と違い、にこやかに笑みを漂わせナミが言った。それについて、つい腹ただしさが芽生える。鍋に煮たお湯がコポと泡を吹いたような。
「…どうしてここにいる?」
怒りを抑え、やや憤然とした声でナミに訊ねた。ナミは唇の骨格をさらにあげると、数メートル距離を離れ、スカイダイビングのように高くジャンプした。
『ピーンポーンパーンポーン!! やっと決まりました運命の日です!!』
ジャンプし、くるりと反転、着陸したのち、片手にマイクを持ち大声をだした。キーンと耳につんざくノイズとナミの声が辺りにこだまする。
すると、突拍子なく辺りの光景が変わった。運動場だったのが、『フィナーレ』と華々しく書かれた旗と武闘会とも思える程の大きな四角い台に立っていた。
周りには無人の客席が張り巡らせている。
少し離れた先で対面しているのは心也だ。運動場では離れた先にいたはずが、この道場では対面している。
熱い。さっきからなにかが熱い。足元に鉄板があるのではないかと、思わず見下ろした。しかし、足元には白いコンクリートでつくられた道場床があるだけ。
熱い、と思ったのは台の外が灼熱のマグマだったからだ。コポコポと湯気をたち、泡を吹いている。赤く発光しているマグマはこの世の全てを焼け溶かすよう。
台の外から客席までマグマが覆い尽くしている。逃げ場はない。
たちまち、額から脂汗が浮き出た。
『それでは自己紹介します。実況解説のカイトと申します』
『同じくナミでーす!』
道場、マグマというスペースから離れた先に『解説者』と書かれた汚い文書でちいさな個店が置いてあった。そこには二つのマイクと多めのタオルが置いてある。突き出たマイクの先には主催者側のカイトとナミが呑気に頬杖をつき、腰掛けていた。
二人はクイズ番組でみる司会者の格好をしている。きらびやかで蝶ネクタイをつけている。背丈も体つきも同じなのか、並ぶと双子そっくりだ。
『いや~やっと決まりましたね。まぁ、これもまたお約束の生き残り者ですけど』
カイトがマイクを持って、すぐ隣にいるナミに言う。ナミはややご不満な面持ちでカイトを恨めしげに見る。
『近けんだよ! 熱いんだよクソが! あとこの格好、やっぱダサいわ』
シュルと蝶ネクタイを外し、マグマにポイと捨てた。
『あーあ!! 日本では実況者はみなこの格好していると〝ネット〟では言ってたのに!!』
『みんな、じゃねぇだろ』
ちいさな個店の中で二人は蹴ったり、踏んだり、争っている。普通のこの状況なら、仲睦ましいが、こんな訳わからない状況下そんな争いを見てもどうも思わない。
「おい、どういう事だ! 説明しろ!」
颯負が叫ぶと、個店で争っていた二人の動きがピタッと石のように止まった。そして、颯負の顔をジロジロと見上げる。
「1体1になったから」
ボソッと対面する男が口を開いた。思わず、顔を向けると負傷している人間の顔つきじゃない禍々しい顔をしている。
「人数減りゲーム、最終的には人数が多いほうを勝者とするけど、今は、もうどちらとも一人しかいない。そこで『この世でたった一人』を決めるんだと思う」
確かに。
颯負は開いた口が塞がらなかった。こんな緊迫とした空気の中、目の前にいる人物は淡々と冷めたふうにものを言った事に驚きもある。
『えー。ごっほん』
カイトが咳払し、颯負は再び個店のほうに顔を向けた。そこには、態勢を整え、落ち着いた風貌に腰掛けている二人がいた。
『先程は失礼しました。こちらも時間に追われている身なのに』
灼熱の炎で益々、少年の紅い瞳がギラついている。
「時間…?」
訊ねると少年が初めての笑顔を見せ、応えた。
『はい! 先程、久保さんが仰っている通り、人数減りゲームはこの際、クリアしたと思い、残った二人はこの灼熱の武闘会で決着をつけたいと思います』
少年が対面する男のほうに綺麗に手を翳し、マイクに言った。だが、しかし、時間に追われているというのはどういうのか全く訳わからん。
少し間を置き、マイクで語ったのがナミ。
それまで、頭を整理しようと口を閉ざしていた。コポコポと沸騰するマグマの音で思考が微かに揺れる。
『体力に思考、判断力に五感、そして、運…。まだ、あんたたちにはレッスンとして挑戦していないのがあんの』
最初に語ったのはいつかの言葉。
あの時は、こんなフィナーレになるとは考えなかった。ナミはポツリポツリと喋りはじめた。
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